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引きこもり龍姫と隻眼の龍  作者: 鳥居塚くるり
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3 冒険者になる為に


次の日の朝、物凄い形相でギルドを見つめるリーンの姿があった。ギルドを訪れた冒険者たちは、フードの奥で光るリーンの鋭い眼光に息をのみ、それぞれが色々な憶測を立てていた。


「おい、表にヤベー目をしたヤツがいたけど見たか?」


「見たぜ! 子供に見えたが、あの目は相当場数を踏んでるな……」


「龍を肩に乗っけていたし、恐らく凄腕のテイマーなんだろう」


「ドラゴンマスター!? オレ、初めて見たぜ……」


ざわつくギルドの外で、リーンは未だ足を踏み入れることができないでいた。


『おい、リーン。無駄に目立ってるぞ。早く中に入れ』


人の頭くらいの大きさの龍の姿で、リーンの肩に乗っていたルベルは、そう言ってリーンを促した。


「そそそそんなこと言われても……」


ギルドに入って行く冒険者たちは、しっかりと装備を整えた者や屈強な体格の者、美しい立派な武器を手にした者たちばかりで、リーンは完全に怖気づいていた。


今まで、宿を取ることや食事など、人と関わることは全てルベルが人型になり対応していた。しかしギルドで冒険者の登録をするには、リーン自身がひとりで対応しなくてはならなかった。


ギルドの窓から中を覗くと、冒険者たちが談笑している様子も窺えて、リーンは今にも逃げ出したくなった。


「こ、こんなリア充の巣窟に私なんかが入ったら、きっと一斉に注目されて“何あの子、もしかして冒険者になりたいのかしら?”“身の程知らずのガキだな、少し痛い目を見せてやろうぜ”とか何とか言われて、人気(ひとけ)のない森に呼び出されて“命が惜しかったら大人しくおれの言うことを聞きなうへへへへ”って手籠めにされて、“オメーにはもう飽きたぜ。もう用無しだ”って人買いに売り飛ばされて、ロクに働けない私は最終的に捨てられて、海の藻屑になるのがオチだよ!!」


頭を抱え、ブツブツとそう呟くリーンに、ルベルはため息をついた。


『リーン、俺が付いてる限りそうはならない。とゆうかお前のその妄想力は、自分の将来の想像力として働かないのか?』


「私の将来は海の藻屑です……」


『それはお前の()()だ。とにかくギルドに行かないと何も始まらない。受付に行き、冒険者登録をするだけだ。簡単だろう』


窓から見えるギルドの奥に受付らしき場所があり、綺麗なお姉さんが笑顔で対応していた。


「何!? 何か綺麗な人がいるよ!? 何て声かければいいの!?」


『落ち着け、ナンパする訳じゃないんだ。普通に“冒険者登録をしたい”と言えば、向こうが勝手に話を進めてくれる』


(普通とは……!?)


“普通に声をかける”ことこそが、引きこもりのリーンにとって難易度が高かった。


『変わりたいんだろう、リーン。これは、新しい自分への第一歩だ』


ルベルにそう言われ、リーンは服の下にいつも着けているペンダントに手を当て、息を吸った。


(よしっ……!)


右手と右足が同時に出るようにギクシャクと歩を進め、リーンはギルドの扉を開けた。周りが自分に注目していることに気付いてはいたが、フードを目深に被ったままそれを見ないように、真っ直ぐ受付へ向かった。


「こんにちは、何か御用ですか?」


受付のお姉さんの問いかけに、リーンはぼそりと呟いた。


「ぼ、冒険者登録を……したい、です」


「かしこまりました。ではまず、お名前をお伺いしてもよろしいですか?」


「……リ、リーン=ヴァー……」


『リーン待て、苗字は言うな』


リーンが自分の名前を口にしようとした時、ルベルがそっと耳打ちをした。


『田舎とは言え、ヴァーミリオンは領地の名だ。下手に勘繰られては困る。名前だけ告げろ』


「えーと、リリーンバーさん?」


「リ……リーン……です」


お姉さんに首を傾げられ、リーンは慌てて言い直した。


「リーンさんですね。ジョブは……テイマーでよろしいですか?」


リーンの肩に乗っているルベルに目をやりそう言ったお姉さんに、リーンはコクリと頷いた。


「かしこまりました。こちらは仮のギルドカードになります。このランク付けのクエストを受けて頂いて、その結果を元に冒険者ランクが決定しますので、その後ランクを記した本カードをお渡しします」


お姉さんはそう言って、薄い木でできたようなカードとクエストの内容が書いてある紙をリーンに渡した。


「こちらのカードは、仮とはいえアイテムボックスが内蔵されています。採取されたアイテムなどを入れて持ち帰るのに必須になりますので、なくさないで下さいね。ランク付けクエストは、簡単な採取です。達成数までにかかった時間と質がランク付けの審査内容になります。今から時間を計りますが、よろしいですか?」


リーンはコクコクと頷き、カードとクエストの紙を取ると、足早にその場を去ろうとした。しかし、目の前にガラの悪そうな大柄の冒険者の男が立ちはだかり、リーンは思わず足を止めた。


「なんだ、あんたそんな玄人っぽいいでたちのくせして、新人かよ?」


(は、話しかけられたーーーー!?)


「見ろよ、新人潰しのジョニーだ……」


「あのテイマー、嫌な奴に目ェ付けられちまったな……」


周りの冒険者たちのひそひそ話は、“知らない人に話しかけられた”ことで固まっているリーンには、届いていなかった。


「そのクエスト、おれが協力してやろうか? その薬草の群生地なら知ってるぜ。特別に教えてやってもいい。勿論、タダとは言わねぇが」


(何か喋りかけられてる!? 何!? こうゆう時どうしたらいいの!? どうしよう、どうしようどうしようどうしようどうしよう)


「銀貨2枚でⅮランク確定だ。どうだ? 悪い話じゃねぇだろ?」


ニヤリと口角を上げたジョニーという男に対し、リーンは覚悟を決めた。


(よ、よし!)


ごくりと喉を鳴らしたリーンは、目も合わさずジョニーの横を通り過ぎた。


(聞こえなかったフリをしよう……)


「あのテイマー、ジョニーを無視したぜ」


「たいていのヤツは、ジョニーの見た目にビビって怖気づくのに……」


「やっぱただ者じゃねーな」


再びコソコソ話を始めた周りの冒険者たちを、ジョニーは睨み付け黙らせた。そして去って行くリーンの後ろ姿に目をやり、チッと舌打ちをした。


「ナメやがって、あのテイマー……」


ジョニーの呟きと鋭い視線に、リーンは気付かぬままギルドを後にした。




「あああああ……緊張した……」


リーンはそう言って、森の手前で膝をついた。


『最後のは中々よかったぞ、リーン。ああいうガラの悪い男は、無視するに限る』


「いや、したくてした訳じゃなかったんだけど……」


そう言いながらも、リーンは気を取り直しクエスト内容が書かれている紙を見た。


「えっと……ヘルバの採取……この薬草なら、確かウチの敷地にも生えてたよね」


『それなら、お前にも質の良し悪しがわかるな。ランクは今後受けられるクエストに影響してくるから、最低でもCランクは目指したい。質の高いものだけを採取しろ』


「でも……この森のどこに群生地があるのかわかんないよ」


『西に行くと草地がある。そこにたくさん生えていたのを、昨夜この町に来る時に空から見かけた』


「えぇ!? 夜なのによく見えたね!?」


『お前と一緒にするな』


「あ、ハイ、スイマセン……」


それからリーンとルベルは草地に辿り着き、リーンは早速薬草を探し始めた。


「ヘルバはキルシウムの近くに生えてることが多いんだ。キルシウムはピンクの花だから見つけやすいよ。あ、でも、葉っぱがトゲトゲだから気を付けてね」


『お前は、昔から草花が好きで詳しいからな。このクエストなら、手分けして探した方が効率がいい』


そう言ってリーンからルベルが離れたのを、草陰から見ていた者がいた。


「あの生意気な新人に、ちょっとしたお仕置きをしてやるぜ……」


そう呟いたのは、あのジョニーという男だった。ジョニーは懐から何やら液体が入った小瓶を取り出し、蓋を開けた。


「ショット」


そう唱えたジョニーの手にあった小瓶から液体が飛び出し、それは薬草を探していたリーンの手に真っ直ぐ飛んで行った。


ピチャリと、何か冷たいものが手に当たった感覚に、リーンは空を見上げた。


「え? 雨……?」


しかし空は晴れ渡っていて、リーンは首を傾げた。と同時に、ルベルが何かの気配を感知した。


『……何だ? それにこの音は……』


空気を震わせるような、奇怪な音が草地に近付いて来るのを感じた。


「何か……変な音がする……」


リーンも音に気付き、辺りをキョロキョロと見回した。すると、まるで雲のような巨大な黒い影が、いつの間にか空を覆いつくしていた。


「え……」


黒い影は、巨大な蜂の集合体だった。


「キラービー……? ウチの敷地にもたまに出たよね……」


リーンはそう言ってぼんやりと空を見上げていた。そんなリーン目掛け、キラービーはお尻に付いている毒針を振りかざし、一直線に襲い掛かった。


『リーン!!』


離れていたルベルが、リーンを守ろうと飛び出したが、それよりも早くリーンの赤い目が光った。


「我に牙を向ける愚者どもよ、己の愚行を彼の地で悔いるがいい。“死を学べ”」


リーンがそう呟いた瞬間、襲い掛かって来ていたキラービーの内部が膨らみ、まるで水風船が割れるようにパンと弾け、体液が飛び散った。そしてお尻の毒針だけがポトリと地面に落ちた。それを皮切りに、空を覆いつくしていたキラービーの大群が次々に弾け、辺りはキラービーの体液と毒針にまみれ、その中心で、リーンは静かにたたずんでいた。


『……っリーン……』


ごくりと喉を鳴らしたルベルに、リーンは妖艶な笑みを浮かべ目を向けた。


「ルベル、ダメじゃない……ちゃんと“私”を守ってくれないと……」


『……っ!』


まるで人が変わってしまったかのような笑みを見せたリーンを、ルベルは苦し気な表情で睨み付けるのだった。


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