2章 6
ロットバインの屋敷の逃げ道の出口を探し、その後大地さん達と話し合い、マケンに戻ってきた時には午後十時半を過ぎていた。大分遅くなってしまったが、ユルマズは報告を待っているだろう、と受付に向かう。
誰もいないかな、と思ったが、受付には男性の職員が残っていて、何やら書類作業をしていた。
「すんません、報告があるんで今から副所長室に向かいますって、ユルマズさんに報告しといてもらえる?」
俺は優しくお願いするが、職員は俺のことを冷めた目で見ると、すげなく返す。
「ユルマズ様は業務を終えて自室に戻っています。明日までお待ち下さい」
まあまあ正論か、良いでしょう。でも今日の仕事は軍団長達から受けた依頼だ。
「今日の報告は緊急性が高くて重要なもので、ユルマズさんも俺を待ってるんだ。一言頼むよ」
だが職員の表情は変わらない。
「ユルマズ様はお休みです。明日までお待ち下さい」
「はあ、役に立たねえな」
俺はため息をつき、諦めて受付を離れてユルマズの自室に向かった。
「どちらに行くつもりですか? お待ち下さい」
職員が何か言っているが、俺は気にせず寮に向かった。
ユルマズは緊急の仕事や依頼が入った時のため、マケンの寮で生活をしている。俺もどうせ毎日マケンに顔を出すのだから、と寮に住んでいるのでユルマズの部屋もわかる。
ズンズンと進み、二階のユルマズの部屋のドアをノックし、ドアの向こうのユルマズに声を掛ける。
「シローです、遅くなりましたー。報告があるんで副所長室前で待ってまーす」
「わかった。準備して向かう」
「はーい」
ユルマズの返事を聞いた俺はドアから離れ、副所長室に向かった。
ユルマズのいない副所長室には、ユルマズお手製の魔導鍵が掛けられているので副所長室の前で待っていると、然程時間は掛からずにユルマズがやって来る。
「すまない、待たせたな」
「いえ、大して待ってませんよー」
ユルマズは俺の返事には答えず鍵を開けて部屋に入っていくので、俺もついていき接客用のソファーに座る。ユルマズは部屋に入ると個人用の小さな冷蔵庫から飲み物を取り出し、俺の分も用意してくれた。俺の前に置かれたコップを見ると、中身はお茶のようだ。
ユルマズは俺の対面に座った。
「さて、聞かせてくれるか」
早速聞いてくるので、俺は「いただきまーす」とお茶を一口飲んで口を湿らし、報告する。
まずセキュリティの魔道具は間取り図に記された場所にきちんとあったこと。ただ、屋敷内のことは俺の索敵スキルの能力的に探るのは少し面倒だった。
単純に索敵スキルと言っても、使う人によって性能や能力が変わる。クリスと話し合ったことがあるが、クリスの索敵スキルは目で見るタイプで、注視すれば一点をズームしてかなり詳しく見ることができるそうだ。
それに比べて俺の索敵スキルは、生物や魔力を宿したもの――魔道具や属性装備など――が持つマナの動きを感知するタイプだ。感覚的に察知するものなので、目で見る必要はない。
ロットバインの屋敷にはセキュリティの濃密なマナが駆け巡っているので、小さなマナの動きはセキュリティに撹乱され、感知するのが面倒になる。
「ただ、逃げ道っぽいのは見つかった」
「地下か……セキュリティは地下まで届いていないのか?」
ユルマズは顎に手を添えて考える。
「どうかな……屋敷からちょっと東に出たところでマナの反応を見つけたから、俺は地下にも届いてると思う」
「……そうか」
そっか、セキュリティはマケン製だからね。地下から接近されたら気付けないんじゃ不安か。
ユルマズは少し悩むような表情をしていたが、一つ息を吐くと切り替えて俺に聞く。
「それで、出口も見つけられたのか」
「うん。王都の外の南東の丘の裏手に繋がってた。隠蔽の魔法が掛けられてたね」
「隠蔽を解いてみたのか?」
「いや。隠蔽を解くことはできるけど、掛け直すことができないから」
「なるほど……そうだな。だから逃げ道っぽいか」
「うん。ちゃんと確認してないからね」
その他、気付いたことも簡単に補足しておいた。
報告を聞き終えたユルマズが聞く。
「シロー、それならどう動くつもりだ」
俺はここで大地さん達と会ったことを告げ、案を出す。
「大地さんと渚さんも協力してくれるから、俺が屋敷で騒いでる間に大地さん達に出口を抑えてもらっておこうかなって。ロットバインが逃げたのを確認してからでも俺のスピードなら追いつけるはずだし」
「あの二人か……」
俺の案を聞いてユルマズは考える……というよりも、少し悩んでいるようだ。
「あの二人は近衛だろう。大丈夫なのか?」
ああ、それで悩んでたのか。近衛兵は王や宰相に近いからね。でもそれは問題ない。
「大丈夫だよ。彼等は俺とおんなじだから」
そう告げると、悩みの色を見せていたユルマズの顔がシンと静まる。
「……それはそうか」
「うん」
まあ俺とおんなじってことは、この国を恨んでいるということだ。ユルマズとしては複雑だろう。
ユルマズは気持ちを切り替えるように息を一つ吐き、俺に聞く。
「逃げ道の出口にはロットバイン殿の手のものが駆けつけるだろう。あの二人で制圧できるか?」
「うん、多分戦争を経験したことが切っ掛けになったんじゃないかな。この間手合わせしたけどかなり強くなってたよ」
「そうか……」
ユルマズは少し考える気配を見せたが、鋭い目つきで俺の目を見ると口を開く。
「よし、シローの考える通りに動いて良い。お前なら無事に捕縛できるはずだ。それで、決行はいつにする?」
「できれば仮眠してすぐ行きたいな、午前二時とか。行ける?」
「ああ、問題ない」
「オッケイ。じゃあ二時間ぐらい仮眠してくるね。あ、そうだ。ちょっと手が滑って殺しちゃったりしたらまずい?」
一応確認は取るとユルマズは即答する。
「駄目だ。セイラム様とロットバイン殿とロクタンズ殿には、各国に直接謝罪してもらわなければならない」
「あー、謝罪ね。確かにね」
それは納得だ。
「そんじゃあ夜遅くまでありがとござました」
俺はそう言って立ち上がると、ユルマズは遠距離通話の魔道具に手を掛けようとしていた。
仮眠から目覚め、時間を確認すると午前一時前だった。顔を洗って歯を磨き、トイレを済ませたら速やかに大地さん達の家に向かう。
「こんばんはー。こんな時間にありがとうございます」
「いや、約束通りだよ」
大地さんは笑顔で言う。
マケンに戻る前に二人に会った際、大地さん達の参加をユルマズが認めてくれれば午前二時に決行しよう、と話し合っていた。もしも認められなければ、すぐに大地さん達に会いに行って謝り、一人で捕縛するつもりだった。まだちょっと早いけど、一度寝た体を覚醒させる時間も必要だ。
渚さんも俺の目を見て笑顔で聞く。
「ちゃんと寝れた?」
「うん。二人は?」
「バッチリ。体調万全」
俺達は軽く笑い合い、大地さん達の家を出る。
大通りに出て少し進むと、王都東門と貴族街への別れ道となる場所に出る。
「それじゃあ俺こっちだから」
貴族街の方を指差して言うと、「シロー」と渚さんに呼び掛けられる。
「? なに?」
「気を抜いちゃ駄目だよ。ちゃんと戻っておいでね」
俺は渚さんと大地さんの目を見て頷く。
「わかった。また後でね」
「それじゃまた」
「また後でね!」
俺達は深夜の王都で二手に別れて進んだ。
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