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3章 4

 ノールさんのテントでの話し合いを終えて一旦解散したが、夕飯を三人で一緒に食べながら翌日以降の話をする。


「ノールさん達明日はどうするの?」

「ニルヴァストに向かって戦の下準備だな」


 クリスも頷く。


「じゃあ俺もついて行った方が良いね」

「そうだな。お前も見ておいた方が良いだろう」


 クリスが俺に聞く。


「シロー、イガラシの顔はまだ見てないだろ?」

「うん、まだだね」


 俺が頷くとクリスが言う。


「じゃあ明日は俺についてきてくれ。色々と教えることがある」

「了解っす」


 その後、細かい話を詰めたら食事を終え、各々のテントに戻った。




 翌日、カフェで朝食を取ったらノールさんとクリスと合流し、三人でニルヴァストに向かう。


「副官とかは良いの?」


 一応聞いてみるとクリスが答える。


「今は現地で軍をまとめてるよ」

「ああそっか」


 ニルヴァストの近くにはイガラシ達が陣を構えているが、当然王国軍も少し離れた場所に陣を構えている。


「ここからなら三時間ってとこだな。まあのんびり行こうぜ」


 ノールさんが言い、俺達は歩き出した。




 キールの北側の門から出ると山頂に向かうが、俺達は東門から出て山道を緩やかに下っていく。


 ノールさんは「のんびり行こう」と言ったが、俺達は足を緩めず進む。軍団長達がズンズン進んで三時間なら、一般人はもっと掛かるのだろう。


 キールを出てしばらくはブドウ畑や羊や山羊が走り回る牧場が目立ったが、それを超えると樹木が少ない荒涼とした山肌が目立つ山道となる。そして更に進むと、再び牧場やブドウ畑、オリーブ畑なども目につくようになる。


「そろそろだな」


 クリスが呟き、そこから三十分も進むと広い道に出て、遠目に木の柵で覆われた陣が見える。


「あれがイガラシ達の陣で、その向こうがニルヴァストだ」

「ふうん」


 遠いのではっきりとは見えないが、結構大きい陣に見える。


「で、俺達はあっちだ」


 ノールさんが俺の背後を指差す。少し戻るようだ。


 山道を戻り、途中で脇道に入り少し進むと、オリーブ畑と傾斜に隠れた陣が見えてくる。ほんの少しだけど、イガラシ達の陣よりも高地を取っているようだ。


 ノールさんとクリスは陣を守る兵士達に敬礼で迎えられる。当然彼らは俺のことは目に入らない様子だった。別に良いけど。


 ノールさん達は執務室に入り、中にいる兵士に第二と第三の副官をノールさんとクリス、それぞれのテントに呼ぶように伝え、それぞれのテントに向かう。

 

 俺は空いている場所にテントを立てて休んでいてくれと言われたので、クリスのテントから少し距離を置いてテントを立てた。




「おーい、シロー」


 本を読んで時間を潰していると、不意に名を呼ばれる。クリスだ。


 栞を挟んだら本をアイテムボックスにしまい、「ほーい」と返事をしてテントを出る。


「副官さんとはもう良いの?」


 と聞くと、クリスは頷く。


「ああ、もう十分だ。ここからはシローのお勉強だ。イガラシの顔を見に行くぞ」

「オッケイ」


 クリスの後についていき、陣を出て山道に出るとニルヴァストに向かうが、途中で再び脇道、というか獣道のような細道に入る。


 クリスが小声で指示を出す。


「ここからはあまり音を出さないようにな」

「オッケ」


 俺は返事をしたらアサシネイトモーションを発動した。


 俺の身ごなしが変わったことを確認したクリスは満足気に頷いて先に進み、俺も無音で後に続く。


 時折見回りをしているイガラシ軍の兵を見かけるが、慎重に立ち回り迂回し、誰にも気付かれずにイガラシの陣を見下ろせる小高い丘に辿り着く。少し距離はあるかな。


 クリスは腹ばいに寝そべると、単眼鏡のような魔道具を取り出し魔力を込める。


「よし。これはそんなに高級品じゃあないんだが、魔力を込めると陽の光を反射しなくなるっていう、斥候にはうってつけの魔道具なんだよ」

「へえ、良いね」

「ああ。王都でも売ってるから買っとくと便利だぞ」

「うん。覚えとく」


 クリスは「さて、どこだ」と単眼鏡を左目で覗き、イガラシの陣を見て回る。


 クリスはしばし単眼鏡で見張るが、「見当たらねえな」と単眼鏡から目を離す。


「街に出てるか、テントに籠もってるかわからねえが、それなら今のうちに教えられることを教えとくか」

「うっす」


 クリスは一旦単眼鏡をアイテムボックスにしまい、陣の中央左寄りの位置にある、灰色のテントを指差す。


「あの灰色のテントは、いわゆる備蓄倉庫だな。糧食や何やかやが収まってる。んで……」


 あそこが裏口。あそこもたまに点検してるから、もしかしたら隠し通路があるかも。あそこがイガラシのテント。その隣が側近の……。


 などなどクリスから教わり、一つ一つきちんと頭に入れていく。


 イガラシの陣の説明が終わると、今後の流れについて教わる。


「近い内に攻め込むつもりだ。逆にイガラシの方から攻めてくる可能性もあるが、まあなんにしろ戦にはなる」

「うん」

「これまでキールを解放するために何度かやり合ってるが、あの練度ならよっぽどのことがない限り俺達が勝つだろう」

「へえ」


 まあ王国軍は強いって言うからね。


「基本的に殲滅戦にはしない。敵を完全に取り囲んでしまうと逃げ道がないことを悟り、開き直って馬鹿力を出して想定外の被害が出ることがあるからな」

「そういうものなんだ」

「ああ。だから何処かに逃げ道を作り、逃げ出した背後を突いて追い打ちを掛けるのが安全だ。全滅をさせることはできないが、こちらの被害も少なく済む。全滅させる必要もないし」

「なるほどなぁ」


 途中何故か戦争のレクチャーになる。顔色の出てたのか、クリスに笑われる。


「いや、これは必要な説明なんだよ」

「そうなの?」

「ああ。俺達は東のキュージャン方面に逃げ道を作るから、シローにはそっちに潜伏して逃げるイガラシを捕まえて欲しいんだ」

「ああ、そういうこと」


 うん、納得だ。東のキュージャン方面か。うーん、結構範囲広いなぁ。


 どの辺りに隠れれば良いんだろう、と考えていると、クリスが口を開く。まだ続きがあったようだ。


「多分戦場は陣を出て少し先の、あの広場の辺りになるはずだ」

「……うん」


 確認すると、広場と言っても山道なのでそこまで広くはない。


「で、どんどん押し込んでいって、陣に逃げ戻ったところを囲んで攻め立てる」

「ふむ」

「で、あの隠し通路だ。多分あそこから逃げるはずだから、シローはあの辺りに潜伏してくれ」

「オッケイ、全て理解した」

「まあ全部説明してやったからな」


 クリスは少し呆れたように笑う。




 そしてそこから数十分待つと、イガラシのテントから男が女を連れて出てくる。


「お、あいつだ」


 単眼鏡で確認したクリスが言い、俺に単眼鏡を手渡す。


 単眼鏡を覗いて確認すると、茶髪で垂れ目の優しげな顔立ちの男で、光沢のある目立つ紺色のマントを身に着けている。


「結構目立つね」

「ああ。まあおんなじ格好をさせた身代わりもいるかも知れないから、そこだけ注意だな」

「ああ、そっか」


 なるほどね。戦争ではそういうこともあるのか。


 一人胸の内で頷いていると、クリスが「よし」と言って立ち上がる。


「とりあえずこんなもんか。そろそろ戻ろうぜ」

「オッケイ」


 俺達は立ち上がり、慎重に王国軍の陣に戻った。




 陣に戻ったらノールさんに会いに行き、潜伏地の下調べに行くと告げて再び陣を出る。


 アサシネイトモーションを切らさないように気を付け、定期的に索敵スキルで周囲を調べながら慎重に進み、イガラシ達の陣の裏手に回り索敵スキルを丹念に使うと、地下の然程深くない場所で当たりを引いた。


 辿っていくとやはり出口には隠蔽魔法らしきマナを感じる。


 隠し通路の出口はわかったが、ここで少し迷う。出口の先で待ち伏せるか、それとも隠し通路の中で待ち伏せるか。


 戦争での戦いでは王国軍に分があるみたいだけど、彼らの、特にイガラシと副官達の個の強さがわからない。


 出口の先で待ち伏せると、イガラシだけではなくその副官達全員と一度に戦うことになるかもしれず、最悪の場合俺の方が逆にとっ捕まる危険もある。


 隠し通路の中で待ち伏せる場合は、通路が狭いので一度に戦う人数が制限されて戦いやすい反面、狭い場所での戦い方は俺にとっても簡単ではない。その上通路は一本道だと思われるので、首尾良くイガラシを捕まえてもその後逃げるのが難しくなる。


 悩んだ末、クリスとノールさんに相談してみるか、と持ち帰ることにした。




読んでいただきありがとうございます

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