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3章 8

 ユルマズは早速切り出す。


「私は個人戦ならば多少の自信はありますが、戦争の経験はなく、軍団の運用もしたことがありません。そのためキュージャン解放戦では軍団運用、作戦立案など、バス殿とトーン殿主導で進めていただきたいと思います」

「へぇ」


 クリスは驚いて少し間抜けな声を出すが、ノールさんは少し笑みを浮かべて聞き返す。


「イガラシの軍は練度も低ければまとまりも悪い。ユルマズ殿なら十分に問題なく打ち倒すことができるんじゃないか?」


 するとユルマズはしれっと返す。


「余裕がある相手だからこそ、ここを機に学んでおくべきでしょう。それに、作戦立案も功績の足しになります」

「……それだと第二が受けるべき罰が無くなってしまうだろう」


 ノールさんは眉間にシワを寄せ、難しい顔をしている。


 本来第二軍団はユルマズの命に背いたことで罰を受けるはずだったが、ユルマズが処罰を後回しにしたことで、キュージャン解放戦での功績と相殺され処罰はだいぶ軽くなるはずだった。それが更に、キュージャン解放戦で指揮を取ることで功績が上積みされれば、処罰自体無くなってしまう可能性がある。


 ユルマズは小さく頷いて答える。


「問題ないでしょう。彼らは一度、軽率な行動で軍団長が罷免される危機を体験しています。愚かな真似をするものは減るでしょう」

「まあそうもしれないが……」


 ノールさんはユルマズの説明に頷きながらも納得しきれないようだが、ここでクリスもユルマズの肩を持つ。


「良いんじゃないですか? 兵達だって先に明るい希望が見えた方がやり甲斐があるでしょう」


 クリスが部下達のために、と言うとノールさんも渋々頷いた。


「……わかった。その代わりお前も手を抜くんじゃないぞ」

「もちろんですよ」


 これで一旦軍の方針が定まった。キュージャン解放戦での軍の方針が定まれば、今後の軍の進め方となる。ただ、戦争に直接参加しない俺が口を挟むわけにはいかない。机に王国東方山岳地帯の地図を広げ、議論を重ねる彼らを俺は大人しく眺めていた。




 軍議は案外静かに進んだ。もっと喧々諤々の議論になるかと思ったが、ここには軍団長三人と副官三人の六人しかいないのもその理由の一つだろうか。


 ただ、キュージャン方面には元々斥候を出してはいたが、イガラシ達が戻ったことで動きがあるだろうとのことで、もう少しイガラシ達の動きを見定める必要もあるそうだ。


 それでも事前の情報を元に予想を立て、粗々と戦略を立てていくが、相手の動きによってこちらも動きを変えなければならないので、細かいところまでは決められない。


 話を聞いていると、王国軍とイガラシ軍とでは軍の練度に差があるので小細工はせずに正面から進み、降伏するものは受け入れ、略奪は厳禁とするようだ。また、この世界でも策士策に溺れるという諺はあるようで、ノールさんはあまり策を弄することを嫌うようだ。


 その代わりに情報を重要視している。常に斥候を出し続け、相手の動きに最善の対策を取りながら堂々と正面から受け止め、叩き潰す。それがノールさんのやり方のようだ。


 そしてその情報をいち早く得るためには、機動力のある第三軍団の協力が不可欠となる。


 ノールさんはクリスの目を見て言う。


「ま、いつもどおり頼むわ」

「了解っす」


 ノールさんが気軽に頼めば、クリスもお気楽に返事をする。まあこれも彼らの信頼関係の現れなんだろう。


「んで、お前さんだが……」


 ノールさんとクリスの話があっさりと済めば、最後は俺だ。


「イガラシがどこに隠れたかわからんからな、イガラシの場所がわかるまでは自由時間だ」

「そうなの?」


 やることないの?


「ああ。俺達はシローに戦争を手伝わせるつもりはないからな、のんびりしてろ」

「ふうん、オッケイです」


 俺が返事をすると、ユルマズが補足する。


「シロー、今王都から魅了無効装備をこちらまで運ばせている。明日には届くと思うが、万が一があるから届くまではキュージャンには入らないように」

「はーい」


 俺は素直に返事をしておいた。


 とりあえず軍議は済んだようだし、俺もやることがないみたいなので、「俺はそろそろ」と立ち上がると、


「夕食の後、私の部屋に来てくれ」


 とユルマズに言われる。「ほーい」と返事をして自分のテントに戻った。




 俺は軍人ではないので、駐屯地にテントを張っていても食事は支給されない。街に出て食堂で夕食を取った。


 キールは山岳都市だがカキンの首都というのは伊達ではなく、美味しい新鮮な魚料理を食べられる店があった。ちょっとお高かったけど。


 夕食後、約束通りユルマズのテントに向かい、テントの前で声を掛ける。


「こんばんはー、シローですよー」

「入ってくれ」

「はーい」


 言われた通りテントの中に入ると、ユルマズは机に飲み物を並べていた。


「少しアルコールが入っているが大丈夫だろう? 飲んでくれ」

「あ、うん、少しなら。いただきます」


 席に座り一口飲むと、柑橘の風味が爽やかでスッキリとして飲みやすいお酒だった。


「おー、おいしい」

「口に合って良かった。私もこれは気に入ってるんだ」


 ユルマズは小さく笑みを浮かべて一口飲む。


 おー、笑ってる。ユルマズは普段あんまり笑わないんだけどなぁ。


 考えてみたら、ユルマズとの付き合いも五、六年になるけど、仕事以外で会うのは初めてか? 普段はこんな感じなのかな。


 なんとなく、普段より柔らかい雰囲気のユルマズにアテられたか、今日は少し会話も弾んだ。




 俺はまだ十九才でお酒は飲み慣れていないので、途中で紅茶に変えてもらいユルマズとの会話を続けた。そして不意に聞かれる。


「お前、友達はいるのか?」

「うーん、大地さんと渚さんと、クリスくらいかな。あと、良く行くカフェのマスターとたまに話すくらい」


 流石の俺も答えながら少ねえな、と思ってしまう。中一で召喚されて早八年。八年で三人プラス一か……。


 一応言っとくと日本にいた時は普通に友達いたんだよ。野球やってたからチームメイトとも仲良かったし。


 俺は正直に言うと、この世界で友達が少ないことは多少気にはなっていた。だがユルマズは意外なことを言う。


「そうか、私もあまり友達は多くない。まあお互い仲良くやっていこう」

「あ、うん……」


 俺は驚いて言葉に詰まってしまった。いつも無表情のユルマズから仲良くしようだなんて。


 まあでも、ユルマズがいつも俺のことを気にかけてくれていたのはわかってる。だからユルマズと仲良くなるのは良いことだと思う。でも年齢がな……。


 俺が中一で召喚された時にはユルマズはもう大人だったから、多分十才以上離れてると思うんだよね。この年齢差で友達って大丈夫かな?


 俺は恐る恐る聞いてみる。


「あの、こうやってたまに話するのは楽しいと思うんだけど、俺達って結構年離れてるよね。友達になれるのかな?」


 ユルマズはおかしそうに笑いながら答える。


「ククク、問題ないだろう。共に楽しい時間が過ごせればそれで良いんだ。ただ一つ、言っておこう。女性に対して年齢については言及しないほうが良いぞ」

「あ、ごめん……」


 それは申し訳ないです。

 



読んでいただきありがとうございます

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