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引きこもり龍姫と隻眼の龍  作者: 鳥居塚くるり
31/114

31 王子様と側近

31


(え……。今、王子って言った?)


フィンの言葉に、リーンとルベルも固まった。

ふわふわの金色の髪に、穏やかな海のような青い瞳、童顔だが整った顔立ちをしたその人を、引きこもりだったリーンも見たことがあった。


(宮廷画家が描いた王族の画集を見たことがあるけど、間違いない、確かに、この国の王子様だ……!)


「ま、まさかフィンリー殿下が、護衛もつけずにこのような場所におられるなんて……」


衛兵は姿勢を正し、フィンに敬意を払うように胸に手を当てた。


「護衛ならいるから大丈夫だ。私的で訪れているから、あまり目立ちたくない」


フィンはそう言って、再びフードを目深に被った。


「もう一度言うが、彼女は小生の友人だ。離してくれるな?」


フィンの言葉に、リーンを掴んでいた衛兵は手を離した。


「ハッ! も、申し訳ございません! フードを被った怪しい人物が王都にいると通報があり、警備を強化しておりました。この少女の瞳がどうも尋常じゃなく、猟奇的だったもので……」


(いやもう、傷付くからね、普通に!)


項垂れたリーンを尻目に、衛兵は話を続けた。


「なんでも、南の町でジョニーとかいう冒険者を殺害した者が、この王都に潜伏しているらしいのです。殿下も、お早く城にお戻りになられた方がよろしいかと」


(えっ……)


「ルベル、ジョニーって、さっき話してたジョニーさんのことじゃないよね?」


『……』


リーンは、肩に乗っていたルベルにコソコソと話しかけたが、ルベルは表情を変えず、黙っていた。


「それは神経質にならざるを得ないな。リーン、ギルドカードは?」


フィンに問いかけられ、リーンは意識を戻し、再び鞄の中をまさぐった。


「そ、それが、お財布と一緒になくなっちゃって……」


「それは……スリの仕業かもしれないな。王都はこの通り人が多い。我々も警戒しているのだが、何件か被害が報告されている」


「え……」


衛兵にそう言われリーンが涙目になった時、ついにルベルが口を開いた。


『この道の先で、男とぶつかった。恐らくその時に鞄から財布を抜き取られたのかもしれない。灰色の上着に紺色のズボン、黒髪短髪の三白眼で、右目の下にホクロがあった』


「なっ……、今の声は……!?」


衛兵の驚きをよそに、ルベルは淡々と説明をした。


『俺は1000年以上生きている龍だ。よってお前たちの言葉が理解できる』


「まさか……そんな龍を使役しているとは……。さすが、殿下のご友人です。無礼な態度をお許しください」


衛兵は言葉遣いを正し、深々とリーンに謝った。


「ギルドカードを盗まれたとなると、クエストを受けるのに支障をきたすだろう。そちらの捜索も並行して頼めるか?」


「ハッ! 勿論でございます!」


フィンの言葉に衛兵が敬礼をした時、本屋から出てきた一人の男がこちらの様子に気付き、歩み寄ってきた。


「殿下! どうされましたか!」


「ああ、グレイス。実は小生の友人が財布を盗まれて……」


「殿下のご友人?」


グレイスと呼ばれた男は、ぎろりとリーンに目を向けた。橙色の髪の毛をオールバックにし、眼鏡をかけた長身のその男は、ジャケットの内ポケットから手帳を取り出すと、その中味を確認し始めた。


「本日謁見の予定はなかったはずですが……。殿下とはどのようなご関係で?」


中指で眼鏡をクイッと持ち上げながら、グレイスはリーンに詰め寄った。


「え、いや、その……」


「グレイス、リーンは小生の大事な()()()()だ」


「趣味……。なるほど、理解しました」


グレイスはフィンの言葉に全てを察したのか、あっさり引き下がった。


「リーン、彼は代々王族の側近を務めているアーウェルサ家の次期当主、グレイスだ。今日は小生の用事に付き合って貰った」


「え!」


(アーウェルサ家の次期当主って……じゃあもしかしてこの人……)


「貴方はリーン様と仰るのですか? 失礼ですが……貴方はリーン=ヴァーミリオン様では? わたしの縁談相手の」


(やっぱり!)


グレイスの言葉に、フィンは首を傾けた。


「縁談相手?」


「はい。彼女は恐らく、わたしの父が決めた縁談相手です。我が屋敷に客人として招いていると、アクイラが申しておりました」


「そうだったのか、リーン! ヴァーミリオン家といえば、高名な錬金術師の家系ではないか! 娘がいるという話は初耳だぞ! もしやリーンは、冒険者と錬金術師を掛け持ちしているのか?」


「あ、いや、その……」


「ヴァーミリオン家? あそこは子供がいないんじゃなかったか?」


「ああ、オレも聞いたことないな……」


衛兵がコソコソと話す中、興奮気味にリーンに話しかけるフィンを制するように、グレイスはフィンに近寄り耳打ちした。


「殿下、この話は実は機密事項なのです。後ほど殿下にもご説明致しますので、どうかここでは……」


「そ、そうなのか? 承知した」


フィンは口を噤み、話を聞いていたであろう衛兵二人の方を見ると、しっかりと口止めをしていた。


(この人が3人目の縁談相手だったんだ……。めちゃくちゃ真面目そうな人だな……)


フィンが衛兵と話してる間、リーンは密かにグレイスを観察した。


「……コッチ見んなや、田舎モンが」


(え?)


聞こえてきた見下すような言葉に、リーンは思わず肩に乗っているルベルを見た。


『俺じゃないぞ』


ルベルはそう言うと、グレイスに目をやった。リーンもそれにつられ、再びグレイスのことを見上げると、グレイスの眼鏡の奥の黒い瞳がギラリと光り、鬱陶しそうに顔が歪められた。


「ハー……。こんなちんちくりんやと思わんかったわ。完全にハズレや」


(え? え?)


先程の真面目で礼儀正しい態度とは裏腹に、グレイスの口からは辛辣な言葉がポンポン出てきた。


「しかも殿下の趣味仲間ぁ? 完全にオタクやないか。きっも。期待して損したわぁ~」


(ええ!? えええ!?)


呆然としているリーンに、グレイスは顔を近付け指を指した。


「アンタのこと、趣味やあらへんゆうとるんや。縁談相手やからって、勘違いすんなや」


(ええええ!? 告白もしてないのに、なぜかフラれたみたいになってるんですけど!?)


リーンはあまりの衝撃に、口を開けたまま固まった。その時、衛兵に口止めをし終えたフィンが、リーンとグレイスに歩み寄った。


「衛兵にも、リーンのことは他言無用だと言っておいたぞ」


そう言ったフィンだったが、グレイスを見て固まっているリーンを見て、首を傾げた。


「ん? 何かあったか?」


「いいえ、何でもありません殿下。屋敷に滞在するにあたって、困り事はないかとお伺いしておりました」


「そうか。リーン、グレイスはこの通り頼れる男だ。彼の人柄については、小生が保証する」


(えーーーー!? 保証しちゃうの!? いやいやいや、えーーーー!?)


再び真面目で礼儀正しい態度を見せたグレイスに、フィンは何の疑問も持たず心からそう言っているようだった。


「殿下、そろそろ城に戻りましょう。この後も予定が詰まっております」


「公務の時間か。王子とは忙しい職業だな」


手帳を見ながらフィンと予定の確認をしているグレイスを見て、ルベルがボソッと呟いた。


『すごい演技力だな。さすが、アクイラが守り神を務めるアーウェルサ家の息子だ』


「いやいや、演技力っていうか、アレただの二重人格でしょ!?」


感心するルベルとは裏腹に、リーンは警戒心をあらわにするのだった。


月・水・金曜日に更新予定です。

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