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引きこもり龍姫と隻眼の龍  作者: 鳥居塚くるり
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74 笑顔

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次の日の朝、シオンはリーンにきちんと謝ろうと、ソールと共にリーンたちの部屋に向かっていた。


「ついてこなくていいよ、ソール」


「何を言っている! あの暴力龍がまた手を出してくるかもしれないだろう!? 俺様は、シリウスにシオンのサポートを任されているのだ! 今度はシオンに手出しなどさせん!」


「おれが殴ってって言ったんだから、アレはアレで終わったんだよ。だから大丈夫。たぶん」


「とはいえアレはやり過ぎだろう! 顔の形が完全に変わってたぞ!」


「そうなの? まぁ、凄い痛かったけど」


「とにかく! 俺様が様子を見るから、シオンは後ろにいろ!」


リーンたちの部屋に辿り着き、ソールは無理矢理シオンの前に出た。しかしソールが扉の前に立ちはだかった次の瞬間、勢いよく扉が開き、ソールの顔面に見事にヒットした。


「ふぎゃ!!」


「え?」


ゴンという鈍い音と共に悲鳴が聞こえ、扉を開けたリーンが何事かと顔を覗かせた。


「リーン……」


「え、シオ……、え、ソール!?」


リーンは、扉の前で顔面を押さえたままうずくまっているソールに気付いた。


「ごごごごめっ……、まさかいるとは思わなくてっ……! 大丈夫!?」


「ぐぅっ……、シオンだけでなく、この俺様の顔面も変形させるつもりだったのか!? それとも、痛みを与えれば俺様が喜ぶとでも思ったか!? 甘いわ!!」


「え、いや、思ってないけど」


困惑したリーンの後ろから、今度はルベルが顔を覗かせた。


「リーン、気にするな。それより……」


ルベルはソールを一瞥し、すぐにシオンに目を向けた。シオンはルベルの視線を感じ、少し気まずそうな顔をした後、深く頭を下げた。


「リーン! 昨日は本当にごめん! おれ、どうかしてた……。謝られても許せることじゃないと思うけど、もう二度と、絶対にあんなことしない! ジークと洞窟で対峙した後、もう絶対リーンには怖い思いはさせないって言ったのに、それなのにおれがリーンを怖がらせるようなことして……。ジークの話も、リーンのことを信用してなかった訳じゃなくて、心配はしたけど、でもただ単におれの嫉妬心から色々言っちゃって、挙句あんなこと……して、ホントに、本当にごめん」


「えっ、あ、えと」


「もし……、もしリーンが、もうおれの顔なんか見たくないって言うのなら、リーンの視界に入らないようにする。でもおれは、リーンの笑顔が好きだから、リーンが幸せそうに、ずっと笑っていられる場所を守りたいと思ってるから、だから、リーンを、その笑顔を守れるように、ずっと……そばにいることを……許して欲しい……」


頭を下げたまま思いを口にしたシオンを見て、リーンは胸の前でギュッと拳を握った。


「私を見て、シオン」


リーンの言葉に、シオンはゆっくりと顔を上げた。すると、優しく微笑んでいるリーンと目が合い、小さく息をのんだ。


「私、全然怖くなかったし、怒ってもいないよ。その……私の方こそ、シオンの気持ちを知ってたのに、自分のことしか考えてなくて……ごめんね」


「違う、リーンは何も悪くない」


謝ったリーンに対して、シオンは焦ったようにそう言ったが、リーンは緩く首を振った。


「私……きっと、安心してたんだと思う。シオンは優しいから、その優しさに甘えてた。でもね、シオンが“狼騎士”だから、守って貰えるのを当たり前って思ってた訳じゃなくて、私、ただ楽しかったの……。シオンとか、シキさんとかと一緒にご飯食べたり、ピオ七の話したり、みんなでクエストに挑戦したり、笑い合って、ひとりじゃできなかった経験をいっぱいして、楽しすぎて、周りを気にしなくなってて……シオンの気持ちをないがしろにしてたって反省した」


リーンは目を伏せると、握りしめていた自分の拳を見つめた。


「その、私……ルベルが……好き、なんだ」


少し顔を赤くして、ぼそぼそとそう言ったリーンに、シオンは諦めたように笑った。


「うん、知ってる」


「わ、私……自分勝手だけど、それでも……シオンと、友達で、いたくて……。こ、これ……受け取ってくれるかな?」


リーンは握りしめていた拳をシオンの前に突き出した。


「え?」


リーンが拳を開くと、そこには、少しヒビが入っているピオ七のチャームがあった。


「これ……」


「あっ、あのね! シオンが私にくれようとしてたやつなんだけど、割れちゃって、だから昨日直したの! これってレオ様のチャームだし、個人的にシオンはレオ様に似てる気がしてて、口数が少ない所とか、感情表現が下手な所とか……って、あ! べべ別にシオンをディスってる訳じゃなくて、その、シキさんはアカぴーで、私はエリりんのチャームだったから、みんなでお揃いで持ちたいっていうか、そ、その、ホントはルベルに習って錬金術で直そうとしたんだけど、やっぱり私、錬金術の才能なくて使えなくて、で、でも、ルベルが私には王家の血が流れてるから、魔力のコントロールは上手いはずだって言って、だ、だからルベルに教えてもらいながら魔法で直したの! ま、まぁ魔法も、全然練習してこなかったからあんまり上手く使えなくて、綺麗に直せなかったんだけど……」


もごもごと、語尾が小さくなっていくリーンを、シオンは黙って見つめた。その沈黙に、リーンはいたたまれない気持ちになり、開いた手を再び握り、引っ込めようとした。


「ご、ごめん! まだヒビが残ってるし、やっぱりルベルに錬金術で直してもらうよ!」


「やだ」


シオンは、引っ込めようとしたリーンの手を掴んだ。


「リーンが、おれの為に直してくれたんでしょ? このままでいい」


「で、でも……」


「このままが、いい。リーンの一生懸命な気持ちが、詰まってるから」


澄んだ銀色の瞳を真っ直ぐに向けられ、リーンはそっと拳を開いた。シオンはリーンの手からチャームを受け取ると、嬉しそうに笑った。


「ありがとう、リーン。大事にする」


「う、うん……。も、元はと言えばシオンが買ったピオ七に付いてた購入者特典だから……」


シオンは、チャームを自身の腰のポーチにつけた。チャラリと揺れたシオンのチャームを見て、リーンも自身のポーチについているエリりんのチャームを見せた。


「お揃いだね」


そう言って、はにかみながらモジモジと指を動かしているリーンの手を取り、シオンは真剣な表情をした。


「リーン、おれ、さっきも言ったけど、リーンのそばに、いてもいい?」


「えっ、う、うん。ていうか、その……私の方こそ、シオンに……そばに、いて欲しい、よ」


恥ずかしそうに顔を赤くしたリーンに、シオンは胸が締め付けられた。


「やべ……、すごいキスしたい」


「え!?」


「二度目は殺す」


ドスの効いたルベルの声が届き、シオンは目を据わらせた。


「独占欲が強いと嫌われるよ、ルベル」


「そのセリフ、そっくりそのままお前に返す、シオン」


ふたりはそう言い合い目を合わせると、どちらからともなく小さく笑った。


「昨日はいきなり殴って悪かった」


「いいよ。おれが望んだことだったし。おれがあんたでも絶対殴ってた」


シオンはそう言うと、懇願するような瞳でリーンを見つめた。


「手の甲になら……してもいい? キス」


「えっ!?」


「手の甲へのキスは尊敬の意味が込められている。まぁいいだろう」


「ルベルに許可を求めた訳じゃないけど……」


シオンは少し不服そうにしながらも、その場に跪き、リーンの手の甲にそっと唇を当てた。シオンの温もりと、チュッという小さなリップ音に、リーンの胸はドキドキと高鳴った。


「“狼騎士”として、貴方の“友人”として、生涯貴方をお守りします、姫」


「ひっ、姫!?」


思いもよらないシオンのセリフに、リーンの声がひっくり返った。


「なんてね」


茶目っ気たっぷりにペロッと舌を出したシオンを見て、リーンは再び恥ずかしそうに笑った。


(リーン、その笑顔を、おれは絶対守り抜く)


シオンがそう心に誓った時、廊下の奥からグレイスの声がした。


「ここにおったんか」


リーンたちが声のした方に目を向けると、グレイスが親指を食堂の方角に向けた。


「食堂に集合や。朝っぱらから話があるゆうて、ルクスが来とる」


「話?」


リーンたちは、首を傾げながらも食堂へと向かった。



次回5月13日(月)更新予定です。

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