2章 3
俺は暫くの間、依頼をこなしながら大地さん達と勉強し、兵士も交えて訓練に精を出し、ようやく中級の闇魔法を使いこなせるようになった頃には、季節も二つ流れて王都にも時折雪が降るようになっていた。
俺は、久しぶりに腕試しをすることにした。
今年の冬は良く晴れて雨が少ない。その代わりに良く冷えるので、俺は念入りにストレッチをして体を温め、訓練場内の模擬戦が行える、闘技場を模したエリアに向かった。
俺が闘技場に入るのとほぼ同時に奥から今日の対戦相手である、ユルマズも闘技場に足を踏み入れる。
俺とユルマズはゆっくりと歩み寄り、一定の距離を取って足を止める。俺がアイテムボックスから短剣を取り出して装備すると、ユルマズも長剣を手にする。
一度ゆっくりと深呼吸し集中力を高め、
「よし」
と呟くと、ユルマズはいつも通りの表情で「来い」と俺に向かって言う。
別に居丈高だとかは思わない。実際にユルマズは俺よりも強く、受けて立つ立場だ。俺は挑戦者の気持ちで正面からユルマズに向かい、真っ直ぐに斬りつける。
当然長剣でいなされるが、俺はあえていなされ、いなされた勢いを利用して連続攻撃を仕掛ける。が、ユルマズは二歩、三歩動くのみで、足捌きと長剣の技術で完璧に捌かれる。
一旦退いて仕切り直す。まあまあ、これは余裕の想定内だ。武技も魔法も何もなしで攻撃を当てられる程ユルマズは甘くない。
んじゃあ次はアサシネイトモーションだ。アサシネイトモーションは気配を消すだけではなく、足捌きも向上するし会心率も上昇する。
最初は通常時と変わらない歩法で近付き、最後の一歩だけ全力で踏み込んで斬り付けるが、ユルマズは完璧なタイミングで防御する。
一度フェイントを入れて左にサイドステップし、ユルマズの目が俺を追った瞬間を狙って強烈な光を放つ、聖魔法の『フラッシュライト』をユルマズの視界ギリギリを狙って発動する。
フラッシュライトには攻撃力はなく、本来暗い場所を照らす探索魔法だ。対人で使う場合は目眩ましになるが、今回は陽動として使った。視界ギリギリに発動したので目眩ましにはならないが、見えるか見えないかギリギリの場所で魔法の気配を感じたらユルマズだって気になるだろう。一瞬でもユルマズの気を逸らせれば、と思ってやってみたが、今回は想定以上の効果が出てしまった。
一瞬フラッシュライトに気を取られたユルマズに短剣を突き立てようとすると、ゾットする程の殺気がユルマズから発され俺は反射的に飛び退る。そして俺が退いた瞬間、元俺がいた場所に激しい音を立てて三本の雷が落ちてきた。
「あっぶね……」
今のは直撃したら結構危ないぞ。こいつ……序盤でこんな危ない魔法使いやがって。
睨みつけてやると、珍しくユルマズが笑う。
「ふっ、すまんな。今の魔法の使い方は良かったな。危険を感じたぞ」
ちっ、余裕な顔しやがって。こっちは死ぬかと思ったのに。そっちがその気ならこっちも全力だ。魔法でもスキルでも何でも使ってやるよ。
神々の聖なる加護で全能力を上昇する『ディバイングレイス』を途切れさせないよう気を付け、聖魔法と闇魔法、更に武技も使って攻め立てる。ユルマズも多種多様な属性魔法や武技で攻め立てる俺に反撃する。
基本的には俺が攻めてユルマズが受け流しながら反撃する形だが、時に機を見てユルマズから攻めてくることもある。俺としてはそこで上手くカウンターを当てたいところだが、当然のことだがユルマズは防御だけではなく攻撃も一流だ。
カウンターを当てるにはユルマズの攻撃を紙一重で回避し、ユルマズの攻撃後の隙を突かなければならないが、ユルマズの鋭く激しい攻撃を紙一重で回避するのは非常に難しいし、ユルマズは攻撃後の隙もとても小さい。
ふぅ、と小さく息をつく。お互い無傷ではない。俺は惜しみなく全力を出しているし、ユルマズも……ユルマズはどうだろう。全力ではないかも知れないが、かなりの高難度の魔法や武技も遠慮なく使用して戦っている。
だがまあ、やはり俺のほうが消耗は大きいだろう。ここはアレか? 久しぶりに一か八か戦法しかないか?
「よし……」
俺は小さく呟くと呼吸を整え集中する。これまでにもユルマズとは何度も手合わせをしている。ユルマズも俺がそろそろ勝負を掛けてくることくらいわかっているだろう。
俺はまず、スキルのアサシネイトモーションを使いフットワークを高める。
ところで、探索や戦闘では主にスキルと武技と魔法を使うが、スキルは武技や魔法とは似て非なるものとなる。
スキルは基本的にMPを消費して発動すれば後は全自動で効果を発揮する。ボタンをポンと押せば後は全部おまかせ、というようなイメージ。常時発動のパッシブスキルも含まれる。
武技と魔法はHPやMPを消費するのはスキルと同じだが、そこに技術が伴わなければならないのがスキルとの違いだ。例えば、斬り下ろしから薙ぎ払いの連続攻撃の『十字斬り』という武技があるが、これはMPを消費して実際に自身で体を動かして斬り下ろし、薙ぎ払いをすることで、ただ普通に連続攻撃をするよりも威力が向上し、攻撃範囲も広がる効果が出る。
魔法も自身で魔力を制御し、対象目掛けて発動しなけれなばらない。
さて、俺は正面からユルマズに向かっていくが、今回は素直に斬りつけず、まずは聖属性の光線を二本撃ち込む『ツインレイ』を使う。この魔法は二本の光線を違う場所から撃ち出せる。
ユルマズの後方と、長剣を持つ右手側から光線を撃ち、俺は同時に正面から斬り込む。
三面攻撃を仕掛けたが、ユルマズは右手側に小さな結界を張ると正面からの攻撃は長剣で受け、後方からの攻撃は足捌きで紙一重で回避し、逆に俺に多面攻撃を仕掛けてくる。
左右、後方から魔法攻撃が迫るが、ユルマズは魔法の同時発動はできない……はず。これまでは使っていない。
この三方面からの攻撃も僅かに間隔が開いていて、俺は隙間を縫って回避するが、次いで俺が回避した場所に雷が落ちてくる。わかってる。誘導されたんだろ? 知ってるよ。
どうせ回避した場所になんかしらの攻撃が来ると呼んでいた俺は、一瞬早く横に飛び込んで回避し、反撃の魔法を紡ぐ。
広範囲に汚染され黒ずんだ煙を吐き出すフィルシースモッグをばら撒く。汚染された煙に触れるとランダムで複数の状態異常に掛かる可能性があるため、当然ユルマズは風魔法で煙を散らそうとする。
俺は煙が散らされた瞬間を狙ってフラッシュライトを発動した。
「ちっ」
ユルマズの口から僅かな舌打ちが漏れる。
目眩ましが成功するかは賭けだったが、俺は賭けに勝ったことを確信して『隠遁』を発動して影に潜った。
隠遁は影に潜り同じ影から出たり、近距離の別の影に移動して出ることができる武技だ。聖ドーズが主神マイヤーズの影に潜って守護していたことを思い出し、練習してみると短期間であっさりとものにすることができた。やはり加護のおかげだろう。
俺は影に潜るとユルマズの影に移動し、ユルマズの足元、正面に飛び出す。
あえてだ。俺の戦い方を知っているユルマズは、俺の姿を見失ったなら背後を取られることを警戒するだろうと思い正面から出ると、案の定ユルマズは自身の背後を振り向き、俺に背中を見せる。
俺は躊躇なくユルマズの首筋に短剣を突き立てようとするが、短剣が首に刺さるよりも一瞬早く業火が俺に襲い掛かる。
これも想定内だ。俺を見失ったユルマズは全方位に攻撃魔法を放つだろうと思っていた。ここを逃したらユルマズに致命的なダメージを与えるチャンスはもう訪れない。俺は全身を炎に包まれながら短剣をユルマズの首筋に突き立てると、同時に俺の体を守護する結界が音を立てて砕けた。
訓練場で行う模擬戦では、命を失うことがないように特殊な結界が自動的に張られる。未だに原理は良くわかっていないけれど。
俺の結界が先に砕けたのだから当然俺の負けだ。だがまずまずの手応えはあった。最後の一撃はこれまでのユルマズ戦を振り返っても、一番の一撃だったと思う。
もちろんやるからには勝利を目指していたので負けたのは残念だけど、それなりの達成感はあった。しかし反省点もある。訓練場の片隅のベンチに座り模擬戦を振り返っていると、ユルマズがやって来る。
「成長したな、シロー」
「……ども」
負けてるけどなー。
俺は素っ気なく返すが、ユルマズは気にする素振りもなく俺の隣りに座り、呟くように言う。
「あと何年シローの相手をしてやれるのか……」
「まだまだ勝てそうにないけどなぁ」
実際ユルマズは模擬戦開始からほとんど立ち位置を変えずに戦っていたのに、決定的な一撃は最後の捨て身の攻撃ぐらいしか当てられなかった。戦場を自由に動いて戦術立てて戦われたらまだまだ勝ち目は見当たらないだろう。
なぜかユルマズが席を立たないので、仕方なく談笑に付き合っていると、第三軍の軍団長のクリスが近付いてくるのに気付き、手を振るとクリスも手を振り返しながらこちらに向かってくる。
「おつかれ、強くなったなぁ」
「負けたけどなー」
「まあユルマズ殿が相手だからな」
そう言ってクリスは快活に笑う。
そして口を閉じると、真面目な顔で俺を見て言う。
「ちょっと場所変えようぜ。頼みたい仕事があるんだ」
「えー……」
嫌な予感しかしないなぁ。
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