2章 5
「ロクタンズ殿は俺達が捕縛するから、シローはロットバイン殿を頼む」
そっか、ロクタンズもか。まああいつにも責任はあるもんな。ただ、
「ロットバインを捕まえるのは面倒くさそうだなぁ。ロクタンズなら楽なんだけど」
ロットバインは頭が回る分面倒そうだ。ふぅ、と一息つくが、クリスが俺の言葉に反応した。
「まあそうだな。ロットバイン殿はすでに逃げるために手を売っている可能性もある。だがロクタンズ殿を捕縛するのも簡単ではないだろう」
「ん? さっきフラックさんも言ってたじゃん。あいつは純粹すぎるって」
「え? ああ」
「俺は貴族じゃないからメンツや名誉にこだわる必要もないからね。何でもありでいくならそんなに難しくないよ」
そう俺が言い切り、ふと視線を感じて左横に目を向けると、ノールさんが面白そうに俺を見ていた。
「なに?」
「ふうん、ロクタンズが簡単? お前も成長したんだなぁ。これ終わったらおじさんと手合わせしようぜ」
「やだよ」
今日はもうユルマズと模擬戦済みだ。あんたみたいなオバケと戦ったら死んじゃうよ。
ノールさんは確か四十歳を過ぎた頃のはずだったが、十代で王国軍に入隊してからは二十年以上最前線で戦い続け、第二軍の軍団長となってからも隊長室を空にして強敵と戦い続けている。
もしかしたら体力面のピークは過ぎているのかも知れないが、それ以上に培った経験と生まれ持った戦闘センスがずば抜けており、ユルマズに次ぐ強者だ。ノールさんは魔法が使えないので総合力ではユルマズに負けるが、その代わり接近戦ではユルマズ以上のバケモンだ。戦ってられない。
また、第五軍の軍団長のグレン・フラックさんはユルマズとは違い、主に使う属性は火と土の二属性だが、攻撃と守備、バフデバフとバランス良く使え、総合力に優れている。クリスとは互角の勝負をするが、流石にノールさんと戦うのは苦しいだろう。
俺は……まだまだ勝てないか。俺は以前手合わせでクリスと良い勝負をしたことがある。だが、あの時のクリスは真面目に戦いはしたが本気の全力ではなかった。クリスにはまだ底があり、俺はまだまだ届いていない。
俺が何でもありで全力を尽くしてようやく良い勝負ができる可能性があるのは、ロクタンズぐらいじゃないか。これはロクタンズが弱いのではなく、彼の能力が守備に特化し過ぎているのが原因だ。一対一で手段を問わず、どれだけ時間を掛けても良いのならなんとかなるかも知れない。
「ロットバイン殿は屋敷の中に逃げ道を隠している可能性があり、俺達が兵を集めて屋敷を囲んでも逃げられる恐れがある。ロットバイン殿本人の戦闘能力は低いから、できればシロー一人で捕縛して欲しい」
「了解」
まあクリスの言うこともわかる。油断しているところを俺が一人で捕まえる方が良いかもね。
俺はクリスに聞く。
「決行はいつ?」
「お前に合わせる。同時に決行した方が良いだろう」
「ロットバインが必ず立ち寄る場所とかある?」
「いや、最近は屋敷にこもってるようだ」
「そっか。一回屋敷を調査したいけど、絶対結界張ってるよなぁ」
「間違いないな」
うーん、どうしようかな。中途半端に屋敷に手を出して逃げられたら目も当てられないしな。悩んでいるとユルマズが口を開く。
「シロー、私は何度かロットバイン殿の屋敷に入ったことがある。多少は中の様子もわかるぞ」
「そうなの?」
「ああ。あの屋敷のセキュリティを手掛けているのはマケンだからな。ふむ……よし、間取りを『念写』しよう。トーン殿、何か要らない紙を一枚もらえないだろうか」
「はい、只今」
なるほどね。ロットバインは腐っても宰相だからな。直接セキュリティを手掛けるのもこの国最強のユルマズってわけだ。
クリスが用意したわら半紙のような紙に、ユルマズが手を添えて念写を発動すると紙がホワンと光りに包まれ、光が消えると紙にはロットバインの屋敷の間取り図がある程度描かれていた。
ある程度というのは、ユルマズにも入ったことのない部屋が幾つかあるので、そこは白紙になっていた。
ユルマズは二階にある白紙の部分を指差して言う。
「ロットバイン殿はこの部屋は寝室なので遠慮して欲しい、と言っていた。また、もしも屋敷内に逃げ道が用意されているのなら、この白紙のどれかだろう」
「なるほど、有り得るな」
ノールさんもユルマズの言葉に頷く。ユルマズは更に続ける。
「あの屋敷に配置したセキュリティの魔道具はかなり高性能のものだ。多分シローが全力でアサシネイトモーションを使っても、屋敷内に入った途端に見つかるだろう」
「ふうむ」
「だが、隠遁を使えるなら話は変わる。あのセキュリティは影の中までは調べられないはずだったから、隠遁を使いながら魔道具が配置されている部屋まで行き、魔道具を破壊してしまえば良い。魔道具が置かれているのはこの部屋だ」
なるほどね。俺はユルマズに確認する。
「この間取り図、借りても良い?」
「もちろんだ」
「サンキュ。じゃあ今からロットバインの屋敷まで行って、一度様子見てくるわ」
「わかった。気を付けろよ」
「はーい」
俺は間取り図を手にして立ち上がるが、クリスから待ったが掛かる。
「ちょっと待て。まだ報酬の話をしてないだろう」
「ああ、それはユルマズさんと話し合って。俺報酬は全部ユルマズさんに預けてるから」
「はあ?」
クリスは驚いて変な顔をしていたが、俺は気にせず書斎を出てクリスの屋敷を飛び出した。
王宮は王都の中央南寄りに位置し、貴族達の屋敷も王宮の近くに密集している。
クリスの屋敷とロットバインの屋敷も大して離れていなく、十分も歩けばロットバインの屋敷が見えてくる。
アサシネイトモーションを使って近付き、裏手に回る。怪しまれないように気配は消しておかないとね。
気配は消しているので堂々と屋敷の裏手を歩き、間取り図を片手に索敵スキルを発動する。
ふむふむ……あー、すごいね。ユルマズが手掛けたセキュリティだけあり、濃密なマナが屋敷中を駆け巡っている。そしての中で一点、セキュリティのものとは異質のマナが動いている場所がある。
なるほどね。あれがセキュリティの魔道具が置いてある場所だから……ん? このマナの動きは……ここは台所だから調理用の魔道具か? なんて探っていると、屋敷から東に少し離れた地下でマナの動きが感じられた。
これ、逃げ道か?
更に探ってみると、地下に小さなマナの動きがポツポツと感じられる。照明とか換気用の魔道具かもな。
一旦地下のマナの動きを追ってみると、途中三度折れ曲がり、最終的に王都を出て王都南東の丘の裏の窪地に辿り着く。
ここは周りより一段低くなっている上、丘の影に隠れて王都から延びる主要道路からは見えなくなっている。そして丘の壁面に強いマナの蠢きを感じる。隠蔽の魔法が掛けられているのだろう。
聖属性の魔法に隠蔽を解く『ディスクローズ』という魔法があり、俺も使えるけど今はまだ使わなくても良いだろう。
俺は王都に戻ると大地さん達に会いに行き、それからマケンに戻った。
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