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引きこもり龍姫と隻眼の龍  作者: 鳥居塚くるり
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54 肖像画

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「アクイラに婚約者がいたなんて知らなかった。しかもこんな幼い……」


困惑した表情のフィンに向かい、ウララは不服そうな顔をした。


「まぁ殿下! 人を見た目で判断するのはよくないですよ! あたしは今年で185歳の、立派な成人なんですから!」


「185歳!? エルフ族が長命だという話は聞いていたが……、まさかこれ程とは」


明らかに子供の容姿であるウララを、フィンはまじまじと見つめた。


「ウララ、キミは引退したウリエールに医術を習うと言って、森に引っ込んだんじゃなかったの?」


ルクスがそう訊ねると、ウララはペロッと舌を出した。


「黙って抜け出してきちゃった!」


「えええ!? 今頃みんな心配してるんじゃない!?」


「少しくらいなら平気よ。大体医術の習得に、どうして森に引きこもる必要があるのかしら? まるで意図的にあたしを閉じ込めてるんじゃないかって思ったくらいよ!」


「いや、ほら、キミ……ちょっと破天荒っていうか、問題を起こしそうだから……。現に、今日捕縛されそうになってたでしょ」


「あたしは何も悪くないわ! 聞き耳を持たない門番が悪いのよ」


「聞き耳持つのはウララの方だから!」


自分勝手なウララの言い分に、ルクスは辟易した。その様子を見ていたフィンは、ルクスに代わり口を開いた。


「と、ところで、何故王宮に? アクイラに会いに来たのか?」


「そうなんです殿下! でも聞いて下さい! あたしがアーウェルサ家を訪ねたら……」


「あー、あーーーー、フィン! よかったらウララに勉学を教えてもらったらどうだい!? 彼女はこう見えて、博識でとっても頭がいい! アクイラは帰りが遅くなるだろうし、それまでの間! ねっ!?」


ウララの終わりのないお喋りがまた始まると思い、ルクスは話を切り替えた。


「別にいいけど……。殿下はお時間があるんですか?」


「今日の公務は片付けた。これから人形作りをしようと思っていたのだが……」


「まぁ! お人形!? 素敵! 見学させて頂いてもよろしいですか?」


「ああ、勿論。ルクス、小生の“趣味部屋”にお茶とお菓子を持ってきてくれるように、メイドに伝えて貰えるか?」


「任せてよフィン! 何なら僕が持っていくよ!」


ひらひらと手を振って、趣味部屋に向かうフィンとウララを見送ったルクスは、ハァと安堵のため息をついた。


(とにかく、フィンに時間を稼いで貰おう。ウララの訪問については、アーノルドがアクイラに伝えるだろうし、きっとその場にルベルもいるはずだから、まぁ何とかなるでしょ……。ウララは自分勝手な暴君だけど、妙な正義感がある。念の為ルベルには会わせない方がいい。てゆうか、フィンってばまさかルベルとリーンの話をしたりしないよね……?)


一抹の不安を覚えながらも、ルクスはお茶の準備をする為に城の厨房に向かった。



一方フィンの趣味部屋に足を踏み入れたウララは、その精巧な造りの人形たちを目にし、感動をあらわにした。


「す……凄いですね殿下! 森にいるエルフの人形師でも、こんなにリアルに作れませんよ!」


「そうか? 高い魔力に、超越した魔力制御の技術を持ち合わせているエルフ族にそう言われるとは、嬉しい限りだ」


「王族は、代々魔力のコントロールが上手だと祖母に聞いたことがあります。その血を受け継いでいらっしゃるんですね。あら、でもこれは……他のものに比べたら何というか……。アンデッドか何かですか?」


ウララは、作業机の上に置かれていた人形に目をやった。


「ああ、それをこれから手直ししようと思ってるんだ。一応、人間の“女の子”なんだが」


「ええ!? これ人ですか!?」


「友人が作った物なのだが……手直しをして欲しいと頼まれてな」


「手直しというか……初めから作り直した方がよろしいのでは?」


「まぁ……ほぼほぼそうなるな」


フィンは苦笑いをして、人形にハサミを入れようとした。


(いや、待て……ここでハサミを入れたら、リーンの髪の毛が出てきてしまう。ウララは博識だと言っていたから、勿論“呪いの人形”のことも知ってるだろう。妙な心配をさせてしまうかもしれないな)


フィンはそう思い、ハサミを置いた。


「あら、ズバッとやらないんですか?」


「先に、モデルとなる女の子の絵を描こうと思う。小生はいつも物語の挿絵などを参考にして、好きなシーンを絵に描き起こすんだ。それを見ながら、人形を作っていく」


「なるほど! では、この“女の子”も、物語の中の登場人物なのですか?」


「いや、彼女は小生の友人だ。実際の人物を描くのは初めてかもしれない……。肖像画を描くようなものだな」


フィンはそう言いながら、シュッシュッと器用にペンを走らせた。綺麗な線で、面白いように描かれていく人物像に、ウララは興味津々だった。


「殿下は絵もお上手なんですね」


「こういうのが趣味なんだ。えーと、リーンの髪形はどんなだったかな……。いつもフードを被っていたけれど、確か肩にかからないくらいのボブヘアーだった」


「リーン?」


「この人形のモデルであり、小生の友人だよ。リーンというんだ」


「リーン……」


ウララは、何かを思い出すように眉間にしわを寄せた。そして出来上がっていくフィンの絵を見つめ、息をのんだ。


「これは……」


「よし、こんなものかな」


フィンがペンを置いたと同時に、ウララはその絵を手に取り、凝視した。


「この方が、殿下のご友人の“リーン”ですか?」


「ああ。割とうまく描けたと思う」


ウララは黙り込み、ごくりと喉を鳴らした。


「殿下……、殿下のご友人は、本当にアンデッドかもしれません」


「え?」


ウララの言葉に、フィンは小首を傾げた。


「王家の歴史部屋は健在ですか?」


「え? ええと、書庫のことか? 王家の歴史書などが保管されている……」


「ご説明致します。一緒にそちらに行きましょう」


ウララはそう言うと、フィンの手を引き部屋の外へ連れ出した。




「お待たせ~! 僕特製のスペシャルハーブティーと、王都の大人気スィーツ、季節のフルーツのカップケーキだよ~!」


しばらくして、ルクスが意気揚々とそう言いながら部屋に入ったが、フィンとウララの姿はなかった。


「あれ……? ふたりともいない……?」


ルクスはティーセットが乗ったワゴンを押しながら、キョロキョロと部屋を見回した。


(どこ行ったんだ……?)


ルクスが作業机の横を通り過ぎた時、風によって机の上から1枚の紙が落ちた。ルクスはそれに気付き、紙を拾った。


(これって、リーン? フィンが描いたのか。相変わらず上手いなぁ)


紙に描かれていた絵をしばし見つめていたルクスは、ハッとした。


(まさか……ウララが気付いた!?)


ルクスは絵を握りしめ、慌てて部屋を出て行った。




その頃、フィンとウララは王宮内にある書庫にいた。王宮に書庫はいくつかあるが、そこは、主に王族の歴史書や、代々の肖像画が保管されている部屋だった。


「ウララ、一体どうしたんだ? 何故書庫に?」


「殿下、殿下は王家の歴史を勉強されましたか?」


「え?」


ウララの問いかけに、フィンは少し考えた。


「この国の成り立ちや、王族が絡んだ大きな事柄については、大体学んだが……」


「ではおよそ200年前……神獣が起こした事件については?」


「200年前の事件……?」 


書庫の奥へと突き進むウララは、振り向いてフィンを見つめた。


「……ご存じないのですね……」


ウララはそう言うと、一息ついて語り始めた。


「その事件とは、当時の王女が神獣に襲われるというものでした。王女を守ろうとした騎士が、マグナマーテル家の守り神であった神獣に殺されたのです。王女は騎士に守られ無事でしたが、実は王女は不治の病に侵されていて、その後すぐに病気で亡くなられたそうです。事件のことは、王の判断で市民には公表されず、数日後、王女の病死だけが告げられました。何故、守り神である神獣が王女を襲ったのか……当時の王はこの事件を文献に記さず、詳細は不明とされているんです。しかも、殿下がこの事件を知らないということは、王族にすら語り継がれていないのですね」


「そんなことが……。確かに、そんな事件の文献は見たことがないし、聞いたこともない。王族の死因はいつも“病死”だから、歴代の王族の死について、深く考えることもなかった」


「祖母が宮廷医師だったので、あたしは市民が知らないような王族の歴史に少し触れることがありましたが、その事件はあたしが生まれる前のことでしたし、まだあたしも小さかったので、あまり気に留めてなかったんです。ですが……」


ウララは、書庫の一番奥にある本棚の横の、小さな突起に手をかけ、奥に押し込んだ。すると、ガコンという音を皮切りに、本棚がゆっくりと横にスライドし、その後ろに隠し部屋のようなものが現れた。


「なっ……!? これはっ……!?」


「当時あたしは、祖母に会う為によく王宮を訪れていました。子供だったので、祖母が仕事をしている間、ひとりで王宮を探検して遊んでいたのです。この部屋は、その時偶然見つけました」


ウララに続き部屋に入ると、古ぼけた本や人形が所狭しと置いてあり、まるでフィンの“趣味部屋”のようだった。


「殿下に見て頂きたいのは、この肖像画です」


ウララは、壁に飾られている古ぼけた肖像画を示した。


「……っ!」


それを目にしたフィンは、息をのんだ。それは女性を描いた肖像画で、金髪に青い瞳ではあったが、フィンが良く知る人物と瓜二つであった。


「彼女は、例の200年前の事件の後、すぐに病死したこの国の王女……“リーン=ペルグランデ”第一王女です」



月・水・金曜日に更新予定です。

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