3章 3
「こんちはー」
駐屯地の執務室に入り、依頼書を見せて中の兵士に声を掛ける。
「お仕事の話なんで、軍団長に会わせてくださーい」
俺が頼むと、兵士は一瞬嫌そうな顔をするが、すぐに「少々お待ちください」と言って執務室を出ていく。
うーん、一瞬でもそんな顔しちゃ駄目だと思うけどなぁ。まあ彼は軍人で接客業してるわけじゃないしな、しょうがないのか。
椅子に座って大人しく待っていると、兵士に連れられてノールさんとクリスが執務室にやって来る。
「シロー、久しぶりだな」
「どうもー」
「仕事で会うのは珍しいな」
「うん、ユルマズさんに頼まれちゃってね」
ノールさんに依頼書を見せると、「俺のテント行くか」と言うので立ち上がると、クリスが渋い顔で言う。
「しかし、ここの奴らは客に飲み物も出さないのか」
「ん? ああ、俺も頼んでないからね」
「こういうのは言われる前にやるもんだろう」
全然気にしてないから良いんだけどなぁ、と思いながら行こうとすると、クリスが追い打ちを掛ける。
「こりゃあ偉い人には会わせられないな」
ありゃあ、と思い言われた執務室に詰めている人達の顔を見ると、皆青くなり言葉を失っていた。まあ無理もない。偉い人には会わせられない、というのは出世させられない、と言われたようなものだから。
エストリの執務室には第二軍団の兵が詰めていたが、クリスがこれだけ厳しく言うってことは、キールの執務室には第三の兵が詰めているのかな。まあ気の毒ではあるが、頑張ってくれとしか言いようがなかった。
ノールのテントは個室ではあるが、机やベッドなどもシンプルなものばかりで、とても質素な作りだった。
机を囲む椅子に座り、現在の状況を聞く。
「ここ、キールに居座ってたイガラシ達は一旦追い出せた。今はキュージャンとの国境近くの街、『ニルヴァスト』の近くに陣を構えてる」
「ニルヴァストを占領はしてないの?」
そう聞くと、クリスが答える。
「ニルヴァストを見てきたが、あそこは戦闘を想定した街作りがされていないんだよ。街の外で陣を作ったほうが戦いやすいと思ったんだろうな」
「なるほど」
まだカキン国内にいるんだ。
「イガラシも?」
「一昨日見に行った時はいたな」
うーん、この場合はどうすんだ?
「俺が受けた依頼って、キュージャンの解放なんだよね」
そう、カキンを助けることではないんだよね。ノールさんが口を開く。
「まあイガラシを殺すか捕まえるしかないんじゃないか?」
「そっかぁ」
でも、それはそれでなんだよね。
「俺戦争は手伝えないよ」
俺は戦争に関しては素人だ。軍師のように戦略を立てることもできない。これもノールさんが答える。
「ああ、わかってる。戦争は俺達の仕事だ。イガラシ達をニルヴァストから追い出したら、お前にはイガラシを仕留めてもらいたい」
「ふうん……オッケイっすよ」
若干戦争に関わってる気もするけれど、まあ仕事なら仕方がない。
俺は気になってることを質問する。
「ところでさ、そのイガラシの魅了は無差別に誰でもってわけじゃないよね?」
「…そうだな。ここで奴らの軍とやり合った時には魅了に掛かった奴は少なかったな」
うん。流石に見ただけで魅了に掛けることができる、では強すぎるよな。
「なんか条件とかあんのかな?」
クリスが思い出すように考えながら答える。
「戦ん時はあいつ、護衛に守られながらなんか色眼鏡みたいなので戦場を見つめながら、時折弓を撃ってたな」
「撃たれた奴は魅了に掛かってた?」
「全員ではないな」
「なるほど……わからんな」
うーむ、確証は持てないなぁ、なんて考えていると、ノールさんは「でもよ」と俺に向かって言う。
「お前魅了無効装備受け取ってんだろ? ならそんなに気にしなくても良いだろ」
ああ、それか。言い辛いなぁ。
「えっと、その件なんですが……実を言いますと……」
俺はできるだけノールさんを刺激しないように言葉を選んで説明するが、それは徒労に終わった。
「あいつら一体何考えてやがる」
口調はそこまででもないが、目付きが違う。低級のモンスターなら一睨みで殺せそうだ。
「いや、まあアレだよ。そんなに気にすることないよ。俺が人徳がないのが悪いんだし」
なんとか執り成そうとするが、ノールさんの怒りは止まない。
「お前の人徳の問題じゃねえよ。あいつらはお前の甘さに甘えてるんだよ」
ん?
「甘さ?」
「ああ。お前がそうやって何でもかんでも許しちまうから、あいつらは何やっても良いって勘違いしちまうんだ」
「……そんなつもりはないんだけど」
俺、彼らに対して怒ってるし、許したつもりもないんだけどな。だがクリスも言う。
「いや、ノールさんの言う通りだ。実際、お前王国軍の兵に対して本気で怒ったことないだろ」
「んー? あるんじゃない?」
流石にねぇ。だがクリスは否定する。
「いや、俺が見てきた限りではないぞ」
「……そう?」
「ああ。ついでにいうとダイチとナギサもないな」
「なるほど」
なんとなく理解できた気がする。
「考えてみると俺も大地さん達も元いた世界では、殴り合いの喧嘩もほとんどしたことないんだよね」
口喧嘩が精一杯だ。ノールさんが反応する。
「ふうん、平和主義ってやつか?」
「いや、そうじゃなくて。俺達がいた国は比較的平和な国で、真面目に暮らしてると殴り合いの喧嘩なんて起こらないんだ」
「へえ」
ノールさんとクリスは興味を持ったようで、色々と聞いてくる。
「確かニホンだったよな? ニホンでは……」
まあ異世界の国だもんな、わかるよ。
しばし三人でニホンの色々な話をするが、何せ俺は十三歳でこの世界に召喚されたので、政治や法律についての話などは難しい。そこら辺は大地さん達に聞いてもらうことにした。
そしてニホンの話が一段落すると、ノールさんに聞かれる。
「ユルマズさんはいつ来るって?」
「いや、わかんないけど、あの人だからそんなに掛かんないんじゃないかな」
「ま、そうだな。ダラダラする人ではないな」
そう言ってノールさんは頷くと、ニヤリと笑う。
「じゃあよ、宰相様からの依頼を舐めてかかる馬鹿どもを驚かせてやるか」
「お、何するんですか?」
クリスも面白がって聞く。
「難しい話じゃねえ。あいつらの目の前で、宰相様に正式に謝罪するんだよ」
「ほう?」
クリスの目が「それだけ?」と言っているが、ノールさんが説明する。
「シローやユルマズさんを馬鹿にしてる奴らってのは、大体貴族意識が強くて平民を下に見てるんだよ」
「ああ」
クリスが納得するように頷く。
「考えてみろよ。二十年近く第二のトップを張ってる俺が、あいつらのせいで新参の平民の宰相に頭を下げることになるんだぜ。効くだろ?」
「ええ、良いかもしれませんね」
クリスはノールさんに同意するが、俺には少し懸念がある。
「うーん、むしろ逆恨みされちゃわないかな、俺」
ノールさんは横に首を振って言う。
「大丈夫だ。次にシローに限らず、平民に迷惑かけた奴にはそれなりの処分を受けさせると釘を打っておく」
「そっか……」
正直そんなに厳しくしなくても良いんだけどな、とも思うけれど、考えてみたら宰相って王様の次くらいの権力者なんだよな。確かに宰相を舐めてるのは問題か、と思い余計なことは言わないことにした。
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