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魔導学生ミアの受難恋愛~ネコミミ生真面目生徒と冷徹教師~  作者: 村城 良夢
第1章:魔導学生ミアの研究レポート~終わりなき恋人たち~
3/3

五話 すいません、帰ってくれませんか? / 六話 エピローグ

 五、すいません、帰ってくれませんか?


 金髪で、日に当たったこともなさそうな色白の肌。

 可愛らしい少女だが、キラキラとした真っ赤なドレスが学園でめちゃくちゃ浮いている。

 エレナ=ヴィクトリア=チェンバース。学園に多大な出資をしているチェンバース家のご令嬢。

「このまま送り返しても同じことが繰り返されるだけだ。

 ならば、関係者同士で決着をつけてもらうしかあるまい」

 流石先生、手際が良いというか、雑に放り投げたというか。

「エレナお嬢様!まさか再びお会いできるとは!」

「あぁ!カール!わたくしのような高貴の生まれに不釣り合いである貧乏人として、奴隷同然に一生従うと約束したじゃない!」

 口悪いな!この人!

 な、なんか想像していた人物像と大分違うなぁ。

「俺だって、君に媚を売って卑屈に生きていきたかったよ!」

 生きていきたかったんだ。

「まぁ!出て行って心配していたけど……以前と変わらず、始終ビクビクして他人の顔色伺う無様さに拍車がかかって素敵よ」

 素敵か?

「……気がついたよ、俺は、他人にいじめられるより、君にいじめられる日々が何よりも心がときめいたことに!」

「あの、話がついたらとっとと帰ってくれませんか?」

 先生に無理言って同席しといてなんだけど、むしろ私が帰りたい。

「そんなぁ、貴方にはシンパシーを感じていたのに」

「やめてください。私に精神的拠り所を置かないでください。馴れ合わないでください。不快です」

 ただの被虐趣味と、好きな人に認められたい少女の努力を一緒にしてほしくない。

「あらあら、貴方!わたくし野良猫って初めて見たわ。ペットにしてあげもよろしくてよ。

 下賤なケダモノには、見たこともない餌をめぐんでさしあげるわ」

 腹立つな!この人!

 言葉は丁寧だけど、真っ向から喧嘩売ってる。しかも一切の悪気がない。

「以前から打診してるけど、そちらの殿方にも私の執事として、仕えることを許してあげているの」

 あ、先生がビキビキきている。横で学園長が抑えている。

 う~ん、先生がこの依頼に気乗りしなかった理由も頷ける。

「こ、こらエレナ!先生方になんという失礼を!」

 後ろから現れた恰幅のよい中年紳士。

 恐らくこの人が、チェンバース伯爵。

「この度は、娘たちがご迷惑をおかけして誠に申し訳ない」

 ふ、普通の人だ……。

 なぜ彼の肉親に人格破綻した娘と、雇用者に問題児警備員がいるのだろう。

 なんというか、人生は不揃いなことばかりだ。

「カール!このバカモノ!少しは根性をつけてくるかと期待していたのに……」

 え、あぁ……そういうことか。

「いつまでも娘の言いなりになってばかりで情けない。

 性根を叩き直すため、突き放して放り出したのに、根性なしのまま戻ってきおって……」

 別れさせるつもりで追い出したのかと思ったが、普通に理解ある父親だった。

「でも当人同士は満足しているようですが……」

 思わず、口をはさむ私。

「そうは言いますが、わしの義息がコレになるんですぞ」

 う……、アレが跡継ぎは嫌かもしれない。

「当人と言うなら、わしだって立派な当人だ。文句いう権利はある!」

「そういうことでしたら、解決策を提案しましょう」

 にっこりと微笑むロウェン先生。作り笑い恐っ!

「精神面がご心配なら、私が鍛えてさしあげましょう。

 ここに私が研究室用に組んだ『新入生歓迎プログラム』があります」

「わぁ、懐かしいなぁ。魔力を封じられて、魔獣の折の中に放り込まれたり、十キロの重りをつけて、山中をマラソンさせられたっけ★」

 光を失った眼差しでプログラムを見つめる私。少々、意識が混濁しているようだ。

「ひぃぃぃ」

 遠い目をする私に、悲鳴を上げるカールくん。

「それはそれは、お言葉に甘えてもよろしいですかな。

 いやぁ~、面倒見が良い先生とお聞きしておりましたが、これはルナリス魔導学園も安泰ですなぁ」

「何卒、お任せください」

「はっはっはっ、ロウェン君は頼もしいことだ。

 ところでチェンバース伯爵、折角学園に足を運ばれたのですから、次回の寄付金のお話を……」

 学園長と先生と伯爵で、話がまとまろうとしている。

「そんな!カールはこのままで良いのに!卑しく私の靴を舐める下僕のように魅力的な男なのにぃ!」

「あぁ!俺は一体どうなってしまうんだ!」

「まぁ、大いなる力は、痛みを伴うと言いますし……」

 混迷を極める連中を横目に、私は漫然と佇むのだった。


 ◆


 六、エピローグ


 場所は、学園室を出た通りの購買部。

 あの後、関係者たちのゴタゴタを尻目に、学生の私は一足先に抜け出していた。

「はへ~、お小遣いが~」

「む、何をそんなに猫缶を買っている?」

 話が済んだのか、付き合っていられなかったのか、先生も顔を見せる。

「例の『獅子の疾走(キャット・ドライブ)』は、あくまで瞬時の交渉術なので、対価が必要なのです」

 あの時協力してもらった猫たち分の餌。

 正直、猫缶とは言え、学生にとっては痛い。

「それなら、私に任せておきなさい」

「え?」

「今回、君はよくやってくれた。独自行動が目に余るとはいえ……私の予想を超えて成長している」

 厳しくて、生徒想いの良い先生。

「向上心のある生徒は大歓迎だ。より一層、励むように」

 先生が私の頭を撫でる。

 誰かに頭を撫でられるのは好きじゃない。

 でも、先生に触れられるのは好きだ。純粋に嬉しい。ゴロゴロと喉が鳴る。

「うにゅ……はいっ!」

 わたし中で。

 いつの間にか。

 きっかけはどうあれ。そう、あってしまった。

 未だに実力の差を感じて、劣等感に苛まれるけど。

 厳しい課題を出されたら恨む事もあるけれど。

 ”愛おしい”と想う。

 貴方の理論では、分からないでしょうけど。

 もはや理屈を超えた部分にある。


 一つ言える事は、私は先生に出会えて良かった。

 先生と過ごす時間は、感謝しきれない程だ。

 仮にこの想いが実らなくても、幸せだったと伝えたい。

 ミア=パーカーは、貴方を想えて幸せでした。


 「この猫缶は、経費で落とそう」

 案外、先生はしっかりしてる人だった。

「それと今回の実践授業のレポートは、3日以内に3枚でまとめるように」

 やっぱり、鬼だった。

 お読みいただきありがとうございました。

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 最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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