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3章 10

 地図を見てみると、キュージャンは東方山岳地帯の中にポツリとある空白地帯のような国だった。


 山岳に包まれた盆地に作られた国で、この辺りでは珍しく傾斜の少ない国だ。ただし、キュージャンは国の中央に近付くにつれて林が広がり、大舞台を展開するのが難しくなるようだ。


 だがノールさんの表情は変わらない。


「面倒と言えば面倒だが、キュージャンも条件は同じだからな。目標と目的地を定め、小隊単位で慎重に進めば良い。物資は十分にある」


 そして機動力が高く、遊撃部隊を率いるクリスも続く。


「第三軍団はこういう地域はむしろ得意ですね。斥候、遊撃、強襲、何でもやるんで任せてください」

「そうだな。待ち伏せや罠も多そうだからな、第三には活躍してもらうことになるだろう。だがまずは目の前の戦だ」


 そこから副官も交えて目前の街をどう攻め取るか、の話になるが、戦争の話になると俺は部外者なので口を挟めない。




 ノールさんはここ数日の戦闘で街の防衛機能の攻めどころを掴んでいたようで、話し合いはスムーズに進んだ。


 すごく簡単に言えば、第二軍団で防衛機能の弱い部分を攻め、第三軍団が伏撃で首都からの援軍を叩いて止める。


 この辺りは開けていてしっかり軍を展開できるので、油断をしなければ一月も掛けずに攻め取ることができるだろう、とのことだ。


 そして俺はと言えば、再びの自由時間だ。




 俺はノールさん達が街を占領するイガラシ軍を攻めている間、距離を置いて彼らの戦いを見守った。


 一応横合いから邪魔をするものがいれば阻む準備はしていたけれど、俺は戦争というものを知らなかったので、純粋に学ぶ気持ちで見ていた。


 そして戦いは、やはり地力の差があるのだろう。余計な小細工をせず正面から攻めるが、イガラシ軍は押し返すこともできず、守ることで精一杯の様子だ。城壁などの防衛機能がなければ早々に敗走していたことだろう。


 実際、翌日にはキュージャンの首都から援軍が駆けつけてきたが、援軍は防衛機能など何もない平原で待ち伏せていた第三軍に叩かれ、あっという間に首都に逃げ戻っていった。


 援軍を散々に叩いた第三軍が、「援軍は尻尾巻いて首都に逃げちまったぞ」と囃し立てると、街に籠もるイガラシ軍の士気も落ちていく。


 二日後、イガラシ軍は再び援軍を送り出すが、今回は兵を伏せずに堂々と待ち受ける第三軍にこてんぱんに叩きのめされ、這々の体で首都に逃げ帰ってしまう。


 街に籠もるイガラシ軍もこれは流石に効いたようで、翌日正門を開いて降伏の使者を送り出した。


 ノールさんは一月も掛けずに済むと言っていたが、実際は一週間も掛からなかった。


 王国軍は、イガラシ軍が退いた街の中の駐屯地に拠点を移す。


 戦後処理や今後の方策など、ノールさん達は夜遅くまで忙しくしていたので、俺は邪魔しないよう自身のテントで大人しくしていた。


 翌日、早朝から駐屯地内を散策していると、今回の戦で亡くなられた死者を埋葬した墓地を見つけた。


 一週間も続かず、完勝に近い戦いだったので死者の数は少ないが、それでも戦争をすれば確実に死者が出る。王国まで連れて帰る余裕はないので戦地で埋葬することになってしまうと言う。


 昨日の今日なので、早朝でも多くの兵士が墓地に集まっている。軍人ではない俺が顔を出すと場の空気を乱しかねないので、少し離れた場所から合掌して冥福を祈ることにした。




 街からイガラシ軍を追い出したノールさん達は、少しの間忙しそうにしていた。


 戦後処理ももちろんだが、街の住人に王国軍はキュージャンを占領しに来たのではない、と理解して貰う必要があり、ユルマズが中心になって街の住人と話し合う必要があったからだ。


 話し合いが済んでからも、戦争で荒れた街を復興するために小隊を三部隊回したりしていた。


 そんなことをしていると首都から街を奪回するための部隊が押し寄せて来るが、ノールさん達は防衛機能も利用して蹴散らしてしまう。


 また俺が遠目から調べた限りでは、今回のイガラシ軍にはイガラシの姿は見えなかった。まあ以前接触した時には、イガラシに戦闘力があるとは思えなかった。


 やはりイガラシは魅力を活用するために軍に所属している、あるいはさせられているだけで、積極的に戦闘に参加することはないのかもしれない。


 戦後処理を終えて落ち着いた頃を見計らって、久し振りにユルマズのテントに顔を出した。


「こんばんはー」

「お、シローか。元気にしてたか?」

「うん、元気元気」


 クリスが笑顔で出迎えてくれる。ノールさんもニヤリと笑って言う。


「おう、来たか。そろそろ俺達も動くから、お前の出番も近いぞ」

「お、遂に? あ、ありがと。いただきまーす」


 ユルマズが紅茶を出してくれたのでお礼を言って頂く。ちなみに、ユルマズが紅茶を用意してくれている間、ユルマズの副官はピクリとも動かなかった。


 一口飲むと、ちゃんと美味しい。魔法で温めただけに見えたけど、なんかコツがあるのかなぁ?


 ノールさんはクリスに確認する。


「そろそろイケるか?」

「ええ、粗方調べられたと思います」


 ああ、そっか。最近動きがなかったのは第三軍を斥候に出していたからか、と理解した。


 キュージャンの首都は林に囲まれているので、首都に向かうためには罠や待ち伏せ兵が仕込まれた林を抜ける必要がある。第三軍は総出で首都までの道を調べていたのだろう。


 ノールさんは落ち着いた表情でクリスに聞く。


「イガラシの居場所は掴めたか?」

「いや、流石に警戒されていて。怪しい場所は二、三箇所に絞れたんですが」


 クリスが横に首を振って答えると、ノールさんは頷いて言う。


「十分だ。シローと情報を共有しといてくれ」

「了解です」


 クリスはノールさんに答えると俺の顔を見た。




 クリスが個人的に作った地図を通信モニターでコピーしてもらい、イガラシが潜伏していると思われる場所を教えてもらった。


 情報の共有を終えてクリスがノールさんを見ると、ノールさんは気楽な調子で言う。


「じゃあそろそろ……明日出るか?」


 するとクリスも気軽に同意し、ノールさんに確認を取って副官に指示を出す。


「了解っす。おい、みんな練兵場に集めといてくれ……一時間後で良いですか?」

「ああ、良いんじゃないか。頼むぞ」


 副官達はクリスとノールさんの指示を聞くと、テキパキとテントを出ていった。


 副官達がテントから出ていくと、ノールさんは俺の顔を見る。


「俺達が戦闘を始めたらシローの出番だ。戦闘の混乱の隙をついてイガラシの居場所を突き止め、チャンスがあったら攫ってこい。まだ殺さないようにな」

「オッケイっす」


 俺が頷くと、ユルマズが横から口を挟む。


「それでは、私はシローのサポートをしよう」

「へ?」


 俺が驚いて声を漏らすと、ノールさんも驚いてユルマズに聞く。


「戦争手伝ってくれないの?」

「これまでの戦いぶりを見るに、私の手は必要ないでしょう」

「まあ……油断さえしなけりゃまず負けることはないと思うが」


 ユルマズは淡々と答える。確かに軍の練度とか強度とか、差はあるよな。


「前回イガラシの捕縛に失敗したことで、警戒が高まっていると思われます。再び取り逃すと面倒なことになりますので、万全をきすべきだと思います」

「ふむ、一理あるか……」


 ノールさんが納得すると、ユルマズは俺に尋ねる。


「シロー、パーティを組んでいればアサシネイトモーションは私にも効果はあるのか?」

「あー、どうだろ。試したことなかったな」

「じゃあ試してみよう」


 そう言うと、ユルマズはメニューからパーティ参加を申し込んできたので承認する。そして早速アサシネイトモーションを発動しユルマズを確認すると、微かにユルマズの姿がボヤケて見えた。


「成功してる?」


 確認すると、クリスは頷く。


「ああ、間違いなく発動してるが、いつもよりは効果が薄いか?」

「そうだな。いつもはもっと存在感が薄くなるからな」

「へぇ」


 アサシネイトモーションってこんな感じになるんだ。第三者視点で見るのは初めてだった。


 ユルマズは頷いて言う。


「効果は多少薄いか。まあ消音魔法もあるし、何とかなるだろう」


 アサシネイトモーションがユルマズにも効果を及ぼすことを確認すると、ノールさんが締める。


「そんじゃあ明日は第二第三で首都を攻めて、二人はイガラシ捕縛ってことで」


 各々返事をすると解散し、自身のテントに戻った。


 


 

3章は想定外に長い話になりましたが、もう少しだけ続きます

よろしくお願いします


読んでいただきありがとうございます

よろしかったらブクマ、評価のほどよろしくお願いします

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