3章 2
ユルマズとの話し合いを終えたら大地さん達に会いに行った。宰相であるユルマズ自ら出張るので、大地さん達にも特に隠す必要がないということで、依頼を受けて東の山岳地帯に行ってくると伝えた。
その際、ユルマズから与えられた情報を伝える。
「魅了持ちは『ショウタ・イガラシ』くん。召喚者だね」
「ああ……そうきたか」
「そういうこと……」
大地さん達は驚くとともに、納得もしているようだ。気持ちは分かる。これまでこの世界で魅了スキル持ちは見たことがなかった。召喚者のチートならあり得る話だった。
「同じ日本人かぁ」
渚さんは悩ましげに言う。
「そうなんだよね。でも国取りしちゃってるからなぁ」
もう国際的な犯罪者なんだよな。
大地さんが考えながら聞く。
「そのイガラシさんは個人で動いてたのかな? バックに誰かいるとか」
「まだわかんないんだよね。なんせ魅了持ちだからろくに交渉できる人もいないみたいで」
「ああ、そっか……」
大地さん達は考え込んでしまうので、俺は声のトーンを上げて言う。
「第二が魅了耐性装備用意してくれてるみたいだから、ちゃちゃっと捕まえて話聞いてくるよ」
そう言うと二人は顔を上げ、笑顔を見せてくれた。
「気を付けてよね。私シローと戦いたくないからね」
「そうだね。ノールさんとクリスさんにも頼って良いんだから」
「うん。そうだね」
大地さん達との楽しい夕食を終えたらゆっくり休み、明け方、日が昇り切る前に俺は王都を出た。
ランドレス王国と東方山岳地帯の小国群とを隔てる国境は、明確に目に見える形で存在する。
山岳地帯の北部に、地元の民から信仰を受ける『霊峰ナルシノ』がある。そのナルシノから水量豊かな『キリ川』が蛇行しながら北から南に流れている。王国と山岳地帯の小国の各王様達が話し合い、このキリ川を国境と定めたそうだ。
山岳地帯の中でも南西部のカキン付近ではキリ川の流れも穏やかになるが、川幅が広いため大きく立派な橋が掛けられていて、橋の両端には第二軍団の兵が仮の門を構えていた。
「どうもー、こういうもんです」
ユルマズから受けた依頼書を見せると、兵士は黙って依頼書に目を通し、やはり無言で顎をシャクって通行を促される。
「どうもー。ありがとねー」
俺は明るくお礼を言って通るが、やはり返事はなかった。
国境を超えるとしばらくは平原だったが、二つの集落を過ぎた辺りで道に傾斜が出始める。
今日のカキンは天気も良く風も爽やかだ。気分良く散策気分で進んで行くと、やがて山の麓に広がるカキン第二の街、エストリに辿り着く。
エストリはカキン内では二番目に大きな街だが、そこはやはり小国カキンの内でのことで、普段王都で生活するものから見たらのどかな街だ。
良い街だなぁ、でもここで長く生活すると退屈になっちゃうのかなぁ、なんて考えながら足を進め、エストリの西端に作られた駐屯地に入る。
入口の人に依頼書を見せて用件を言うと、「執務室へどうぞ」と大きなテントを左手示される。
お礼を言って執務室に入り、元気に挨拶する。
「こんにちはー。宰相様からのお手紙ですよー」
しかし、当然のように返事はない。国軍兵には元気がない人が多い印象だ。
俺はユルマズから渡された依頼書とは別の、俺に魅了対策アクセサリーを渡す命令書を目の前の兵士に渡す。
兵士は黙って書類を受け取り目を通すと、傍らの女性兵に小声で指示を出す。
指示を受けた女性兵は速やかに、落ち着いて執務室の外に出ていくので俺はお行儀良く女性兵の帰りを待つ。
ここは急遽作られた駐屯地で、俺は国軍にとって特に大切な客でもないため飲み物などは出ないが、まあそんなもんだろう、と気にせず待っていると、女性兵が小さな木箱を手に帰ってくる。
女性兵が俺の目の前の兵士に木箱を手渡し、兵士が中を確認するとそのまま俺の前に置く。
「こちらになります。どうぞお受け取りください」
「はーい」
木箱を受け取りパカリと蓋を開けてみると、俺は一瞬固まってしまった。
俺はソロで動くことが多いため、麻痺や石化の耐性装備を持っているが、状態異常耐性装備には必ずマナが込められた宝石が使われる。そして、質が良ければ良い程透きとおり輝きが増すものだ。
だが、第二軍団から渡された魅了耐性アクセサリーは濁り曇り、お世辞にも質が良いものとは言えなかった。
宰相直々の命令書を受け取ってこんなものを渡すのか、という驚きとともに少しの苛立ちを感じたが、気持ちを落ち着かせて目の前の兵士に聞く。
「これで良いのか?」
「何か問題がありましたか?」
兵士は涼しい顔で答える。だから俺は丁寧に聞き直す。
「宰相の命令書には『魅了無効装備』を渡せと書かれていたはずだ。本当にこれで良いんだな?」
「はい。そちらで間違いございません」
そう言って兵士はゆっくりと頭を下げるので、頭を上げるのを待って聞く。
「なあ、あんたの名前を教えてくれよ」
「申し訳ありませんがそれはできかねます」
「じゃあ所属は?」
「……第二軍団に所属しております」
「ふうん……その場合第二軍団全体に罰が与えられることになるけど、それで良いんだな?」
この兵士が名乗れば、宰相の命令に従わなかった罰は兵士に留まるはずだ。わかりやすく説明してやると、ここまで涼し気な表情を崩さなかった兵士に、初めて焦りの表情が生まれた。が、すぐに立て直す。
「我々は命令通りに無効装備をお渡ししましたので、全く問題ございません」
「…そっか。じゃあ好きにしたら良いと思うよ」
そう言って執務室を出ようとすると、女性兵が声を上げる。
「お待ち下さい! 私の名は……」
「あんたの名前は聞いてない」
俺は言葉を被せて遮った。部下に責任取らせるわけにはいかないからね。
駐屯地を出たら魅了耐性アクセサリーの『アメジストリング』を装備してみる。
俺は鑑定スキルを持っていないので、見ただけでは装備の効果がわからない。それでも装備すれば装備の説明文を見ることができるようになる。
ふむふむ……魅了耐性五%? カスみたいな装備だなぁ。まあないよりましか。
俺は以前、大量の状態異常をばら撒くクソボスを死にかけながら倒し、全状態異常耐性五十%のブレスレットを持っている。アメジストリングは指輪だから同時に装備できて、合わせて五十五%か。召喚チート持ちに五十五%は不安だなぁ。
まあ良いや。ノールさんとクリスはカキンの首都『キール』にいるはずだ。俺はエストリを出てキールに向かうことにした。
山を登って下ってまた登り、途中野営をして翌日の昼頃キールに到着した。
キールは山の中にあるが、首都だけあってエストリより大きく広い。それだけ大きな街を作れるだけあり、山も険しくない。
やはりキールの正門前には王国兵が立っていたが、特に声をかけられることもなく街に入ることができた。
街に入って少し進むと、良く客が入っているカフェがあるので入ってみる。
ツナサンドはまあまあだけど、酸味が効いたコーヒーは美味しかった。
店主のおじさんに少し話を聞いてみるが、王国軍はカキンの国民には友好的に受け入れられているようだ。
なにせ王族が国民放り出して逃げちゃってるからね。その後カキンのために戦いながら、決してカキンを支配しようとはしない王国軍は感謝されているそうだ。
俺は駐屯地の場所を聞いてカフェを出た。
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