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3章 12

 影渡りで地上に降りて準備を済ます。俺もアイテムボックスの取り出しやすい位置に、捕縛用の魔道具などを配置しておく。

 

 また武器も、攻撃する度に確率でランダムな状態異常を付与する『サイドエフェクト』という短剣に持ち替える。


 サイドエフェクトは攻撃力は然程高くないが、今回のように殺さないようにしたい時には便利な武器だ。


「それでは行きまーす」

「ああ」


 ユルマズの返事を聞いて、俺は隠遁を発動した。




 壁を抜けて建物内の影に入り、まずは索敵スキルを掛けるが、やはりセキュリティに阻害されるので諦める。


 それじゃあ出ましょうか、とユルマズの肩を叩いて合図をして影から出る。


 すると、建物内にセキュリティの警報が鳴り響き、建物内は蜂の巣をつついたような騒ぎになる。


「なんだお前らは!」

「どっから入ってきた!」


 などと騒がしいが、ユルマズは表情を変えずに冷静に周囲を見回し、階段を見つけたら地下に降りていく。


「何やってんだお前!」


 と、ユルマズを止めようとする者もいるが、まあユルマズなら大丈夫だろう、と放置して俺はイガラシを探す。


「イガラシくーん、いるー?」


 周囲を見回して呼び掛けるが、一階には見当たらない。


 二階かな? と階段を上がろうとすると、突然のことに混乱していたイガラシ軍の兵士らしき男達も動き出す。


「てめえ、何のつもりだ!」

「行かせるかよ!」


 一階に残っていた四人が襲いかかってくるので、サイドエフェクトで数回攻撃すると、二人を麻痺、残りを石化と混乱で無力化できたので、魔道具で拘束しておいた。




 さて、と二階に上がろうとすると、ガシャン! とガラスが割れるような音が派手に鳴る。


「ユルマズさん、外ー」


 と地下に向けて声を掛けると、「わかった」と声が返ってくるので、俺は先に建物から出て索敵スキルを掛ける。


 マナの動きを見ると、建物の裏手では六人の集団が三人ずつで二手に分かれ、左右の脇道から出てこようとしていた。


 ただ、俺はマナの雰囲気でイガラシがどちらにいるのかすぐに分かる。建物から出てきたユルマズに指示を出す。


「左から来ますよ」

「そうか」


 二人で左の脇道の出口で様子を窺うが、イガラシ達は警戒して足を止めてしまう。索敵スキルで見てみると、先に右側の三人が出てきそうだ。


「あー、先にあっちから三人出てきそう」

「わかった、私が行こう」


 ユルマズが右側の脇道に向かうとイガラシの仲間が脇道から出てくるが、たちまちユルマズに制圧されてしまう。


 あっちは問題なさそうだと判断し、イガラシに呼びかけてみる。


「おーい、出ておいでー」


 優しく声を掛けてみるが、返事はないし、出てくる気配もない。


 うーん、どうしよっかなぁ。素直に出て来てくれるのが一番ありがたいんだけどなぁ。


 悩んでいると、ユルマズが大きな声で言う。


「私が裏から回ろう」


 ユルマズは右側の脇道にゆっくりと入って行くので、俺は親切心でイガラシ達に警告する。


「おい、今お前らの背後を突こうとしてるのは、武の国ランドレスでも最強の人だぞ! 早く出て来た方が良いぞ!」


 イガラシ達は少し悩んだようだが、流石に挟み撃ちは不味いと思ったのか、


「わかった! 今出る!」


 と言うと、三人の男が順番に出てくる。ふうん、今回は女連れじゃないんだな。


 ユルマズも拘束した三人は放置してこちらに向かって来て、三人に声を掛ける。


「私はランドレスのローテム・ユルマズだ。ショウタ・イガラシを引き渡してもらいたい」


 イガラシ達はどうするかな、と見ていると、イガラシの左に立つ男が口を開く。


「それはできない」

「そういうわけにはいかない」


 ユルマズは男の言葉を一言で斬り捨てる。しかし男は食い下がる。


「お前達に何の権限があって俺達の邪魔をするんだ!」


 しかしユルマズは冷静に答える。


「貴様等にキュージャンとカキンを掠め取る権限があったか?」

「キュージャンとカキンは我等の力で正々堂々と戦い勝ち取ったものだ!」

「ふむ、貴様等が正々堂々と戦ったかどうかは議論が分かれるところだが、私達も正々堂々と戦いキュージャンとカキンを奪い取ったぞ」


 そうだね。イガラシ達は魅了の力で二国を盗んだんだからね、正々堂々と戦ったは言い過ぎだろう。


 イガラシの左に立つ男は、それでもなお反論する。


「だから、これは我々とキュージャン、カキンの戦いだ。それに何故お前達が横槍を入れてくる!」

「カキンに救助を求められたからだ」

「ならばキュージャンにはお前達は関わりがないだろう?」

「カキンの横に貴様等がのさばっていたら、私達が引き上げた後再びカキンを盗み取ろうとするだろう。キュージャンからも追い出す必要があるし、そちらのイガラシ殿に好きに動かれるわけにはいかない」


 正論ですねぇ。至極冷静なユルマズと、感情に任せた男の議論では勝負にならない。


 ここでイガラシが口を挟み、彼等の混乱も増す。


「あ、あの、わかりました。貴方達に大人しくついていくので、彼等のことは解放してあげて下さい」

「な、何を言ってるんだ! 馬鹿なことを言うな!」

「そうだ! ショータだけが犠牲になる必要はない!」

「良いんです。俺が行けば済む話なんだから」


 などと、向こうは向こうでなんだか盛り上がっているけれど、勝手に決められても困るなぁ。


「あのさぁ、イガラシくんだけじゃなくて、周りの全員も捕縛するよ?」


 と、今度は俺が横から口を挟む。すると、イガラシが随分と慌てて俺を見る。


「え、なんで!? 君達が欲しいのは僕だろう? 彼等は関係ないじゃないか!」


 何を言ってるんだこいつは、と呆れているとユルマズが説明してくれる。


「関係ないわけがないだろう。貴様等は全員で国を盗み取り、全員で我々ランドレス王国と戦っているんだ。全員が主犯だぞ」

「そんな! で、でも、貴方達が必要なのは俺でしょう? 彼等は許してあげて下さいよ!」


 イガラシは必死だが、ユルマズは揺るがない。


「君達が欲しいのは、とか、貴方達が必要なのは、とか、貴様は何か勘違いしてないか?」

「え?」

「私達は貴様の魅了などという力は必要としていない。貴様を捕縛するのは、貴様がこれまで掛けてきた魅了を解除させ、今後魅了を悪用させないためだ」


 イガラシは一瞬固まるが、解除するとユルマズに反論する。


「悪用なんてしてません! 俺は国のために魅了を使ったんです!」

「貴様はスキルで人の精神を操り、二国を盗み取るのが悪用ではないと言うつもりか?」

「く……! で、でも!」

「もう良い。悪いがこれ以上ガキの理屈には付き合ってられん」


 おぅ……ガキの理屈か。見た感じイガラシはユルマズより年上っぽいけどな。四十代とか?


 あれだな、なんかこう見ると言動と実際の年齢にギャップがあるような……。


 と、そんな下らないことを考えていると、イガラシの右側に立つ男が小さく口を開く。


「ショータ、呼んで良いぞ」

  

 イガラシは右の男の言葉に驚いて反応する。


「え、でもそれは……」


 左の男は少し驚いたようだが、頷いた。


「お前……そうだな、この状況ならそれしかないか。イガラシさえ生き残れば」

 

 イガラシは二人の言葉にひどく悲しげな表情になる。


「そんな、二人には助けてもらってばっかりで、まだ何も返せていないのに」

「そんなことはない。お前と過ごしたこの二年は何者にも代え難い思い出だ。お前と出会えて良かったよ」

「ああ。お前さえいれば『アート・ラディン』の未来は明るい。遠慮なくやれ!」


 ふむ、中々感動的だけど、思うところもある。彼等二人は果たして魅了に掛かっているのかどうか……。それにアート・ラディン? 国の名前かな? それに「呼んで良いぞ」とか、「イガラシさえ生き残れば」とか。


 イガラシには、イガラシ以外は味方であっても殺し尽くす、ナニカを呼ぶ力があるってことか?


 ユルマズと目を合わせると、ユルマズは頷く。しゃーない、ヤルか。


 サイドエフェクトをアイテムボックスにしまい、現在のメイン武器の『サンダークラック』を手にし、隠遁を利用してイガラシの背後を取って背中に短剣を突き刺すも、やはりイガラシは結界に守られていた。


 ガキン、と音を立てて結界が割れて衝撃に襲われるが、今回は結界が張られているだろう、と読んでいたので踏ん張ることができ、即座に二撃目をイガラシの背中に入れると、無事にダメージが通る。


「ガハッ!」


 イガラシは両手両足を地面につけ、動きを止めたので魔道具で拘束しようとするが、ここで邪魔が入る。


「やらせるか!」

「ショータから離れろ!」


 左右の護衛に突撃され、俺は舌打ちをして一歩退く。二人は更に言う。


「ショータ、迷うな!」

「お前が生き延びてこそだ! やれ!」


 俺は少し迷ったが、結局見守ることにした。殺して良いのなら話は楽なんだけどね。拘束の魔道具も、一定以上の力で抵抗されると効果が発動しないので、無理が効かないんだよね。


 そしてイガラシも、遂にその気になったようだ。


「くそおおぉぉぉぉ! みんなごめん! 悪鬼よ、来い!」


 来い? 召喚魔法か?



 

読んでいただきありがとうございます

よろしかったらブクマ、評価のほどよろしくお願いします

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