3章 9
ユルマズとのおしゃべりを終え、自分のテントに戻ったらお酒が入ってたこともあり、すぐに寝てしまった。
おかげで早起きをするが、ユルマズからまだキュージャンには入らないように言われているし、ノールさん達からは俺に戦争を手伝わせるつもりはない、と言われているのでやることもなく、キールをブラブラして時間を潰した。
手持ち無沙汰にキールをぶらついてみたが、ここはやはりランドレス王国とは文化が違い、建物の様式や街路樹など、あらゆるものが王国とは異なり、意外に散策を楽しむことができた。
料理に関しても独自の文化を持っているようで、王国では中々見ないものが楽しめた。昼食は薄く伸ばした生地で肉や野菜を巻いた、トルティーヤのようなものを食べたが中々イケた。日本にいた時はトルティーヤを食べたことがなかったので、味が同じかどうかはわからないけれど。
キールの外にも足を伸ばし、観光を終えて夕方頃駐屯地に戻ると、ノールさん達はユルマズのテントに集まっていた。
「お疲れ様でーす」
「おう」
ひと声かけてテントに入ると、ユルマズと目が合う。
「シロー、魅了無効装備が届いたぞ」
そう言うとユルマズはアイテムボックスから黒い、良くわからない素材でできた小さな箱を取り出し、俺に手渡す。
そういえばエストリではどこにでもあるような木箱を渡されたな、と思い出す。
黒い小箱を開けてアメジストリングを取り出すと、濃い紫色の綺麗に透き通ったアメジストが、美しくカットされて指輪の台座に嵌っていた。
「おお、これはすごいね」
「うん、美しいな」
アメジストの美しさに思わず声が漏れると、ユルマズも同意する。
指輪を装備してステータスを確かめると、確かに魅了耐性が百%になっている。
「うん、確かに」
「よし、これでキュージャンに入っても大丈夫だが、向こうは現在敵国だ。無理はするなよ」
「はーい」
さて、これで完全に自由な自由時間になったわけだけど、この自由時間はどのくらい続くんだろ?
「ねえ、イガラシの居場所って、どのくらいで見つかりそう?」
クリスに聞いてみると、少し首をひねって答える。
「どうだろうな。時間を無駄にするつもりはないが、焦って動くつもりもないからな。多少掛かると思うがキュージャンもそんなに大きな国ではないし、思ったより早く見つかる可能性もあるな」
「‥…まだわかんないってことね」
「だな。まあ自由に動いてても良いから時々顔出せよ」
「ほーい」
クリスの返事をして立ち上がりテントを出ようとするが、ふと気になったことがあり聞いてみる。
「適当にぶらついてる時、特にカキン国内でイガラシ軍の兵を見つけたらどうすれば良い?」
すると三人は目を見合わせた後、ノールさんが代表して答える。
「そうだな、周りに王国兵がいれば見逃して良いが、誰もいなけりゃ処理しちまってくれ。報酬も出す」
「オッケ。生け捕った場合は駐屯地に連れてくね」
「ああ、頼むわ」
とりあえず話は済んだので、テントを出たらそのまま駐屯地を出て美味しい夕食を探し求めた。
翌日から俺はカキン、キュージャンをブラブラと思いついたまま当てもなく歩き回った。
キュージャンの隣国まで足を伸ばそうかと思ったこともあるが、隣国もカキンとキュージャンで戦争が起こっていることは知っているだろう。そんな時に見知らぬ男がふらりと現れたら警戒されそうだと考え、自重しておいた。
正直に言えばイガラシがどこから現れたのかわからないので、情報収集しておきたい気持ちもあったが、俺にはクリスのような如才なさがない。余計なこと、求められていないことまでするのはやめておいた。
俺は時折索敵スキルを使いながら動き回っているが、特に気になるものもない。イガラシ軍も斥候を出しているとは思うが、斥候兵に当たることもなく二週間もすると、王国軍が動いた。
俺は戦争に参加することなく離れた場所から見ていた。
王国軍とイガラシ軍は、あの小さな集落を超えた先にある街でぶつかった。
これまでの情報ではイガラシ軍の本拠地はキュージャンにあり、これ以上は後がない状況だ。そのためイガラシ軍の抵抗は激しく、翌日にはキュージャンの首都から援軍も到着し、流石のノールさんでも攻めあぐねているように見えた。
だが、ノールさん達は苦戦しているように見せながら、戦場となっている街と小さな集落の間にキュージャンでの拠点となる、駐屯地を造り始めていた。
当然イガラシ軍も気付いて邪魔しようとするが、それを第三軍を率いるクリスが阻み、一週間もしないうちに簡単な陣を完成させてしまった。多分ここから更に防衛機能などを足していくのだろう。
駐屯地が完成しても更に数日戦闘は続くが、翌日から数日掛けてカキンの駐屯地から物資が運び込まれていた。そして物資の運び込みも終了すると、ノールさん達はキュージャンの駐屯地に退いていった。クリス達第三軍も駐屯地に退いたことを確認して、俺も久しぶりに彼らに会いに行った。
「おひさしー」
「おう、元気にしてたか?」
「うん、元気元気」
挨拶をしてみんなが揃っているユルマズのテントに入ると、ノールさんが返事をしてくれた。
空いている椅子に座ると、ユルマズに聞かれる。
「シロー、随分顔を出さなかったが寝泊まりはどうしてたんだ?」
「うん? 宿取ったり野営したり、色々」
「ふむ……まあ怪我をしてないなら良いが、ここは敵地だ。気を付けるように」
「はーい」
まあユルマズが心配して言ってくれているのもわかるので、素直に返事をしておいた。
するとクリスが笑ってユルマズに言う。
「シローを怪我させられる奴なんてそんじょそこらにいませんよ。大丈夫ですよ」
だがユルマズは表情を変えずにクリスに言い返す。
「私達なら可能なんだ。イガラシ軍にもその程度の使い手はいるかも知れんぞ」
「ええぇ、まあそうかも知れないですけど、いたら嫌だなぁ」
クリスは本当に嫌そうな顔をして言う。だがノールさんもユルマズに同意する。
「そうだな、油断して良いことなんて一つもないからな。そのつもりでいた方が良いだろう」
「なるほど、確かにそうだね」
うん。油断していて良かった、なんて話聞いたことないもんな。ノールさんの言う通りだ。
俺が納得していると、ユルマズがクリスに真剣な表情で語りかけていた。
「トーン殿は軍団長としても、一戦士としても素晴らしい才能を持っていることは疑いがない。だが若い時分から軍団長として様々な経験をしているからか、自分はわかっているという前提で判断してしまうことが多い。それは驕りであり、トーン殿の成長を阻害するものだ。そのような意識は手放したほうが良い」
ユルマズの真剣な忠告を受け、クリストバル・トーンも神妙な顔で頭を下げる。
「ご助言感謝します。心に深く刻みつけ、ユルマズ殿の期待に必ず応えたいと思います」
ノールさんを見てみると、彼は小さく笑みを受けべて二人を見ていた。その笑みは決して嘲るようなものではなく、良い兄貴分としての笑みのように見えた。
クリスも愛されてるんだなぁ。良い奴だもんな、クリスは。
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