2章 4
大人しくクリスについていくと、クリスのお屋敷に案内された。クリスはいつもざっくばらんだが、やはり貴族なので家は大きく立派だ。ただ、門構えなど無駄な装飾はしていなく、ゴテゴテしていないのはクリスらしかった。
客間などではなく、クリスの書斎に通される。普段客を入れる部屋ではないので広い部屋ではないが先客がおり、俺達も含めて書斎に五人が入ると中々に圧迫感があった。
クリスは俺の肩にポンと手を置き、笑顔で言う。
「ちょいと狭いが我慢してくれよ」
「はいな」
適当に返事をし、あらかじめ書斎の床に円を描くように置かれていたクッションの一つに座る。左隣には先客、常に最前線で戦い続けている第二軍の軍団長であるノール・バスが座っていた。
「よう、久しぶりだな」
「どーも」
ランドレス王国には冒険者ギルドや、探索者協会なんてものはなく、モンスターや盗賊山賊などの問題が起きた場合、基本的に王国軍が問題解決に動くことになるが、その際動員されるのはほぼ第二軍の兵士となっている。
また、戦争の際にも普段からモンスターなどと戦い練度が高い第二軍は、一番に相手と当たって戦場を支える役目を担っている。
ノールさんも常に国中を走り回っており、実際会うのは半年ぶりぐらいかも。
俺の右隣にはユルマズが座り、その右隣には魔導兵を率いる第五軍の軍団長、グレン・フラックが座っていた。
フラックさんはユルマズの信奉者で、ユルマズよりも大分年上のはずなのに、
「今日はご足労いただき……」
と、ユルマズに異常に丁寧な挨拶をしていた。
そしてノールさんとフラックさんの間にクリスが座り、口を開く。
「今飲み物を用意してるので、少しお待ち下さい」
まだ始まらんのか。突っ込みそうになったが自重した。
メイドさんが飲み物を持って来て、みんな一口飲んで口を湿らせてから話が始まる。防音結界を張ると、クリスから口を開く。
「さて、皆さん昨今の世界情勢はご存知だと思いますが、大分まずいことになってます」
クリスは俺と仲が良いくらいなので、結構若い。なので俺以外と話す時は流石に口調も変わる。
また、武力で、しかも宣戦布告もなしに奇襲でマルテーの街を奪い取ったことは非常に評判が悪く、ランドレス王国は世界中から批判されている。
俺からしたら、いや、ここにいる全員が当然のことだと思っているが、宰相のロットバイン、近衛軍を率いる第四軍の軍団長、ロクタンズとランドレスの国王様は現在の状況に驚いているそうだ。
各国からの非難は激しく、このままだと開戦もありえる……が、開戦はそこまで問題ではないようだ。実のところランドレス王国の軍事力は、他国と比べても高いらしい。
ユルマズが眉間にしわを寄せて言う。
「そもそもマルテーを掠め取るなど、なぜそのような愚かなことが行われたのか」
ユルマズは国でも一、二を争う実力者だが、所詮は研究所の副所長。国を動かすためのトップ同士での話し合いには参加できないので、戦争に至った経緯を聞きたがった。
ノールさんがユルマズに言う。
「まあ簡単に言うと、ロットバインとロクタンズが王のコンプレックスを突いたんだよ」
王のコンプレックスとは? ユルマズとノールさんが話していたので口には出さなかったが、表情で察したのだろう。ノールが教えてくれる。
「ウチの王はまだ若いだろう?」
ふむ、確か三十代半ばとかだったかな?
「セイラムさんは先代の不慮の事故で二十代で王位についたんだ。で、一年喪に服して大人しくしてたんだけどな、喪が明けたら邪神が顕現しちまったんだ」
ああ、王様ってセイラムって名前だったっけ。確かセイラム・ローレンス・ランドレスだったはず。
ノールさんは続ける。
「元々ランドレス王国は小国だったんだが武力は高くてな、初代から少しずつ少しずつ領土を広げて今の大国になったんだ」
そこら辺は本で読んだことがあるな。ふむふむ、と相槌を打っておく。
「で、セイラムさんも国王になったからには、とやる気満々だったところで邪神が出てきて、みんな仲良く邪神と戦いましょうってなったわけだ」
「ふむ」
「これまでこの国では王様は全員最低でも街一つは取ってるんだ。セイラムさんは王になってから、十年近く街どころか村一つ取ってないのがコンプレックスなんだよ」
「なるほどね」
ふうん。過去の王様に比べて自分は功績がない、と王様は思い込んでるわけか。ロットバイン達はそこを突ついたわけか。
「王様がそこにコンプレックスを持ってたのはみんな知ってるの?」
ノールさんに聞いてみると、彼は頷く。
「ああ、文官も含めて大抵のやつは知ってた。で、ロットバイン達はそこんところをチョチョイとくすぐってやったんだ」
ここでユルマズが口を挟む。
「だがロットバイン殿とロクタンズ殿は目的が違いそうだな」
「?」
「ロットバイン殿は自身の出世のため、セイラム様を敬愛するロクタンズ殿は、純粋にセイラム様を喜ばせたかったのだろう」
「ああ、なるほど。もしかしたらロクタンズもロットバインに利用されたかも知れないのか」
ロットバインはロクタンズの王様に対する愛情を利用して二人で王様を説得した感じか。
俺が一人納得すると、フラックさんがため息をついて言う。
「はあ、ロクタンズ殿のセイラム様に対する愛情は本物だが、彼は純粋すぎる。強い発言権と影響力を持つ第四軍の軍団長が犯して良い失態ではないだろう」
ここでクリスが話を戻す。
「まあセイラム様のコンプレックスはそんなところだ。で、そんなこんなでシローに仕事を頼みたいってことだ」
「そんなこんなかぁ。そこは詳しく説明してもらいけどなぁ」
俺がボヤくとクリスは頷いて言う。
「実際のところマルテーの件で各国からの突き上げが厳しくてな。最悪経済制裁や貿易制裁も有り得る」
「……そうなんだ」
俺が闇属性の勉強と特訓ばかりしてる間にそこまで来てたか、と少し驚いた。
「ロットバイン殿のおかげで大分生産力は上がったが、元々ランドレスは生産力に不安がある。このままだとちょいとまずいことになっちまう」
「ん?」
ランドレスの生産力が高くないことは知ってるけど……。
「ロットバインのおかげ?」
あの馬鹿が何をしたのかと疑問に思い聞いてみると、ユルマズが答えてくれる。
「シローはロットバイン殿のことを「馬鹿だ馬鹿だ」と言うが、ロットバイン殿は内政で大きな功績を上げているんだ」
クリスも続く。
「ああ。今のランドレスは毎年歴代最高の生産力を更新してるんだぞ」
「へえ、すごいね」
俺が感心して言うと、フラックさんがロットバインのことを教えてくれる。
「ロットバイン殿は内政においては農業水産、治水からインフラ整備まで広く功績を上げている能臣だ。だが戦と外交に関しては全くセンスがない」
「ああ、わかるかも」
俺が頷くとノールさんが小さく笑いながら言う。
「くくっ、欲深い人間には信頼されるんだけどな」
ああ、賄賂が得意なのかな?
なるほどねぇ。あんなんでも長所はあるんだなぁ。まあでも、みんなの言いたいことはわかった。
「じゃあ俺はロットバインを捕まえてくれば良いの?」
俺が聞くと、クリスは一度ノールさんと目を見合わせて頷く。
「そうだ。ロクタンズ殿は俺達が捕縛するから、シローはロットバイン殿を頼む」
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