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引きこもり龍姫と隻眼の龍  作者: 鳥居塚くるり
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7 銀色の瞳の青年


「それで……これからどうする?」


(いや、それは……私のセリフです!!)


リーンは財布を握りしめたまま、目を泳がせた。


(ど、どうしよう……お金を払うタイミングがわからない! 商品も向こうが持ったままだし……)


チラリと男性が持っているチェーンに目をやると、男性は「あ」と小さく声を上げた。


「これ、そのままつけるの?」


「え? あ、いえ、あの、これを通して……つけよう……かと……」


リーンがポケットからペンダントヘッドを取り出すと、男性はそれをチェーンに通し、リーンを見た。


「フード外して」


「え」


リーンが固まっていると、男性は手に持っていたペンダントを揺らした。


「フード被ってたら、これ、つけられないでしょ」


「あ、は、はい」


(そっか! 装着までが料金に含まれてるんだ!)


リーンはおずおずとフードを外し、男性を見上げた。男性の銀色の瞳と目が合い、プラチナのように輝く綺麗な瞳に、思わず見惚れてしまった。男性もリーンの赤い瞳をまじまじと見つめながら、リーンの首の後ろに手を回し、ペンダントをつけた。


(カリスマ店員……意外と若いな……)


店で声をかけた時は動揺していた為気付かなかったが、改めて見ると、リーンと同い年位に見えたその青年は、相変わらず淡々とした口調でリーンに問いかけた。


「名前、なんていうの?」


「え? え、えっと、リ、リーン……です」


(え? 名前言う必要ある? カリスマ店員は顧客の名前を聞いて、次の売り上げに繋げる……とか?)


リーンは青年を見つめたまま、疑問に思いながらも小さな声で名乗った。リーンの名前を聞いて、青年も自分の名前を告げようとしたが、その時、リーンの後ろから別の男性の声が聞こえた。


「あっ、いたいた! シオンー!」


銀色の瞳の青年はその声に反応し、声のした方へ目を向けた。リーンもつられて振り向くと、茶色い短髪のガッチリとした男性が、右手を上げながらリーンたちの方へ歩み寄って来ていた。


「今日クエストに行くって言っただろー? ずっとギルドで待ってたんだぜ!」


「ああ……悪い、忘れてた」


「忘れるなよ! ……っていうか、何、誰? 取り込み中?」


声をかけてきた短髪の男性がリーンに目を向けたので、リーンはすぐにフードを被った。


(ひぃ! カリスマ店員の知り合い!? リア充が現れた!)


「あれ? この子って……」


短髪の男性が顎に手を添え、リーンの顔を覗き込もうとした時、再び誰かがこちらに向かって声をかけて来た。


「ちょっとカイル何やってんのー? ……ってシオン! 探してたのよ!」


大きなつばの魔女帽子を被った女性が、シオンと呼ばれた銀色の瞳の青年に駆け寄った。


(ひーーーー! またリア充が増えたーーーー! リア充が仲間を呼んだーーーー!)


シオンという青年の仲間に囲まれ、リーンは動けなくなってしまった。


「何? この子……それにシオン、何持ってるの?」


「あ、ピアス……この子におねだりされて」


(え?)


リーンは、シオンの言葉に我が耳を疑った。


「おねだりぃ!? 何だよ、この子お前の彼女かよ!?」


「はぁ!? シオン!! 彼女がいるなんて聞いてないんだけど!!」


(いやいやいやいや!! え!? てゆうかおねだり!? ちょっと待って!! このシオンって人も私も、何か重大な勘違いをしてないか!?)


「何? いつから付き合ってんの? どっちから告ったワケ?」


カイルと呼ばれていた短髪の男性は、シオンの肩を抱きニヤニヤと尋問を始め、魔女帽子の女性は、値踏みするかのようにじろじろとリーンを睨みつけていた。


「今、これが欲しいって声かけられて、なんか一生懸命で可愛かったから買ってあげた」


シオンがしれっとそう言ったので、リーンはダラダラと汗を流し、口を開いた。


「あ、あ、あ、いや、あのっ……」


「はぁー!? いきなりモノを買わせるなんて、シオン、この子に騙されてるんじゃないのぉ!?」


「ヒッ!」


魔女帽子の女性に睨まれ、リーンはビクリと体を揺らした。


「おい~、凄むなよキャロル。いくらシオンが好きだからって、この子に当たるのは違うだろ~」


「なっ……べ、別にあたしはっ……」


カイルと、キャロルと呼ばれた魔女帽子の女性が言い合いをしている中、リーンはギュッと目を瞑り、深く頭を下げた。


「ご、ごごごごごごめんなさいっ……!!」


そして、自分がシオンのことを店員と間違えて声をかけたことを、しどろもどろに説明した。



「あっはっはっはっは!! なーに勘違いしてんだよシオン!」


カイルは豪快に笑い飛ばし、シオンの背中をバンバンと叩いた。


「新手のナンパかと思った」


シオンは表情を変えず、やはりしれっとそう言った。


「そんなワケねーだろ! お前もホント世間知らずだよなぁ! どこのお坊ちゃんだっつーの!」


「ほ、ほほほほ本当に、もっ、申し訳ございませんでした!! お、お金、お金をちゃんと払いますっ、の、でっ……」


大笑いしているカイルの横で、リーンは財布から銀貨を取り出そうとしたが、手が震え、チャリチャリとお金を落としてしまった。


「すっ、すいませんっ! すいま……」


リーンはしゃがみ込んで、落ちたお金を慌てて拾おうとした。キャロルの呆れたようなため息が聞こえ、思わず涙目になった。


(恥ずかしい……逃げたい……死にたい……。でも、ちゃんとお金払わないと……)


リーンが震える手でお金を拾おうとした時、シオンがしゃがみ込み、素早くお金を拾いリーンに渡した。


「はい」


リーンは潤んだ瞳でシオンを見つめ、ハッとしたようにシオンとお金に交互に目をやった。


「あっ、いえっ、あのっ……これは、あなたの……」


「お金はいらない。勘違いしたのはおれの方だし」


シオンはそう言うと、持っていたピアスを片方だけ取り、リーンに渡した。


「その代わり、これ、片っぽだけ貰ってく。あんたの瞳みたいで綺麗だから」


「え……」


シオンは右耳にピアスをつけると、目元を和らげた。


「またね、リーン」


「……っ」


リーンの心臓がドクンと音を立てた。


(あれ……何だろう……。なんか、この人……)


「ほら、クエスト行くんでしょ」


シオンは立ち上がると、カイルとキャロルにそう言ってその場を後にした。


「なによ、シオンってあーゆう子が好みなわけ?」


歩き出したシオンを追いかけながら、キャロルが不服そうに口を尖らせた。


「うーん、なんか、実家で飼ってる犬に似てた」


「ぷっ! イヌぅ!? 何よそれ」


キャロルはシオンの言葉に思わず吹き出し、カイルはそんなキャロルを見て、やれやれと安堵したように息をついた。




リーンは遠ざかるシオンの後ろ姿を見つめ、何故か懐かしいような、温かい思いが胸を満たしていくのを感じていた。


(変な人……だったな……。リア充なのに、何だか不思議な雰囲気の人……。それに私、あの人のあの瞳、知ってる……?)


手の中のピアスを見つめ、シオンが言った言葉を思い出した。


“あんたの瞳みたいで綺麗だから”


(私の、瞳……。“殺戮者”みたいな瞳が、綺麗だって)


リーンの脳裏には、シオンが自分に向けてくれた真っ直ぐな銀色の瞳が焼き付いていた。


「あの人の瞳の方が……ずっと綺麗だった……」


リーンはそう呟き、シオンに対して感じた既視感に疑問を感じながらも、胸のペンダントを見つめ、ふーと大きく息を吐いた。


(とにかく……クエスト達成……!)


リーンは立ち上がると、宿屋への帰り道を急いだ。




その頃、ルベルも屋台で買った食べ物を手に、宿屋へと戻って来ていた。


(リーンの頭もさすがに冷えただろう。俺も少し言い過ぎたかもしれん……)


ルベルは部屋の前で一度深呼吸をし、扉を開けた。


「リーン、腹が減っただろう。今、屋台で食べ物を……」


そう言って部屋に入ったが、そこにリーンの姿はなかった。


「……リーン?」


呼んでみたものの返事はなく、ルベルの顔に焦りの色が表れた。


「リーン! リーン!?」


ルベルは屋台で買って来た食べ物の袋を床に置き、バスルームやクローゼットの中まで、部屋中くまなくリーンの姿を探した。そして、リーンのローブがコートハンガーからなくなっていることに気付いた。


(まさか……外に出たのか!? あの引きこもりがひとりで!? それともウィーペラの仕業か!?)


リーンがひとりで外に出ると思っていなかったルベルは、急いで背中から翼を広げ、探しに行こうと窓枠に手をかけた。


「ルベル? どうしたの? どっか行くの?」


その時、ちょうど部屋に戻って来たリーンが、窓から飛び出そうとしていたルベルに声をかけた。


「……リーン!」


ルベルはリーンに駆け寄り、思わずリーンを抱きしめた。


「わっ! ルベル? どうしたの?」


ルベルはハッとしてリーンを離すと、胸の辺りで揺れているペンダントに目をやった。


「これは……」


「あのね、私、ひとりでチェーンを買いに行ったの!」


ペンダントを見せびらかしながらどや顔をしているリーンを、ルベルはポカンとした瞳で見つめた。リーンは、ルベルの反応に少し気まずくなり、伏し目がちに言葉を紡いだ。


「えと、私……ルベルが言ったみたいに、本当に甘かったなって反省してる……。これからは、クエストもちゃんと頑張るから……だから、また、一緒に……いてくれるかな?」


ルベルは、リーンを見下ろしたまま息をつくと、優しく頭を撫でた。


「ああ……。俺も、少し厳し過ぎたと反省した」


いつも正論を振りかざすルベルの、少し落ち込んだような声色に、リーンの胸がチリチリとした。


「ルベル、あとこれ……ルベルに」


リーンは、手の中にあった小さな朱色の石が揺れるピアスを、ルベルに渡した。


「諸事情があってひとつしかないんだけど……ルベルにあげるよ」


ルベルは小さく息をのんで、リーンに何か言おうと口を開いたが、リーンは鼻をヒクヒクさせ、屋台で買ってきた食べ物に飛びついた。


「何これ! 美味しそー!」


ルベルは開きかけた口を一度閉じ、フッと笑って袋を取り上げた。


「床で食うなんて行儀が悪いぞ、リーン。ちゃんとテーブルにつけ」


「えー! 私、地べたの方が落ち着くんだけどなぁ……」


「何で人間のお前が地べたで食って、龍の俺がテーブルを使うんだ。意味がわからん」


「じゃあベッドで寝転がって食べる~」


「もっとダメだろ。お前は本当に、悪い意味でブレないな。というかチェーンの件だが、後で俺が錬金術で直してやろうと思ってたんだが」


「ええ!? いや、それ先に言おうよ!?」


「最初に“そんなことか”と言っただろう? あれは、“そんなこと、俺が後で直してやる”って意味だ」


「言葉にしないと伝わらないことって、あるよね!?」


相変わらず言い合いをするリーンとルベルだったが、その日はクエストに行かず、ふたりでゆっくりと過ごした。



そしてその日の夜、ルベルは貰ったピアスを左耳に付け、眠るリーンのおでこに優しいキスを落とした。ピアスに触れ、嬉しそうな笑みを零すルベルに、リーンが気付くことはなかった。



月・水・金曜日に更新予定です。

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