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3章 1

 ランドレス王国の国王、セイラム・ローレンス・ランドレスは、サリアマーレ帝国の首都に元第四軍団軍団長ジョー・ミラー・エイゴン・ロクタンズと、元宰相のウィリアム・ロットバインを連れて訪れ、深く謝罪したそうだ。


 それと共にマルテーはサリアマーレ帝国に返却され、更にランドレス王国で最も帝国に近い位置にある町を一つ帝国に譲渡し、多額の賠償金も払った。


 これは領土を広げることに執着していた国王にはかなりの痛手で、国王もごねたそうだが、新宰相のローテム・ユルマズが強く説得して認めさせたらしい。


 ユルマズはランドレス王国から東にある小国出身の移民で、その上平民だ。国王はユルマズの宰相就任に嫌悪感を示したが、第二、第三、第五と残る全ての軍団長に推されて渋々認めさせられたそうだ。また、国王は一度自身の判断でマルテーを攻めて大失敗している。認めざるを得なかった、というのが本当のところだろう。


 ロクタンズが罷免されて空いた第四軍団軍団長のポストには、菊池大地さんがつくことになった。大地さん個人の戦闘能力は他の軍団長と比べると流石に見劣りしてしまうが、大地さんとともに副軍団長についた菊池渚さんと協力すれば、ノールさん達には及ばずとも信頼できる戦力となることが期待されているそうだ。


 そしてユルマズが抜けた魔導研究所の副所長室には、俺の良く知らない男が入っていた。良く知らない男に好きなように使われるのも面倒なので、マケンから抜けたいと所長に伝えればあっさりと認められた。


 マケンの資料室は使えなくなったが、俺は王立の図書館を利用してこれまで通り大地さん達と勉強し、空いた時間にダンジョンに通いながら、ユルマズから回される依頼をこなしていく日常を過ごしている。




 さて、ロットバインとロクタンズを手早く捕縛したおかげで、王国は経済制裁などからは免れたが各国の信頼を大きく落とした。宰相に就任したユルマズに求められることは、まずは各国の信頼の回復だという。


 まあ国政は俺には関係ない。俺の生活で変わったことといえば、マケンの寮を出て一人暮らしを始めたことぐらいだ。

 

 二年も経ち十九才にもなると、大地さん達から中学卒業程度の学力は余裕であると認めてもらえたのは嬉しかったし、自信もついた。といっても、俺ももう十九才なんだから自慢になるようなもんでもないんだけど。


 また、回されてくる依頼をこなすことで腕も磨かれ、手合わせならばクリスとフラックさんには勝てるようにはなった。ノールさんとユルマズとも以前よりは良い勝負ができている。


 ただクリスとフラックさんも、手合わせではなく何でもありの本気の殺し合いならまた変わってくるだろう。


 そこで俺は迷っている。何をといえば、今後の身の振り方だ。まだノールさんやユルマズには勝てないが、闇魔法を駆使すれば逃げ切るのは可能じゃないかと思っている。


 ただロットバインとロクタンズが要職から外れたことで、俺もこの国で過ごしやすくなっているのも確かだ。


 ユルマズは滅多に笑わず愛想がないが、俺のことを理解しようとしてくれているのは昔から感じていた。クリスは元々仲が良い。フラックさんとの仲は微妙だが、フラックさんはユルマズ信者だから彼が俺に害を為すことはないだろう。ノールさんのことは良くわからないけど、彼はほとんど王都にいないからいてもいなくても一緒だ。そして大地さんと渚さん。彼等は俺にとって何より大切な存在だ。


 俺がこの世界に召喚された理由は邪神討伐だ。邪神を討伐するためならランドレス王国に拘る必要もないので、一度大地さんと渚さんと三人で話し合ったことがあるが、大地さん達はこの国でお世話になった人も多く、重要な立場を任されたこともありもう少し王国民のために頑張りたいと言っていた。


 ただ、二人とも俺にランドレス王国に残って欲しいとは言わなかった。もしもシローが王国を出る必要があると思うならそうした方が良い、と。が、王国にいても邪神討伐はできることも忘れないで、とも言われた。


 まあそれはそうか。サリアマーレ帝国には傭兵ギルドがあるので、そこで依頼を受けながらダンジョンで腕を磨こうかとも考えたが、それは結局今やってることと変わんないんだよな。


 最終的にもうしばらく王国で頑張ることに決めると、大地さんも渚さんも喜んでくれた。うん、二人と一緒なら頑張れるはずだ。




 ランドレス王国に残る決断をして三ヶ月程すると、王国の東方で少し大きな事件が起きた。


 ランドレス王国の東方は山岳地帯で、小さな国が六国あり、お互い助け合ったり奪い合ったりしているようだ。


 その中でも南西に位置し、王国と隣接しているカキンという国が巨大盗賊団に占拠されたというのだ。


 カキンの王族が一族揃ってランドレス王国に逃げ込んだことで判明したのだが、王族は全員無傷で貴金属をジャラジャラ言わせ、どうも国民を捨てて一番に逃げてきたんじゃないか、と少々評判が悪い。


 それでもカキンは王国と隣接しているためこれまでも交流があり、王国の評判を回復するためにも見捨てることはできない、と決まった。


 派遣されるのはノールさん率いる第二軍と、クリスの第三軍。更にサポートとして第五軍から小隊が四隊。第二軍と第三軍に各二小隊ずつつけられた。


 俺は当然戦争には参加しないし、王様が出ないので近衛軍の大地さん達も参加しない。ただ、第二軍がカキンに行ったことで依頼の消費が滞ってしまうため、緊急的に近衛軍が各地の依頼を受けることになり、俺も大地さん達に協力することにした。




 王国中を東奔西走し各地の依頼を消化していると突然ユルマズに呼ばれ、ユルマズのお屋敷に向かうことになった。ユルマズは以前はマケンの寮住まいだったが、宰相に就任したことで王都に屋敷を建てたようだ。


 ユルマズのお屋敷の印象は”上品”だ。キラキラした装飾はなくシックにまとめられていて、無駄にでかい絵画などが飾られていないのもユルマズらしいな、と感じた。


 意外なのはお屋敷の中には多くの花が飾られていて、庭が色とりどりの花で埋め尽くされていたことだ。そうか、ユルマズは花が好きだったのか。


 メイドに案内されるまま部屋に入ると、そこではユルマズが食事を取っていた。どうも応接室などではなく、リビングに案内されたようだ。


「呼び立てておいて済まないが、すぐに食事を終えるから待っていてくれ」

「のんびりどうぞー。急いで食べると喉に詰まっちゃうからねー」


 ユルマズは内政、外交に国内国外を問わず飛び回っていて、俺以上に忙しくしている。食事の時間も自由に取れないのだろう。


 俺はリビングの食卓とは別にあるソファに座り、メイドさんが出してくれた紅茶を飲みながらのんびりしていたが、ユルマズは言葉通り急いで食事を終えて俺の正面に座った。昼食ぐらいゆっくり食べて良いのになぁ。


「待たせたな。早速だが、緊急の依頼がある」


 ユルマズが切り出すとメイドさんが俺の前に書類を差し出す。書類を手に取ってみると、「キュージャン解放」とある。


「えーっと、キュージャンってカキンの隣の国だっけ?」


 確認するとユルマズは頷く。


「そうだ。少々問題が起きてな、軍団長レベルを抑え込めるものが必要になったんだが、私一人では難しい。シローが戦争を嫌っているのは知ってるが、今はお前の力を貸してもらいたい」


 しかしキュージャン解放ってなんだ? 危ないのはカキンって聞いてたけどな。


「カキンじゃなくてキュージャンなの?」

「ああ。カキンに向かった第二、第三軍団からの報告によると、カキンを襲った盗賊団は盗賊団を装ったキュージャンの兵だったんだが、そもそもキュージャンがどこぞの男に乗っ取られていたらしい」

「どこぞの男って……一人?」

「そうだ。もちろん仲間はいたが、乗っ取ったのは主犯一人の能力によるものだそうだ」

「はー、すごいね。どんな能力かわかってるの?」

「ああ。『魅了』だ」

「うわぁ……」


 嫌な能力だなぁ。


 困っている人がいるなら手伝うのも吝かではないんだけれど。


「魅了が相手だと、俺も取り込まれちゃうかも」


 これまで魅了を使う相手と戦ったことがないので、俺は魅了対策用の装備を持っていなかった。ユルマズは表情を変えずに言う。


「問題ない。今第二軍団に用意させている。カキンで受け取ってくれ」

「ふうん……じゃあ受けますよ」


 ユルマズは頷く。表情は変わらないように見えるが、同時に少しホッとしているようにも見える。


「そうか、助かるよ。感謝する」

「いえいえ」

「それでは、今カキンは第二で守りを固めているのだが……」


 依頼を受けることに決め、しばらく現状の説明を受けた。


 


読んでいただきありがとうございます

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