プロローグ
初投稿になります。拙作ですが、楽しんで頂けたらと思います。
コンコンコン。
部屋の扉が三度リズム良く叩かれると、ベッドに転がり本を読んでいた俺は上半身を起こし返事をする。
「どうぞー」
すると、ドアノブが回り、木製のドアが音も立てずに静かに開く。
ドアが開くとそこにはメイドさんが立っていて、彼女はゆっくりと丁寧にお辞儀をしてから口を開く。
「お忙しい所申し訳ありません、シマモト様。ユルマズ様がお呼びです」
「これが忙しそうに見える?」
俺はベッドに本を置き、半ば習慣めいた悪態をついて立ち上がる。
「ユルマズ様は第三会議室でお待ちです」
メイドは俺の悪態など全く気にならないようで、無表情で言うべきことを言うと一歩下がる。俺もこれ以上は何も言わずに部屋を出て、第三会議室に向かった。
ドアをノックし、返事を待ってから第三会議室に入ると、そこには俺の上司となるローテム・ユルマズと、その部下の……名前は覚えてないが女性の部下がいた。
ユルマズさん達は長机を四つくっつけて島を作っているので、俺はユルマズさんの対面の席に座って挨拶をする。
「お疲れ様でーす」
ユルマズさんは俺の気さくな挨拶には返事もせずに本題に入る。
「早速だが、それを見てくれ」
ユルマズさんは俺の目の前に置かれた書類を指差すので、遠慮なく手に取って書類を読む。手に取った書類は依頼書で、内容はダンジョンで苦戦している部下の救出だった。
ユルマズさんは王立魔導研究所の副所長で、直属の部下を多く持つ。今回は十人の部下が研究に必要な素材を取りにダンジョンに向かったのだが、不運にもダンジョンを徘徊するタイプの異常個体に当たってしまった。
通常はよっぽど長い期間ダンジョンを放置しなければ、モンスターがダンジョン外に溢れることはないようなんだけど、異常個体は異常だけあって放置しておくと何が起こるかわからない。万が一ダンジョン外に溢れてしまうと大惨事になってしまうため、ユルマズさんの部下は危険を冒して足止めに徹しているそうだ。
「彼等は国民のために命を懸けて戦っている。いつも通りに頼む」
「いつも通りにね。了解でーす」
ユルマズさんの要請に応えて書類を手にして立ち上がると、ふと強い視線を感じた。チラリと見やると、名の知れぬ部下が俺を睨みつけている。
ま、どうでも良いか、とすぐに目線を切って俺は会議室を出た。
王立魔導研究所を出ると、寄り道などせずにそのままダンジョンに向かう。物資はこの世界に召喚された際に身に着けた能力の、アイテムボックスに大量に入れてあるので問題ない。
俺は救出依頼を受ける際、基本的に出来高契約をしている。具体的に言うと、救出した人数によって報酬が増減する。ダンジョンに篭っている十人全員を救出するため、俺は足を早めた。
幸いダンジョンは王都近郊にあるため、一度の休憩を挟んで三時間で到着した。すぐにダンジョンに入って救出に向かいたいところだが、異常個体の強さがわからないので、念の為に十分程体を休めてからダンジョンに入る。
ダンジョンに入ると、俺はアイテムボックスの中から愛用の短剣を取り出して装備する。俺は背は低いがすばしっこいので、手数で勝負するスタイルだ。
また、俺はソロで探索することが多い……というか基本的にソロで探索しているので、索敵能力は力を入れて鍛えている。スキルも利用して索敵するが、ボスレベルの強力な魔力は感じられない。ただ、
「荒れてんな」
ダンジョン内のマナ――魔力の素となるもの――が荒れていて、モンスターも騒いでいる。まず異常個体が現れた影響だろう。
ちっ、と内心で舌打ちする。強そうだな。まだ魔力も感じられない距離にいるのに、この辺りのモンスターまで動揺している。
倒せりゃ良いけどな。救出を待っている人達には聞かせられないけれど、そんなことを思う。実際、俺は全然最強なんかじゃない。
こっちに召喚された際に成長チートを付与されたみたいだけど、俺は元々野球少年で喧嘩もしたことなかったぐらいだ。王国軍の軍人にボコボコにされながら鍛えられたけど、まだまだ成長途上の若者だ。
ていうか、だ。人さらい同然に召喚され、なぜ「邪神を倒せ」などと命令されて軍人にボコられなきゃいけないんだ。俺は正直この国の偉い奴らのことは恨んでいる。
でも、まあ偉い奴らに命令されてダンジョンに潜らされ、国民のために苦しい思いをしている人まで死ねば良い、とまでは思わない。
道中襲い掛かるモンスターは斬り捨て、慌てふためいて逃げ惑うモンスターは放置し、足早に塔タイプのダンジョンを駆け上がり、七階に到着したところで大きな魔力を上方に感じた。三、四階先かな。
九階につくと、上方に非常に大きな魔力が感じられる。念の為に回復薬と魔力回復薬を飲んでおく。
この世界ではゲームのような不可思議なシステムが存在し、魔法やスキルもあればステータスも存在し、メニューも出せる。ただし、ステータスの表記は数字ではなくアルファベットなので、正確な数値はわからない。回復薬を飲んでもHPやMPもどれだけ回復したかは、経験と体感で測るしかない。
まあここまで強敵はいなかったし問題ないだろう、と判断して進むと、徐々に戦闘の音が聞こえてくる。俺は逸る気持ちを抑えて静かに歩みを進める。俺の戦闘スタイルはアサシンだ。できれば不意を突きたい。
スキルの『アサシネイトモーション』を使い、存在感を消して戦場となっている広間に侵入すると、そこでは何やら燃え盛る斧を振り回す、薄灰色の……多分悪魔系のモンスターがいた。
ユルマズさんの部下達はタンクを二人置き、回復を手厚くして粘り強く戦っている。しかしそれでも苦しそうで、予備のタンクも用意しているようだ。
俺は音を立てないようできるだけ静かに、かつできるだけ急いで悪魔の背後を取ると、武技の『首刈り』を発動する。首刈りは不意を突いたり、背後から発動するとダメージにボーナスが乗る。
短剣を逆手に持ち、背後から悪魔の首を狩る。
「グオォォゥ」
手応え十分で悪魔も呻きよろめくが、ダウンまではいかない。強いな。今の手応えならクリティカルも乗ってるはずなのに。
「シマモトか!」
攻撃をしたことでアサシネイトモーションが解け、ユルマズさんの部下達も俺の存在に気付く。
俺は彼等に指示を出す。
「全員下がれ! 邪魔だ!」
この世界ではゲームのようなシステムが働いており、パーティを組んでいればフレンドリーファイアも無効になるが、俺は彼等とパーティを組んでいないため、彼等がいると戦いにくい。しかし、彼等は瞬時に激昂する。
「なんだその言い方は! 人を馬鹿にするのも良い加減にしろ!」
ちっ、面倒だな。戦闘中だぞ。こんなやり取りをしていても悪魔は忖度せず攻撃を仕掛けてくるので、対処しなければならない。
「お前らが一人でも欠けたら報酬が下がるんだよ! それに、お前らの攻撃は俺にも当たるんだぞ!」
フレンドリーファイアを指摘すると彼等も流石に引き下がる。ただ、「ガキが……」という捨て台詞ははっきりと聞こえた。
ユルマズさんの部下達が全員戦場から離れていったので、これで安心して戦える。が、悪魔は中々強い。
まず斧が燃えているのが厄介だ。しっかり回避したつもりでも、炎の余波でダメージが入る。また、感知能力が高いのか、こちらの攻撃も良く回避する。その上自然治癒能力を持っているようで、こちらの攻撃でできた傷跡も放って置くと回復してしまう。
明らかに不利だ。こちらはダメージが蓄積していくのに、相手はジワジワと回復していく。これはアレか。俺が強敵相手に良くやる『一か八か戦法』をやるしかないか。
悪魔は自然治癒を持っているので、できるだけデカい一撃を当てたいが、俺の持つデカい一撃の技には溜め時間が必要だ。確実に当てるにはリスクを取る必要がある。よし、と覚悟を決めてチャンスを待つ。
攻撃は控えめにして相手の動きを見る。斬り落とし……これじゃない。薙ぎ払いから斬り落としの十字斬り……これも後隙が小さい。
小さな攻撃を入れながら相手の攻撃を躱し続けていると、ようやく大きな攻撃が来る。袈裟斬り、逆袈裟から一回転攻撃、から更に溜めが入っての範囲魔法攻撃。
俺は連続攻撃を全て回避して悪魔の後方に回り、短剣に魔力を込める。が、この魔力を込めるのに少し時間が掛かる。
案の定魔力を込め切る直前に悪魔が動き出す。だがここまで来てキャンセルはできない。なんとか魔力を込め切り武技を発動した時には悪魔の斧が頭上から襲いかかってきていたので、サイドステップで回避しようとするがギリギリ間に合わず、俺の左腕が吹き飛び筆舌に尽くし難い激痛が俺を襲う。
「グゥアアァァァァ!」
激痛に耐えようと自然に声が漏れる。悪魔の顔を見ると、にたりと笑っている。少しイラッとするが、まあ許してやろう。なぜなら、片腕がなくなろうと、一度発動させた武技は止まらないからだ。
一般的に悪魔は心臓の代わりに魔石を体内に持ち、その魔石こそが悪魔の能力の根源になる。が、同時に魔石は弱点にもなる。そのため悪魔は魔石の周囲には防御壁を纏っている。
魔力が込められた俺の短剣からは、金色の魔力の刃が伸びている。金色の刃は鎧だろうが防御壁だろうが全てを貫く聖なる刃、『ディバインピアース』。
俺に致命的なダメージを与えたと勘違いして動きを止めた悪魔の胸に、弱点の魔石にディバインピアースが吸い込まれる。
ほぼ全ての悪魔は聖属性が弱点だ。防御壁を貫通するディバインピアースは、悪魔に対して驚異的な威力を発揮する。
「ギィアアァァァァ!」
ディバインピアースに魔石を貫かれた悪魔は絶叫し、ポリゴン状に爆散する。そして散らばったポリゴンは俺の体に吸収されるが、いくらかはこれまで戦っていたユルマズさんの部下達の方に飛んでいった。
ポリゴンを吸収したことで悪魔が倒されたことに気付いたようで、部下達が駆け寄ってくる。
「倒したか!」
「ああ」
俺は激痛に耐え、荒い息を吐いてアイテムボックスから部位欠損も回復する、高価な回復薬を取り出して飲んだ。
ふぅ、と一息ついて彼等に言う。
「すぐに治るから待ってくれ」
「……ああ」
俺の一か八か作戦、別名『肉を斬らせてぶっ殺す』作戦は大抵成功するが、滅茶苦茶痛いのが難点だ。まあ今回は燃える斧で斬られたので、傷口が焼かれて出血が抑えられたのは助かった。大量出血は命に関わるからね。
回復薬を飲むと、五分程で斬られた腕も回復した。生えてくる感じではなく、腕の形にジワジワとポリゴンが集まってきて、やがて凝り固まって俺の腕になる感じだ。ホントゲームの世界だなって思うけど、死んでも生き返ることはできないみたいだ。嫌な世界だよ。
腕を振って感覚を確かめ、問題がないことを確認したら「行こう」と言って全員でダンジョン入口を目指す。
まあここまであの悪魔以外に強敵はいなかったけれど、念の為だ。救出依頼を受けてるわけだし。
慎重に、だが速やかにダンジョンを降りていくと、特に問題も起こらずに無事にダンジョンを脱出することができた。
「ここまでで良いだろ?」
部下達に聞くと、冷たい言葉が帰って来る。
「ああ、十分だ。俺達は俺達で帰るからついてこないでくれ」
「はいはい」
俺も適当に答えると、彼等はさっさと帰っていく。
まったく、俺だって命懸けで助けたのに、人の心がないのかね。まあ、俺も彼等が敬愛する上司に悪態ばっかついてるからな。しょうがないのかな。
彼等が十分に離れたことを確認したら、俺もゆっくりと王都に戻った。
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