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引きこもり龍姫と隻眼の龍  作者: 鳥居塚くるり
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49 領主会議

49


「早速ですが、今回の会議に至った経緯を皆様に周知して頂きたい。南の町にある洞窟内で、マグナマーテル家の御子息であるジーク殿が、ヴァーミリオン家の御息女であるリーン殿に求婚を迫り、その際に庇いだてをしたヴィーグリーズ家の御子息、シオン殿にケガを負わせたというものです」


アーウェルサ家の当主であるアーノルドは、事情をよく知らないであろうロベルトやシリウスに向けて、以前アクイラから報告を受けていたことを説明した。


「その様子を目撃したシキ殿によると、ジーク殿はシオン殿の友人である魔法使いの娘を操り攻撃させ、リーン殿が求婚を承諾するように脅していたという話です。そんなリーン殿を守ろうとしていたシオン殿を、最終的に殺そうとしたという報告も受けています。これについて、相違はありませんね? ジーク殿」


アーノルドは、リーンに見せたような優しい表情とは一変して、強い眼差しと口調でジークに問いただした。


「……」


ジークは怯えたような表情のまま、アマンダに視線を向けたが、アマンダは微動だにせず、ただ正面を見据えていた。


(母上……、どうして? どうして何も言ってくれないんだ!)


「ぼ、僕は……、何も、そんなことはしていません」


ジークは、喉の奥から声を絞り出した。


「嘘をつくな! ぼくは見ていたぞ! 姫もシオンも! 神獣であるルーナも! 目撃者がこんなにいるのに、まだしらを切るつもりか!?」


ジークの返答に、シキは凛とした口調で迎え撃った。しかし、ジークは立ち上がり声を荒げ反論した。


「しらなど切っていない! 仲間同士であるキミたちが、僕を陥れる為に口裏を合わせてるんじゃないのか!? 第一、証拠がないだろう!?」


「証拠と言えば……リーンのアイテムボックスから毒が見つかったという件だが、その毒の分析を、お前が行ったと聞いたが」


興奮気味のジークに、ルベルが落ち着いた口調で訊ねた。


「それはっ……、今は関係ないだろう!?」


「構いませんよ、ルベル殿。その話を聞かせて貰えませんか?」


焦ったジークをアーノルドが制し、ルベルは小さく頷いて説明を始めた。


「洞窟の件とは話がずれてしまうのだが、皆も聞いて欲しい。実は、南の町でジョニーという冒険者が何者かに神獣の毒で殺されたんだ。そして、盗まれたリーンのアイテムボックスから、同じ毒が見つかった。それでリーンは留置所に護送されるところだった」


「護送? それが、なぜ留置所ではなくマグナマーテル家にいたのですか? 夫人は事情があってリーンさんを預かっていると仰ってましたが、一体どんな事情が?」


グレイスが中指で眼鏡を上げながら、すかさず訊ねた。その時、末席に座っていたリックが声を上げた。


「私から説明しましょう」


皆がリックに注目し、ジークの背中を嫌な汗が伝った。


「実は護衛中に橋が崩落し、私はジーク殿の魔法によって馬車から投げ出されました。ジーク殿が、私を魔法で攻撃したのです」


「ち、違う! 僕は助けようとしたんだ! 風魔法で、岸まで飛ばそうと……」


「ジーク殿、私は長年衛兵の仕事に携わっているので、相手に殺意があるのかないのかくらいはわかるんですよ」


強い視線を向けられ、ジークは息をのみ黙り込んだ。


「私が外に投げ出され川に落ちた後、シオン殿がジーク殿と対峙したんですよね?」


リックは、確かめるようにシオンへと問いかけた。シオンは頷き、その時のことを口にした。


「彼が投げ出された後、おれは客車内に入ってリーンを助けようとした。その時ハッキリ言ってたよ。“リックたちを殺せるから都合が良かった”“スリに協力してくれた盗賊には、前もって遅効性の毒を盛っておいた”って」


「やはり橋の崩落は貴方の仕業だったのですね。そして盗賊は自害ではなく、貴方が……」


シオンの言葉に、リックはごくりと喉を鳴らした。


「ち、違う……。僕は、そんなことは言っていない……」


それでも認めないジークを見据え、ルベルが口を開いた。


「ここに来る前に、実は俺は毒のある神獣だということを明かし、俺の毒の成分を分析して貰った。ジョニー殺害に使われた毒と、リーンのアイテムボックスから見つかった毒も改めて分析し直し、そのふたつの毒は、同じ神獣でも俺とは全く別の成分だと判明した。現状、毒を持つ神獣は、俺と、以前マグナマーテル家の守り神だったウィーペラだけだ。ウィーペラの毒を所持しているのは、マグナマーテル家以外あり得ない。潔白を証明したいのなら、ウィーペラの毒を提出し、分析して貰えばいい」


ルベルはジークに向かい、最終宣告のようにそう言った。ジークの額から玉のような汗が流れ落ち、唇は震えていた。


(アクイラが、おれに少し休むように言ったのは、分析時間の確保の為もあったのかもしれない。ルベルといいアクイラといい、神獣は頭が良く回る。ソールも……一応神獣のはずなんだけど……)


シオンはそんなことを考えながらソールに目を向けた。ソールは、皆に責められているジークを、少し羨ましそうな顔で見ていた。


(……とにかく、ジークにはもう逃げ場がない。一体どうするつもりだ? マグナマーテル夫人)


シオンはアマンダに視線を向けた。シオンだけではなく、その場にいた皆がアマンダの動向を注視していた。そんな中、ようやくアマンダが口を開いた。


「まずは……謝罪致しますわ」


その言葉と共に、アマンダが深く頭を下げた。


「この度は、わたくしの息子が大変ご迷惑をお掛け致しました。息子には、然るべき処罰を望んでおりますわ」


「……え? は、母上……? 処罰って……」


思いもよらないアマンダの言葉に、ジークが思わず口を挟んだが、アマンダはそれに被せるように話を進めた。


「息子は……ジークは、可哀想な子なのです。わたくしの教育が至らなかったばっかりに、愛の表現の仕方を間違えてしまった……。リーンさんを愛するあまり、暴挙に出てしまったのですわ。ジョニーさんや盗賊を殺害し、リック様まで亡き者にしようとしたのは……全てリーンさんを手に入れようとする我が息子の欲望……。ジークの歪んだ愛が、暴走してしまった結果ですわ」


「え、そ、そんな……、だって、母上が……」


「わたくしは母親として、この子の間違いを受け止めます! さぁジーク、もう諦めて……罪を認めるのです!」


ジークは呆然としながらも、必死で言葉を紡ごうとしていたが、アマンダはジークの発言を許しはしなかった。ジークの両肩に手を置き、懐疑に揺れる瞳を見つめると、これ見よがしに涙を流した。


「可哀想な子……。愛の表現の仕方が、最後までわからなかったのね……。さぁ、わたくしをこれ以上悲しませないで頂戴……。罪を受け止め、そして償うのです。たとえ牢獄の中にいようとも、貴方はわたくしの可愛い息子ですわ」


(切り捨てた……自分の息子を……)


ルベルは、アマンダの冷酷さに虫唾が走った。しかし、リーンを守る為にも、ジークの拘束は必須だった為、何も言わなかった。他の者も同じことを思っていたのか、ただ黙ってアマンダの動向を窺っていた。


ジークは、泣きながら自分を抱きしめるアマンダを、俯瞰(ふかん)するような感覚で見ていた。


(え……、なんだよこれ……。何で僕が悪者に……? 母上が望んでいたことをしただけなのに……。母上は、僕を……守ってくれるんじゃなかったの? どうして僕は、牢獄に送られることになってるの……?)


ジークはまるで水の中に沈められたように、体が重く、息苦しくなり、アマンダの声も届かなくなっていった。


(母上は……僕を助けてくれないの……? 愛してる僕を……見捨てるの……?)


アマンダはリックに視線を向け、そっとジークから離れた。リックは呆然としているジークに近付き、その腕に魔封じの腕輪をはめた。


「私は一足先に王都に戻ります。彼を留置所へ連れて行かなければならないので。マグナマーテル領の自警団が、護送用の馬車を準備してくれたので、それを使います」


(用意周到……だね……。きっと、母上が既に連絡していたんだ……。母上は最初から……僕を助けるつもりなんてなかった……)


“普通は、愛してる人を……鞭で打ったりなんてしないよ”


リーンに以前言われた言葉を思い出し、ジークの瞳に絶望の色が浮かんだ。


「ああ……そうか……」


ジークは、何かに気付いたようにぼそりと呟き、自身に付けられた傷を服の上から触った。


()()は……“嘘の愛”だったんだ」


ジークは反論もせず項垂れた様子で、リックに連れられ静かに部屋を出て行った。


月・水・金曜日に更新予定です。

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