3章 5
陣に戻ったらどこに潜伏するか、早速ノールさんとクリスに相談してみる。
「それは俺の仕事じゃないからわかんねえな」
だがノールさんには断られる。だが、
「これまで戦った感じだと副官達もそこまで強くなかったぞ」
と助言をくれる。が、そもそもノールさんから見たら大概の人が強くないんだよな。あんまり参考にはならなかった。
そしてクリスは、
「現場を見てないからなんとも言えないなぁ」
と、至極真っ当なことを言う。そりゃそうだ。
「じゃあ明日もう一回現場調べに行って、最悪直感に従うかなぁ」
そう言うと、ノールさんは笑いながら言う。
「ああ、良いんじゃないか。直感は馬鹿にしたもんじゃないぞ」
クリスも、うんうんと頷いている。
その後三人で談笑した後、明日はもっと時間掛けてじっくり調べようと決めた。
翌日。軽い朝食を取ったら早速イガラシの陣へ。
まずはイガラシの陣から東の国境方面に向かってみる。隠し通路を出たイガラシ達がどこに向かうのかの確認だ。
索敵スキルを使いながらウロウロと彷徨うと、踏み固められた細い道を見つけることができた。方位磁石のような魔道具も使いながら進むと、小さな集落が見えてきた。時間を確認するとイガラシの陣からは一時間強だ。
うーん、ここ……なのか?
ここは本当に小さな集落で、軍が留まるのは難しそうに見える。いや、ここには立ち寄るだけで先にあるもっと大きな街を目指すのかな。
集落で情報収集したいところだけど、流石に戦争状態の今、こんな小さな集落によそ者が来たら目立っちゃうよな。ただでさえ観光客も来ないような集落だし。
ここで待ち伏せするのも手ではあるが、ここに立ち寄る確証は持てないのでその案は捨てることにした。
途中待ち伏せられる場所はないかと見回しながらイガラシの陣に戻るが、この辺りは植物も少なく隠れられる場所も少ない。
どうしたもんかなぁ、と悩みながら陣の裏手まで戻り、再び索敵スキルを使いながら隠し通路を探っていると、何やら陣の中のマナの動きが騒がしいことに気付いた。いや、マナの動きのみならず、兵達の立てる物音も騒がしい。
何事かと身を潜めて探っていると、陣のあちこちで立てられる物音は徐々に陣の一箇所にまとまっていき、やがてしんと静まる。
次の動きを待っていると、誰かが大声を発した。
「〜〜〜! 〜〜〜! 〜〜!」
遠くて聞き取ることはできない。指示を出しているのか訓示を垂れているのか、二度三度繰り返されると大声も止む。
そして再び動き出す。
索敵スキルを使うと、巨大なマナの塊が規則正しく移動している。ザッザッ、ガチャガチャと数百人……いや、千人以上だろうか。それだけの人数だと、歩いて移動するだけでも離れたこの場所にも音が届く。
クリス達に知らせるべきかとも思ったが、彼らも警戒網は張っていてイガラシ達の動きは掴んでいるだろう。俺はこの場に留まり隙を窺うことにした。
陣の中の様子を窺うと、当然ではあるが空っぽではない。ある程度兵は残っている。
陣の中を調べたい気持ちはあるが、接敵する瞬間までイガラシの警戒度はあまり高めたくない。戦争中だから無警戒になるということはないだろうけど。
それでも陣の周囲を回りながら索敵スキルで調べていくと、やはり他には隠し通路、あるいは出口はないだろうと確信する。ニルヴァストに向かう裏門はあるが、イガラシ軍を陣に押し込んだら裏門も包囲して出れないようにする、とノールさんとクリスは言っていた。
落ち着いて考えよう、と自身に語りかける。
俺は隠し通路の出口に移動する。さて、ここからどうするか。
俺は襲撃を掛けるならここかな、と思っている。イガラシは多分側近や護衛を連れて逃げるだろう。狭い通路の中でイガラシ一人だけ捕まえて逃げるのは難しい。
隠し通路から出て、周囲を見回して安全を確認して一息つき、一瞬緊張が解けたところを狙うのが良いんじゃないかと思う。
そう考えると罠は駄目か。一応罠は二種類持っている。爆発してダメージを与えるものと、拘束する罠。
別に皆殺しにするわけではないので爆発罠は使う気はなかったけど、拘束罠も難しそうだ。拘束罠を人に使う場合、よっぽど上手くいって拘束できるのは三人ぐらいだ。そして、罠で拘束されている相手を攻撃するのは簡単だが、引っ張り出すのはコツが必要でちょっと難しい。罠にかからなかった残りの連中に邪魔されるだろう。
そうなると……フィルシースモッグとかどうだろう? フィルシースモッグは、触れた相手にランダムで複数の状態異常を付与する煙を生み出す魔法だ。その上煙は真っ黒で周囲が見えにくくなるので撹乱にも向いている。
とりあえずフィルシースモッグ使って、煙が晴れてきたらフラッシュライトで目眩ましして……後はアドリブで良いか。まあ魅了対策が万全じゃないから計算通りになんていかなそうだし。
……。
……。
うーん、イガラシが逃げてくるまでどのぐらい掛かるんだろ?
戦争は初めてだからなぁ。最悪半日とか待つ覚悟が必要かもな。
何かできることはないかと索敵スキルでイガラシのテントを探ってみるが、小さなマナが二人分動いている。
二人かぁ。あのマナの感じだと戦闘力は低そうだ。戦争に参加してないことを考えても文官か、イガラシが連れていた女性だろう。
一人なら一瞬で制圧する自信があるけど、二人は難しい。大きな声を出されたらアウトだからね。
イガラシのテントを家探ししたい気持ちもあったが、騒がれてイガラシ達に不要な警戒心を抱かせる方が面倒なので、俺はしばらく大人しくしておくことにした。
気配を消しながら時折索敵スキルを使って様子を探るが、イガラシのテント内は人数が増えることはあっても減ることはなかった。
途中備蓄倉庫を狙ってみようかとも思ったが、当然備蓄倉庫も厳重に守られている。隠遁を駆使すれば備蓄倉庫内には入れるだろうけど、物音一つ立てたら気付かれる。アサシネイトモーションも使えば平気かもしれないけどMPの消費も激しくなるし……なんて考えていて、これは俺の仕事じゃないな、と気付く。
俺は戦争の手伝いはしない。実際クリス達も戦争自体には勝てると言っていた。問題はイガラシだ。
イガラシがいる限り、カキンとキュージャンを解放してもまたどこか別の場所で同じ事が起きる。イガラシを殺すのが一番手っ取り早い方法なのはわかってる。でも、それはできない理由がある。
それはイガラシの魅了スキルに掛かった人達のためだ。カキンで魅了に掛かった人達は、イガラシがニルヴァストに退いた今も魅了に囚われ続けている。距離で魅了は解けないと考えられている。時間で解ける可能性はあるが、それも希望的観測だ。そして最悪なのは、イガラシが死んでも魅了スキルが解けない場合だ。
イガラシはなんとしても捕獲する必要がある。それがユルマズからの依頼で、引き受けたのならば応える必要がある。
それに、多分イガラシはどこかの国の人攫いの犠牲者なのだろう。同じ境遇の日本人を殺すのは避けたい気持ちもある……。
時折静かに体を動かしながら様子を探り続けていると、やがて激しい物音と、騒がしい喚声が近付いてくる。
地面を踏み鳴らす足音や、武器や防具がかき鳴らす音、狂乱した兵士達ががなり立てる叫び声はどんどん激しくなり、ストレスを感じる程だった。
時間を確認すると、戦争が開始してから三時間程。俺の感覚としては思ったより早かったが、実際どんなもんなんだろう。
気が付くと陣の中だけではなく、陣の周囲一帯も騒がしくなっている。王国軍が陣を包囲し始めたのだろう。
俺は気配を消して集中し、イガラシの陣を索敵する。
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