表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導学生ミアの受難恋愛~ネコミミ生真面目生徒と冷徹教師~  作者: 村城 良夢
第1章:魔導学生ミアの研究レポート~終わりなき恋人たち~
2/3

三話 いわゆる、惚れたもん負け / 四話 お願いですから、勘弁してください

 三、いわゆる、惚れたもん負け


 先生がチェンバース家側の事情を調査している間、私の方で、カール側の事情を聞き出しておきたい。

 そう思って接触したのだが――

「俺は……エレナ様のお父上に言われたんだ。『娘と付き合いたいようだが、無名の騎士崩れに娘を任せることなどできん。何かしら成果を持って来い』……と」

 なるほど、一見話の分かる父親だが、身分違いの恋に腹をたて、無理難題を押し付けて諦めさせる魂胆だろう。

「だから伝説だのなんだの言ってたんですね」

「そう!例えば、竜牙山脈に住まうドラゴンを倒すとか!」

「あ、それこの前、課外授業で先生が標本にしていましたよ」

「……伝説のエリクサーを見つけ出すとか」

「それもこの前、先生が薬学の授業で調薬していました」

「ぐわぁーーー!」

 気持ちは分かる。

 ホンモノを目の前にすると、自分の野望などちっぽけになってしまうのだ。

 否が応でも自分の矮小さを実感させられる。

「ミア!それは……君の隣りにいた教師だろう?」

「ロウェン=マクロード。名前だけでも聞いたことがあると思います」

 『魔術王』、『真実の幻視者』、『闇夜の誓約者』。

 呼び名は数あれど、共通するイメージは一つ――人類の枠を超えた”バケモノ”。

「いや……そうか、やはり……。以前、エレナお嬢様が学園を訪れた際に、えらく気に入ってたんだ」

 はぁ、彼女もか。

 マクロード先生は、名声も実力もすべてが備わっている上、むやみやたらと美形だ。人を寄せつけない雰囲気は、よく言えばミステリアスにも見える。

 “完璧”とは、あの人のことを指すのだろう。

 世間知らずなお嬢さんが惚れ込んでも不思議ではない。

 学園でも女生徒に人気だった。

 それを責められはしない――私もその内の一人だ。

 先生にとって、私は学生の一人にすぎないとしても。

 だからこそ、私はこの依頼内容に少し興味があった。

「それは……やはり恋人として、気になりますか?」

「……いやぁ、まぁ、それはそうなんだけど……俺、彼女の素直なところ、好きだから」

 たどたどしく語る口調に、こちらも照れくさくなる。

「……エレナお嬢様は、何事にも自分に素直で、それ故に度々人と軋轢が入ることもあるけど、俺にとって、指し示す先を教えてくれる……かけがえのない存在なんだ」

 エレナ嬢に直接お会いしたことはないが、大人しい深窓の令嬢と言うだけではなさそうだ。

 ――相手の欠点すら愛おしく思える。

「なんだか、私も分かる気がします」

「そう?ひょっとして……君も?」

 一瞬、答えようか迷ったが……ゆっくりとうなずく。

「確かに先生は、授業はスパルタだし、私語してるとすぐ怒るし、いつもむすっとしてるし、課題の提出期間は短いし、冗談は分かりづらいけど――頑張った分だけ褒めてくれる。実は優しい人なんです」

 なんというか、改めて口にすると照れる。

「あの長い指から紡ぎ出す魔術は、芸術のようにとても美しい……。

 あ、この眼鏡も、先生が手づから作ってくださったんです!」

 私は、眼鏡をかけ直す。

 勉強で視力が下がった私に、先生からの贈り物だった。

 甘えを許さず、いつも冷たく厳しい彼の中に――優しさを知ってしまった。


「そっか……なんだか君にはシンパシーを感じるよ。はは、勝手にだけど……」

 カール……いや、カールくんは、弱々しくつぶやく。

「私は……好きな人のために変わろうとする努力は、報われてほしい……と思います」

 だって、私もそうだから。

 これは同情であり、自分自身へのなぐさめと共感にも似ている。

 傷の舐め合いなのだろうか。

 超える壁の大きさ。卑屈にならざるを得ない環境。

 劣等感と羨望。

 憧れと尊敬。

 普通の生徒として先生を見ていたら、苦しまずに済んだのかもしれない。


「君が学生でありながら、戦闘慣れしてるのは、あの先生の影響?」

「はい、先生の教育方針が『心技体』なので」

 健全な魔力は、健全な肉体に宿る――という考えから、何事も超スパルタだ。

「……魔術師じゃなく、格闘家養成学校なの?」

「貴方こそ、あんなところで、ガラの悪い人たちと何をしてたんですか?」

「よくぞ聞いてくれた!

 まずは自分を変えるために、自分とは真逆の人たちの仲間になり、善良な市民から悪の手に染まろうとしてたんだ!」

「きっちり迷走してますね」

 目的を見失って、手段が迷子になっている。

「その様子では、野盗らしい犯罪はまだしてないさそうですね」

「ずっと後ろに隠れて、ぷるぷる震えていたからね!

 お陰で無難なお使いしか頼まれなくなりました!」

 おいおい。

「もっと冒険パーティを組んで討伐をしたり、剣闘士の大会に挑んだり、真っ当な努力をしましょうよ!」

「そんな根性あったら、町中でのんべんだらりとしている訳ないだろう!」

「開き直るなぁっ!」

 思わず、敬語が取れてしまった。

 自分から動きたくないが、名声は欲しい。……性根が腐っとる。

 可能性や希望があっても、根から腐っていては花の咲かしようがない。

「いやいや、自分で分かってるなら、こんなところでパッとしない人たち相手に媚び売ってないで、もっと……」

「ほう、面白い話をしてるじゃねーかお嬢さん」

 私の言葉を遮って、洞窟から出て来た野盗連中。数、十数人。

 ふむ、獣人の私ならカールくん込みで逃げおおせる自身はある。

 ――が

「何をしている」

 後ろから、聞き覚えのある冷たい声に、私の足はすくんだのだった。


 ◆


 四、お願いですから、勘弁してください


 殺気立つ野盗を一瞬で掃討し、マクロード先生は私をにらみつける。

「学生がこんな時間まで出歩くべきではない」

 私を探していたにしても、一体どうやって見つけたのか。

「夜は魔道士の真骨頂ですよ。先生」

「君にはまだ早い」

 むむ、まだまだ子ども扱いされてしまう。

「昼間にターゲットを逃してしまったので、見つけられないかと探っていました」

 そのターゲットことカールくんは、先生の攻撃魔法で歪んだ地形の端っこでぷるぷる震えている。

「はぁ」

 ため息をつく先生。

 ビクッと反射的に身体がこわばる。

「今回の君の行動は、思慮が浅く、反省点も多い。特に独自行動は慎むように」

「うっ……忌憚のないご意見をありがとうございます」

 冷たい目線が厳しい。

「だが、魔法の使用許可を出したことについては、私の責任だ。

 ターゲットを逃したことは、君が君の責任以上に気に病む必要はない」

 先生の慰めが逆に惨めにさせる。泣きたくなる。

 そして、こういう生真面目なところが好きになる。――好きになってしょうがない。

「で、ミア=パーカー。状況説明をしてもらおうか。説教はその後だ」

 前言撤回。好きだからって、なんでも受け入れられるわけではない。


「……ほう、なるほど。何か伝説となる手柄を立てたいと――ならば、この私を倒してみなさい」

「えええええ!」

「丁度良い、ミア=パーカー。君の期末試験も兼ねる。君の実力がどれほど向上したかテストする。

 二人併せてかかってきなさい」

 スパルタ!鬼!冷血漢!

「待ってください!無理です、無謀です、非人道的です!」

「安心しなさい、私はここから一歩も動かず、人差し指だけで戦おう」

 言うやいなや、人指し指一本で、虚空に魔法陣を描く。

 空中に生まれる無数の火球。

 呪文省略&魔法陣簡略化で、通常なら発動すらしないが、先生に理屈は通じない。

「ひぇぇぇ!」

 襲いくる火の玉に、悲鳴をあげるカールくん。

 ごめん!守れないから、自分でなんとかして!

 私も身を翻し、火球をなんとか避ける。

 こちらも自衛だけで精一杯である。

「くっ」

 くるん、とカールくんは、剣で火球を薙ぎ払う。

 ――って、ええ!戦えるのかい!

 なるほど、出会った際に(邪魔が入ったとはいえ)先生と私から逃げおおせたのも納得がいく。

 不思議だったのだ、こんな逃げ腰でチェンバース家のご令嬢の警備が務まるのかと……。

 答えは――ものすごく弱気で、根性なしで、自己評価が低くて、実力だけはある人だったんだなぁ。


「ほう、面白い」

 ひぃぃ!先生の対抗心に火をつけてしまった。

闇霧ダーク・ミスト!」

 カールくんが叫ぶと、辺りに暗黒の暗闇が広がる。

 いや、魔法も使えるのかい!

 目眩ましの魔法だろうか。足元も見えない完全なる暗闇に支配される。

 人間の先生には見えないだろうが、私は夜目が利く。お陰で、先生の居場所が分かる!

 ふっ、と先生が再び指で虚空に落書きのような円を描く。

 瞬間、暴風が吹き荒れる。

 これは――風の基礎魔法だが、威力が段違いである!

 風に闇が払われる。

 あぁ、自分の矮小さを実感する。

 ――でも、諦められない。どうしても譲れないものがある!


 ダッ、と霧が払われるタイミングで距離をつめる。

 昼の反省を活かし、目標は外さない。

 例え人外レベルの魔力と規格外の戦闘力を持っていようが、先生は人間である。

 人間の認識。人間の思慮。種族という限界がある。

 卑怯と言われようが、人間の弱点を突かせてもらう。

 ――対マクロード先生用必殺技!

「獅子の疾走キャット・ドライブ!」

 力ある声を叫ぶと、周囲の草むらがざわつく。

 暗闇で光る複数の目玉、その数、数十体。

「なっ!?」

 人ならざるものが、先生に突撃する!

『みぃ~』

『にゃぁ~』

『うにゃぁ~』

 トラ柄、白、ハチワレ、子猫から成猫まであらゆる種類が襲撃する。

 ゴロゴロ、すりすりと媚を売る!

「……くっ、卑怯な!」

 言いながら、なんとも言えない表情に歪む。

 おぉ!あの鉄仮面が崩れかけてる!先生、やっぱり動物お好きだったんですね!

 こういうところ、たまらなく可愛いんだよなぁ。なんて呑気に考えてしまう。

 ともかく、周囲に猫がいる以上、派手な攻撃魔法は使えない。

「さぁ!カールくん、チャンスですよ!」

 今回の目的上、カールくんが止めをささないと意味がない。

 と、振り向くと……何やら草陰に怯えてビクビクしてる塊が一つ。

「いや、ムリムリムリお願いミアが倒して!……俺はここで応援してるから」

「人任せにするなぁ!――っうぐ!」

 カールくんに気を取られてる間に、木の根によって縛られる。

 ――これは昼間私がやった、樹木よる拘束魔法!

 振り返ると、体中に猫をくっつけ、子猫を落ちないように抱えながら、ギリギリの体制で地面に手を当てる先生。

 ――大地を媒体に植物を操るとは流石。

 だが……

「指一本じゃないので、レギュレーション違反ですよ」

「まったく、君には驚かされるな」


 その後、怯えて震えるカールくんをふん縛り、なだめ、あやし、なんとか学園まで連れて帰った。

「カール!」

「エレナお嬢様!」

 翌日、学園にど派手な女性が現れたのだった。

お読みいただきありがとうございました。

もし、作品を気に入っていただけたなら、「いいね!」やブクマ、評価【★★★★★】をいただけると大変励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ