理
今回は物語の核を担う『理』(コトワリ)についてです。今まであやふやだった部分の謎が解ける……筈。うん。きっと(小声
『理』――東洋で発達した呪いの類。これを極める事が『武』における全ての者達の目的。
己の内に宿る『功』・『君』・『尊』・『守』と呼ぶ四つの概念が肉体と精神を支える。
『理』は最強を目指す者。
あらゆる手段で『天下無双』を志す者の自身の改造であり、『理』の能力を支える源を『泉』と呼ぶ。
自然・人工物と調和して、その場の環境に適応する能力を『理解』し、技を思い付くケースもある。この際、その必殺技の事を『業』と呼ぶ。
『功』は主に攻撃時に発動される理念。
『君』は味方・敵との連携時に発動される理念。
『尊』は天からの祝福。恩恵。補助や召喚時に発動される理念。
『守』は主に防御時に発動される理念。
更に五感(視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚)+第六感(個人の『理』に潜む『泉』よりも深い『業』=『謎』)を自由自在変幻自在に操り、『革命』を呼び起こす。
『天下無双』レベルの『理』の使い手ならば、善人悪人関係なしに世界を滅ぼす或いは救う事も出来る。
『理』が第三次世界大戦の引き金の一つとなった理由はこの独特の異能力にある。
人々は過去に様々な軍事兵器を創り出して来た。
古代の武器は棍棒や石斧。防具は獣の毛皮や麻の衣。道具は呪術用の豊作を願う藁人形や女性の生殖能力を神聖視して崇める土偶等。
中世の武器は剣や刀、弓、槍、フレイル。防具は鎖帷子(西洋で言う所のチェインメイル)に甲冑、プレートアーマーやブリガンディン。道具は錬金術師が作りしエリクサーや聖杯等の聖遺物である。
近世になると鉄砲の登場で、人々は防具を作らなくなった。威力があまりにも強すぎて対抗出来なかったのだ。
その後、科学の発達と共に武器は兵器に成り代わり『核』による戦争は最早人類の避けて通れぬ道――と思われた時代の先に……『理』と呼ばれし東洋の呪いが誕生したのだ。
『理』の力は個人に大きく委ねられる。
その為、『核』等の軍事兵器は時と場合によって使い分けられる様に自然となっていった。
更に過去に無用の長物と化した剣・刀・槍・弓・鉄砲等々に至るまでが個人にとってとても取り回しが良く更に『理』の能力に依存し易い(つまりは利用出来る)傾向にある為、今となってまた商いに幅広く流通しているのだ。
防具と道具も同じである。
現代の大和国に武士や侍、忍者、くノ一、僧兵等が復活しているのはこの様な原理からなのだ。
決して世の中に変態が増えた訳ではない。『理』を持つ者=装備品が過剰になっている可能性が高い(少なくともその確率は否定出来ない)。
『理』本来の話に戻ろう。
基本的には『泉』の量を個人が認識し、適性の『業』を発動する。
『業』と『泉』は精神の深い場所で結び付いており、その深淵には獣――『召喚獣』が理性の檻に閉じ込められている。
*
「……それを『理』としてだな。『功』・『君』・『尊』・『守』――五感と第六感を駆使して、能力を発動するんだ! あ~ゆーOK?」
俺――忘れられない様に念の為言っておくが――ナギ事、城宗凪は自慢気に腕を組みウンウン頷く。
「しっかしあんたもお喋りだね。こっちは化粧が崩れるんじゃないかと思うくらい長い間耐えてたってのに、何一つ頭に入ってこなかったよ」
「え? マジ?」ポカンとする俺。
「嘘ついてどうするんだ? あんた説明へたくそ。論より証拠だ。私に良い考えがあるよ」
「ど、どんな?」まさか俺の完璧な取説を否定されるとは。この人、真正の馬鹿じゃないか?
「簡単な事さ♪」
夜の仕事が主な業務なだけにまだこの時間帯に元気があり余っている遊女――御柳さん。俺は二つくらい年上に見える彼女のニッコリ笑顔に少しドキリとしつつ、聞かずにはいられない。
顔面化粧で完全武装してるとは言え、彼女はとても美人だからだ。
何故か嫌な予感しかしないのは俺の頭がラりってるせいか?
「私にその『理』とやらを発動しておくれよ」
いや、目の前の遊女の頭がラりっていた。
「実はまだ見た事無かったんだよね。その超常の力ってヤツ? をさ♪」
「え? マジ? それ引くわ」ポッカ―ンとする俺。
今時『理』を知らないなんて……原始人がパソコン一式を揃えてネットでITビジネスを起業するくらいあり得ない事態だぞ。
「何? それともやっぱり嘘だったのかい?」
「いやいやいや、俺は史上最年少の『忍』だぜ? 朝飯前さ~♪」
「へ~♪ やっぱさっきまで見てた悪夢は本当だったんだ。『忍』になれたんだね。おめでとう」
「ありがとう。じゃあ、見せるぜ? 『理』を……!」
ザワリ……! と、周囲の空気が張り詰めたモノになる。
瞬間、御柳さんの背筋に……ゾクッ! と悪寒が撫でる。
五感と第六感を駆使して周囲の環境(自然と人工物)を掬い取る様に自身の『理』と調和。精神の中枢。理性の檻に閉じ込められている『召喚獣』が『泉』と結び付いている『業』に呼応し吠え猛る!
グオオオオオオオオオ……!!!!!
「……何!? 何の声!?」
御柳さんは縋る様に俺の方を見た。そこで異変に気付いた。
俺の身体……五体……肉体……肢体……全身……『存在』そのものが強力な『泉』――『理』の源泉として赤黒く輝いている事実に。
その溢れ出る赤黒い『泉』のオーラを原動力として、俺は遊女相手に軽くいなす様に笑った。
「俺の中に巣食う『召喚獣』は『火』と『闇』の属性を宿している。それを『理』として今から操るぜ?」
本来『召喚獣』は誰しも精神の中、理性の檻にいる。『召喚獣』には属性が宿っており、それはその持ち主である『理』の術者にも反映される。
更にここから『理』の『泉』を主軸、主要体力にし俺は拳を握り締める。
「何を……する気なのかしら?」
「本来なら刀を駆使したい所なんだけど、今ここには無いみたいだしね。この部屋の物をちょっと借りるぜ♪」
発動するのは『功』と『尊』だ。
主に攻撃時に発動される理念。
天からの祝福。恩恵。補助や内なる獣を召喚時に発動される理念。
二つの理念を武器・防具・道具・環境(自然や人工物など=森羅万象)の内――
――環境(森羅万象)に結び付け、『適合』! この部屋のあらゆる物に『魂』が吹き込まれた。
「え!? これはどういうカラクリかしら?」
「コレが『理』の術だ。少しは信じて貰えたかな?」
布団、床の畳、箪笥、机、ミシン、アイロン、その他雑貨類が宙に浮いてまるで生き物の様に蠢いている。
『理』に『適合』された環境(森羅万象)はその主の『泉』が途切れるか、強制的に消せばまた元に戻る。
「まるで――生き物みたいね」
「ああ、実際にコイツ等は俺の『魂』の一部。俗に『付喪神』と呼ばれる」
『付喪神』――西洋においては絶対神、唯一神なる一神教が万物を司ると伝わる。特に地続きな『アナーヒター大陸』と『ミトラ大陸』では自らの宗派が唯一絶対の神だと主張する過激な宗教戦争が各地で相次ぎ、今もその睨み合いが続いている。
島国の大和国は独特の風習を昔、『ミトラ大陸』の中心部から東洋へと波及。伝播し、元来――万物。或いは万物根源に神(魂)が宿るという教えへと発展した。
大和国。全ての宗教がそうした考えではない……が、過去に鎖国を行った『黄金の国』ではその絶対神とやらの教えは各国を遊行する修道士、宣教師の横行を阻んだ為に上手く伝えられなかった。
第一次産業革命後、世界国家は連合国と枢軸国に分かれ第一次、第二次世界大戦を正に軍事力による兵器――に頼ったが急速に発展する科学の進歩と言う枠を超えたのが第三次世界大戦の『理』による使い手達のゲリラ戦と言う形に全く姿形を変えたのだ。
果たして人類は進歩しているのか退化しているのか?
『功』と『尊』の性質を併せ持つ俺の『理』によって『魂』を吹き込まれた『付喪神』を見て、
「参ったわ。これ以上部屋を荒らされたくないしね。あんたが本物の『理』の使い手だってのは認める」
「……ん~? 良く聞こえないんだけど……何か忘れてないかしら」
「あ~……調子乗んなクソガキ。正真正銘の『忍』だね! これで満足かい?」
出来ればスリーサイズとすっぴんを教えて。それにオマケで働いてる遊郭の一日無料遊興券も欲しいな……な~んて言ったら殺されるので大人な俺はそこで止めておいた。人間引き際が肝心。しつこい男は嫌われるのだ。
さて、こうして俺が『理』の使い手。本物の『忍』だと証明出来たぞ~♪
理解できた人、意味不明だった人、ここまで読んでくれてありがとうございました~!
まだまだ続くぜ~……うん。きっと(小声