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引きこもり龍姫と隻眼の龍  作者: 鳥居塚くるり
8/114

8 パーティ結成(本日限定)


「これがいいと思うよ!」


『いや……採取は時間がかかる。このCランクのアルミラージ討伐にしよう』


「昨日も討伐だったじゃん! 今日はのんびり採取しようよ!」


『のんびりしているヒマはないと言っただろう。討伐クエストの方が報酬もいいし、すぐ終わる。追加でレアアイテムも手に入るかもしれん』


「でも討伐対象に辿り着くまでに他の魔物も倒さないといけないし……、今あるのって、人口の多いⅮランクの冒険者にも人気のやつばっかりだから、お昼ご飯を食べる時に他の冒険者の人とかち合っちゃうし……」


『今から昼飯の心配をするな。というか、俺たちは討伐に行くんだぞ。昼飯とかどうでもいいだろう』


「どうでもよくない! 一番重要だよ! 別にね、食べるのはひとりでいいの! けど、周りに“あいつひとりで食ってるぜ”“マジかよ、友達もいねーのか”って同情の目で見られるのが嫌なの! 私は好きでひとりでいるんですぅ! って言いたいの!」


『本当にどうでもいい話だな。そんなに気になるなら、俺が人型になって一緒に食ってやる』


「ルベルが人型になると、逆に注目されるんだよ! ちょっと顔がいいから、女性冒険者がこっちをチラチラ見て、“どうしてあんなイケメンが、あんなこ汚い子と一緒にいるのかしら”“きっと何か弱味を握っていて、無理矢理服従させているんだわ”“酷い女ね”とか何とか言われて、“その酷い女、オレたちが調教してやろうか、うへへへへ”って薄暗い森に呼び出されて手籠めにされて、最終的には海の藻屑になるんだよ!」


『だからそれはお前の妄想だろう。しかも何でいつも手籠めにされる展開になるんだ。いい加減、色々と面倒くさいぞ、お前』


リーンとルベルは、ギルドのクエストボードの前で言い合いをし、中々受けるクエストを決められないでいた。


『本当は、このBランクのロックバードの討伐をやりたいが……最低必須人数が3人だ。パーティを組んでない俺たちには受けられない』


「パーティなんて、リア充じゃないと無理だよ。私たちみたいな底辺の人間は、大人しくヘルバを摘んで、日陰で生きて行かないと……」


『俺を“底辺の人間”の中に入れるな。まぁ実際、他の冒険者はただの足手まといだし、俺の使う魔法は特殊だから、他のヤツがいる時は使うのを避けたい。ロックバードは諦めよう』


「じゃあ採取クエストを……」


『アルミラージだ』


「おっ! このロックバード討伐はどうだ? 3人以上で受けられるぜ!」


リーンとルベルが睨み合い、堂々巡りをしていた時、隣でボードを見ていた冒険者パーティの会話が聞こえ、リーンは思わず顔を向けた。


そこには、昨日出会ったシオンとカイル、キャロルの姿があった。カイルは自分たちを見ていたリーンに気付き、声をかけた。


「あれっ、もしかして、昨日の……」


「あ、あ、あ、あ、そそその節は」


「リーン」


シオンに名前を呼ばれ、リーンは少し赤くなった。


「あんた、冒険者だったの? そのドラゴン……もしかしてテイマー?」


「え!? ドラゴンって……もしかして、あの有名な新人ドラゴンマスター!? マジかよ!! 昨日、どっかで聞いたことあるような風貌だと思ってたんだよな! ホントにドラゴンを肩に乗せてるぜ!! すげぇ! オレ、ドラゴンなんて初めて見た!!」


シオンの言葉を聞き、ルベルに目をやったカイルは、興奮気味にまくし立てた。


『リーン、まさか知り合いか? 俺の知らない所でいつ知り合った?』


ルベルは、リーンに知り合いができていたことに純粋に驚いていた。


「うぉ!? 喋った!? マジか!! コンニチハ! コンニチハ!」


『……少しうるさいぞお前、黙れ』


まるで九官鳥に言葉を教えるような喋り方をしたカイルを、ルベルはぎろりと睨み付けた。そしてリーンの方に顔を向けると、淡々と尋問した。


『こいつらは誰だ? いつ知り合った? どういう状況だったんだ?』


「え、えっと……あの……」


どう説明していいのかわからず、モゴモゴと口を動かすリーンを流し目で見ていたキャロルが、口を挟んだ。


「その子がシオンを逆ナンしたのよ」


『はぁ!?』


「いやっ!! ちがっ!! 違う違う違う違う!!」


慌てるリーンを見て、シオンがルベルの前に出た。


「リーンが俺を店員と間違えて話しかけて、それをおれがナンパされたって勘違いしたんだ」


リーンは、シオンの言ったことにコクコクと激しく頷いた。ルベルは黙ってシオンを見つめ、その銀色の瞳に、リーンが感じたような、何故か懐かしい不思議な感情を抱いた。


(何だ? この人間は……。前に、会ったことがある?)


「なぁ! リーンちゃんもクエスト受ける所なんだろ? よかったら、オレたちと一緒にロックバードの討伐に行かないか?」


ルベルが何か思い出そうと思案したのを、カイルの提案が遮った。


「ちょっと! 何言ってんのよカイル! この子、冒険者の間で噂になってるのよ! ソロで動いてて、人を寄せ付けないって……」


「そんなのただの噂だろキャロル。オレ、ドラゴンが戦うとこ見てみたいんだよ! な!? シオンもいいよな?」


「おれは別に構わないけど」


「ちょっと、シオンまで……」


「ほら~、シオンもぜひって言ってるしさぁ! リーンちゃんも、どう!? いい? いいよね!?」


カイルに顔を覗き込まれ、リーンは目を泳がせた。


「へ!? あっ、あの、え、えっと……」


「リーン、おれも、あんたと一緒に戦ってみたい」


シオンに期待を込められたような瞳を向けられ、リーンは背中に変な汗を掻いていた。


(どっ、どっ、どっ、どうしよう……! 何かめっちゃ断り辛い!!)


『報酬の分配はどうなる?』


動揺するリーンの代わりに、ルベルが口を開いた。


「ルッ、ルベル!?」


「お!? ドラゴンちゃんは乗り気だな! 報酬はギルドの規定に沿って4等分。ウチのパーティでは、ドロップアイテムは分けれる物だったら分けて、そうじゃないのは順番で貰うって仕組みにしてんだけど……今回はドラゴンちゃんたちに全部譲るぜ。無理矢理誘ってるのはコッチだしな!」


『いいだろう。今回だけお前たちとパーティを組んでやる。あと、俺のことはルベルと呼べ。二度とドラゴンちゃんと呼ぶな』


「交渉成立だな! よろしくルベル! オレ、さっそく受付で手続きしてくる!」


カイルはそう言うと、シオンとキャロルを連れて受付に行った。


「ルッ、ルベル! 大丈夫なの? あの人たちがいたら魔法が使えないじゃん!」


『ロックバードごとき、魔法を使わなくても倒せる。というか、ちょうど受けたかったクエストだし、渡りに船だ。報酬が4等分になるのは痛いが、レアアイテムをドロップしたら俺たちが貰えるから、まぁいいだろう。それに……』


そこまで言って、ルベルは口を噤んだ。


「え?」


『いや、何でもない』


リーンは訊き返したが、ルベルは黙ったまま思考を巡らせていた。


(共に戦えば、あのシオンとかいう男のことが……何かわかるかもしれない)


ルベルは、シオンに感じた懐かしさの正体を探るように、受付にいるシオンの後ろ姿を見つめた。




時は少し遡り、月明かりが照らす夜の森の中……ルベルに殴られたジョニーは、半べそでズルズルと体を引きずりながら歩いていた。


「うぅ……くそっ……痛ぇ……痛ぇよ……」


「キミ……どうしたの? 大丈夫?」


ひとりの男が、ジョニーに声をかけた。

月明かりに照らされ、ひと際目を引く薄いピンク色の髪の毛に、翡翠のような緑色の瞳、穏やかで優しい顔つきをしたその男に、ジョニーはすぐさま泣きついた。


「たっ、助けてくれ……! 今、人型になった龍に襲われて……!」


「酷いケガだね、待って、今、痛み止めをあげるよ」


男はそう言って、ごそごそと鞄の中をまさぐった。


「一体誰にやられたんだい? 人型になった龍ってことは、獣人族かな?」


「わ、わからねぇ……。だが、あの新人冒険者の仲間だ……! 赤い目の女冒険者!」


「赤い目の……」


男の瞼が、ピクリと動いた。


「あの赤目が連れてた龍は、普通の龍じゃねぇ! 右目にすげえ傷があって、おれの事を殺すって脅してきやがった! リーンを傷付けたら殺すって……!」


男は一瞬目を見開いたが、すぐに穏やかな表情をした。


「リーンって、その赤目の冒険者の名前?」


「あ? あ、ああ。ギルドに登録する時に、そう名乗ってた……。テイマーだって言ってたのに、あの女が見たこともねぇ魔法を使って、キラービーをぶっ殺したんだ!!」


「へぇ……そうなんだ……」


「あんな気味が悪い魔法見たことねぇ……きっとあの赤目は悪魔の化身だ! あのツノ野郎は龍じゃなくて、使い魔か何かだ!」


興奮するジョニーを落ち着かせるように、男はジョニーの背中を支えながら、何やら液体が入った小瓶を渡した。


「大変だったんだね……。さぁこれを呑んで。痛みから解放されるよ」


「あ、ありがてぇ!」


ジョニーは男に渡された液体を、ごくごくと呑み始めた。


「あ、ごめん間違えた。それ、水虫の薬だ」


「ぶはぁ!!」


ジョニーは飲んでいた液体を吹き出し、派手に咳込んだ。


「な、なんてモン呑ませんだ!! てか、ほとんど呑んじまったじゃねぇか!!」


「なーんて、嘘だよ」


男はいたずらっぽい笑顔を見せたが、ジョニーは男の胸倉を掴んだ。


「はぁ!? ふざけんな! ナメてんじゃねぇぞ!!」


「軽いジョークだよ。キミは怒りっぽいね。そんなだから、“愛”に気付かないんだ」


「愛? 何を言って……、う……ぐ……」


男を睨みつけたジョニーだったが、突然喉を押さえ苦しみだした。


「ぐっ……ぐぅっ!?」


男は、苦しみながら崩れ落ちるジョニーを、凪いでいる海のような穏やかな瞳で見つめた。


「痛みを与えるのは、愛があるからなんだよ。きっと彼は、キミが“リーン”に深入りしたら、命を落とすことになるって伝えたかったんじゃないかな? 彼なりのキミへの思いやり……つまりは愛だ」


「く……苦し……げぇっ、ゲホッ!!」


ジョニーは目を見開き、口から大量の血を吐くとそのまま動かなくなった。男はそんなジョニーを見下ろし、にっこりと笑った。


「キミは、愛を知るには未熟過ぎたね」


男はそう言うと、森の中へと消えて行った。



月・水・金曜日に更新予定です。

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