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引きこもり龍姫と隻眼の龍  作者: 鳥居塚くるり
57/114

57 婚約者

57


「ウララ! とにかく落ち着け! 話を……」


「アクイラ様! 今証明してみせます! その娘が()()()()ということを!」


再びリーンに杖を向けたウララだったが、剣を抜き突進してくるシキの存在に気付き、リーンに向けていた杖で、シキの剣を軽くいなした。


「いい太刀筋ね」


「姫を傷付けようとする者に、容赦はしません」


シキから素早く繰り出される攻撃を、ウララは杖を使い器用にいなしていた。


「彼女は傷付かないわ。あの娘は……不老不死なんだから」


「何を馬鹿な!」


「ウララ! シキもやめろ! 話を聞け!」


ウララはシキの攻撃をいなしながら、魔石がついた指輪をはめている左手を、リーンに向けた。すると、リーンの足元に赤色の魔法陣が現れた。


「え!? なにこれ!?」


「バーニング」


「クソッ!」


ウララの魔法が発動するより一瞬早く、ルベルが背中から翼を生やし、リーンを抱きかかえ、先程焼けて出来た屋根の穴から空中へと舞い上がった。次の瞬間、リーンが今までいた赤い魔法陣の部分に火柱が上がり、リーンは体が震えた。


(うっ……嘘っ!?)


「ルッ、ルベル!! マジだよ!! あの子マジで私のこと殺そうとしてる!!」


「わかったかリーン、こういうことだ」


「こういうことってどういうこと!? もっ、もしかして私、あの子に恨まれてるの!? 呪いかけたのってあの子!?」


「いや、それは違う。あんな直接的な攻撃をしてくるヤツが、“呪い”なんていうまどろっこしいことをしてくると思うか?」


「いや知らんけど!! じゃあ何で私狙われてるの!?」


「テレポート」


シキの攻撃の途中で呪文を唱えたウララが、空へと逃げたリーンとルベルの真下に瞬間移動した。そして杖を真上に向け、ピタリとふたりを捉えた。


「ライトニング」


杖から稲妻が放たれようとした次の瞬間、疾風の如くウララの前に現れたシオンが、剣で杖を弾き軌道をずらした。稲妻はリーンを抱えているルベルの横を通り過ぎ、遥か上空へと消えた。


「どうしてリーンを狙うの?」


冷静にそう問いかけたシオンに対し、ウララはフンと鼻を鳴らした。


「あたしは証明したいだけよ。彼女はアンデッドで、あたしが見たことは現実だったって」


「見たって、何を? さっき、殺した男と一緒にいるとか何とか言ってたよね」


「知りたいなら話してあげるわ。そのかわり、あのふたりをあたしに引き渡して」


「ウララ!!」


シオンが話しかけたことにより、少し落ち着きを取り戻したウララの腕を、アクイラが掴んだ。


「とにかく話を聞け! リーンを攻撃するな!」


「アクイラ様! 話を聞いて欲しいのはあたしの方です! 何故アンデッドと一緒にいるのですか!?」


「リーンはアンデッドじゃない! 人間だ!」


「アクイラ様は騙されています! 婚約者であるあたしの言うことが信じられないのですか!?」


「え? 婚約者?」


不意に放たれた言葉に、アクイラは首を傾げた。


「100年経って……あたしはずっと、アクイラ様が迎えに来てくださるのを森で待ってたのに……」


「待て、ウララ。どういうことだ?」


「どういうことって……あたしが5歳の時に、お嫁さんにしてくれるって約束したじゃないですか!」


「……えーと、待て、それは200年前の話か?」


「正確には、180年前の話です! 当時王宮に遊びに来ていたあたしは、アクイラ様に一目惚れして……そしたらアクイラ様が、あと100年経ったらお嫁さんにしてくれるっておっしゃって」


「ジブン、覚えてへんの?」


ウララの話を聞いて、固まっているアクイラにグレイスが問いかけた。


「いやっ、待て待て! 思い出したぞ! あれは確か、まだ小さかったウララと遊んでいて……その流れでそんなことを言ったような……」


「流れ? まさか、あれはその場しのぎの嘘だったのですか?」


「え!? いや、嘘というか、その、冗談というか遊びというか」


「遊び……?」


ウララの顔が、みるみるうちに歪んでいった。


「あっ、いやっ、遊びといっても、遊びの恋愛という意味ではなくてだな、純粋な遊びという意味で……」


「なんやねん、純粋な遊びて」


グレイスが、少し面白がってつっこんだ。


「つまり、アクイラ殿に結婚の意思はなかったということですか?」


シキは、怪訝な表情でアクイラを見据えた。


「え!? いやいや、意思がなかったというか、真剣じゃなかったというか……」


「え、何? やっぱり遊びだったの?」


シオンが被せるように問いかけ、アクイラは慌てて首を振った。


「いやいやいや! 遊びは遊びでも、俗に言う遊びじゃなくてだな……」


しどろもどろになるアクイラを見つめ、ウララはブルブルと体を震わせた。


「あたしは……あの言葉を信じて、ずっと……ずっとアクイラ様をお慕いして、アクイラ様が迎えに来てくださるのを、ずっとずっと待っていたのに……」


ウララの瞳に涙が溢れ、頬を伝いポタポタと地面を濡らした。


「あ、泣かした」


「泣かせましたね」


「泣かせたなぁ」


シオンとシキ、グレイスが横目でアクイラを見た。


「あっ、いやっ、ま、まさか本気にするとは思わなくて……。ウ、ウララ、その、すまなかった」


いつも何事にも落ち着いて対処するアクイラが、オロオロしながらウララを宥めようとした。


「と、とにかくウララ、一旦落ち着こう!」


「……落ち着こう……ですって……?」


ウララは、キッっとアクイラを睨み付けた。


「これが落ち着いていられると思いますか!? 貴方はあたしを騙しました!! ルクスと一緒です!! 信じてたのにっ……!」


ウララは涙を拭き、両手で杖を持つと呪文を唱えた。


「キャプチャー」


すると、アクイラの足元から大量の(つる)が這い上がり、瞬く間にアクイラを拘束した。


「アクイラ殿!」


「構うな! 一旦逃げろ!!」


蔓は、アクイラの名を呼んだシキやシオンの足元にも現れ、ふたりは剣で応戦した。


「な、何だこれはぁ!? し、しまったぁ~! う、動けないではないか~! お、俺様にナニをするつもりだ~!? ハァハァ」


「ソール!! わざと絡まってる場合じゃないでしょ!!」


蔓に絡めとられ、恍惚の表情を浮かべているソールを叱咤しながら、シオンは蔓を切り裂いた。 


『大地は白姫に愛され氷床と化す。“青き光りよ我を導け”』


神獣の姿になったルーナが古の魔法を唱え、地面が一気に凍りつき、這い出ようとする蔓を遮断した。


『皆さん! 今の内に!』


ルーナの声に、シオンとシキはアーウェルサ家の屋敷とは反対方向に走り出した。上空にいたリーンとルベルも、シオンたちと同じ方向に飛んで行った。


『とりあえず、貴様らも俺様の背中に乗れ!』


蔓から逃れたソールは神獣姿になり、グレイスとアーノルドにそう言った。


「グレイス、お前はリーンさんたちと行きなさい! わたしはアクイラと共にここに残る」


「残るって……大丈夫なん!?」


「大丈夫。とにかくウララさんを落ち着かせるよ。グレイスは、機転を利かせて皆さんのフォローを」


「わかった」


グレイスは頷くと、ソールに跨りその場を後にした。


「……逃げられると思ってるの!?」


追撃をしようとしたウララの前に、アーノルドが立ちはだかった。


「ウララさん! 落ち着いて下さい! 貴方は被害者です! 加害者になってはいけない!」


「貴方は……王宮で……」


「国王の側近を務めているアーノルド=アーウェルサです。アーウェルサ家の当主でもあります。この度は、アーウェルサ家の神獣、アクイラが貴方を傷付けてしまって、わたしからも謝罪したい」


「国王様の側近……?」


「はい。この件は、わたしから国王にきちんと報告し、裁きの場を設けます。なので、貴方の話もお伺いしたい。手を出してしまっては、貴方が不利になってしまうかもしれない。アクイラが貴方を傷付けてしまったことは事実です。話をお伺いした上で、アーウェルサ家の者として裁きを受けましょう」


ウララは真摯な態度を見せたアーノルドを見据え、アクイラを捕らえていた蔓の魔法を解いた。


「……わかったわ。あたしの話を、ちゃんと聞いてくれるのね」


「勿論です。アクイラ、キミもそれでいいね?」


「ああ……」


(さすがね、アーノルド……。“被害者”という言葉を使って、ウララに“アナタは悪くない”と伝えたことで、ウララの怒りが治まり、話を聞く態勢に持っていった。ウララの思考が、“リーンを殺すこと”から“わたしを裁くこと”に移行した。頼りになる“鷲眼師(じゅがんし)”だわ……)


アクイラは拘束が解かれた腕をさすりながら、アーノルドとウララと共に、屋敷へと歩き出した。



一方、屋敷へと向かったアクイラたちと逆方向へ逃げたリーンたちは、王都を一望できる丘で合流していた。日は落ち、辺りはすっかり暗くなってきていた。


「みんな無事か? ケガ人はおらへんな?」


グレイスは皆の無事を確認すると、小さく息をついた。


「あのウララっちゅうエルフは、オトンが何とかしてくれるはずや。かと言って、屋敷に戻るんはリスクが高い。今夜はこのままアーウェルサ家の別荘に行くで」


「別荘?」


シオンが訊き返すと、グレイスは遥か東にある森を指差した。


「あの森に、ウチの別荘があるんや。ルベル、ジブンも神獣なら、ルクスと同じで龍の姿になれるんやろ? オレら乗せてそこまで飛べるか?」


「問題ない」


ルベルはそう答えると、体を光らせ龍の姿になった。リーンたちはルベルの背中に乗り、別荘へと急いだ。


月・水・金曜日に更新予定です。

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