21 王都
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(うぅ……なぜこんなことに……)
カイルとキャロルと別れ、龍になったルベルの背中に乗り王都へと出発したリーンたちは、昼過ぎには無事に王都近くの森に辿り着くことができた。そこから、ルベルはいつものように小さい龍の姿になりリーンの肩に乗ったが、ソールとルーナはこのままギルドで冒険者登録をすることを考慮し、人型で王都へと足を踏み入れた。
『まずは宿を確保しよう。その後、シキとルーナとソールは冒険者登録をする為にギルドに行き、俺とリーンとシオンはアーウェルサ家に行く。それでいいか?』
「はい、構いません」
『今更だがシキ、お前もルーナも冒険者登録をしていなかったのだな。何故あの洞窟に入れた?』
「勿論、入り口で止められました。なので、裏手に回って壁を破壊し、中に入りました」
しれっとそう言ったシキに、ルベルは眉間にしわを寄せた。
『……二度とするな。そんなヤツと仲間だと思われて、ギルドカードを剥奪されたらかなわん』
(シオンといいシキといい……ヴィーグリーズ家のヤツは案外無茶をするんだな……。“狼騎士”たる所以か……)
ルベルはため息をついた後、気を取り直しシキたちを見据えた。
『いいか、冒険者になるなら、せめてCランク以上を獲得しろ。じゃないとパーティを組む意味ないからな』
「馬鹿にするでないぞルベル! 俺様はBランク確定だ!」
自信満々のソールに呆れ顔をしながらも、ルベルたちは宿屋へ向かった。シオンとシキ、ソールのイケメンオーラに、王都の道行く人々は誰もが振り返った。加えて、ルーナは王都の男性陣を瞬く間に虜にするほど美しかった。双子ゆえ、顔のつくりはソールと似ていたが、ソールよりも線が細いルーナは、見た目は女性のようだった。ソールと同じふわふわの銀色の髪をひとつに縛り、澄んだ碧眼に凛とした佇まいは、まるで貴族のような育ちの良さが感じられ、王都の男性陣を瞬殺していた。
(まさか、こんな目立つ人たちと一緒に行動しなくちゃならないなんて……! てかルーナ、めっちゃ美人だけど、男だからね!?)
リーンは、この目立つ団体と仲間だと思われないように、少し距離を置いて歩き始めた。
「姫! はぐれてしまいます! もっとこちらへ!」
「ヒッ!」
シキに気付かれ、大声で呼ばれたリーンはその場で固まった。
「……姫?」
「え? 誰のこと……?」
「あの、フード被ってる小さい子に向かって言わなかった?」
「あのケモ耳の綺麗なお姉さんじゃなくて……?」
コソコソと話をする人たちの声が聞こえ、リーンは逃げ出したくなった。
「姫、ぼくの隣を歩いて下さい。さあ、こちらへ」
リーンに手を差し伸べたシキを見て、王都の人たちはさらにざわついた。
「ほら、あの子のこと姫って……!」
「ええ!? 嘘だろ!? どう見てもこ汚いただのガキじゃないか!」
「もしかして影武者なんじゃねーの? 本当の姫はあのケモ耳お姉さんで……」
「いやいや、ケモ耳お姉さんの影武者にもなれないだろ、あんなちんちくりんじゃ」
シキはざわついている民衆をキッと睨み付け、声を上げた。
「この方は“龍姫”!! 姫に無礼な態度をとる者は、ぼくが許しません!!」
「え? りゅうきって何?」
「どっかの国の姫様?」
(いやいやいや、あなたが姫って呼ぶ度に注目されるんですけど!! むしろ新手のイジメですか!?)
『シキ、“龍姫”は神獣のいる領地の者にしかわからない称号だ。あと、無駄に目立つな。リーンの性格については昨夜話しただろう』
「しかし……! あの者たちは我が姫を愚弄しました!」
ため息をつくルベルに、シキは納得していないようだった。リーンは視線で訴えようと、フードの奥からじろりとシキを見据えた。しかし、その赤い瞳はシキの向こうにいた王都の人たちも目にすることになり、先程までコソコソと話をしていた人たちが、一瞬にして固まった。
「ひぃっ! に、睨まれた!!」
「なんて眼光だ……! まるで殺戮者だ!」
「ちんちくりんなんて言ってすみませんでしたぁ!」
一瞬にしてその場を恐怖に陥れたリーンを見て、シキは感嘆の声を上げた。
「さすが姫! その瞳は、愚弄な民衆を黙らせる為にそんなにも猟奇的だったのですね!」
(……何なんだろこのシキって人……。私のこと傷付けたいだけなのかな……)
「シキ、あんた声でかすぎ。リーンが困ってるだろ」
項垂れたリーンの目の前に影が落ち、見上げるとシオンが立っていた。
「ぼっ、ぼくは決してそんなつもりは……」
シオンに反論しようとしたシキだったが、涙目のリーンを見て口を噤んだ。
「姫、申し訳ございません……。姫は内向的で目立つことをあまり好まず、根暗でコミュ障の引きこもりだとルベルから聞いておりましたのに……」
「ルベル、いつそんな話したの? てか、後半悪口入ってない?」
『昨晩、お前のことを教えろとせがまれてな……。教えないと部屋に戻れそうになかった。悪口など言っていない。ただの事実だ』
飄々とした態度のルベルを横目で見ているリーンに対し、シキは姿勢を正し、敬意を払うように胸に手を当てた。
「姫、ぼくが姫の前を歩きます。姫は安心してぼくの後ろに隠れていて下さい」
シキはそう言うと、リーンの前を歩き始めた。
「あいつ、一生懸命なだけで、悪気はないからさ」
「う、うん……」
シキの後ろ姿を見つめながらそう言ったシオンに、リーンはもじもじとしながら思い切って話しかけた。
「あ、あのっ、シオン……」
シオンは、リーンから話しかけてくるとは思っていなかったので少し驚いたが、すぐに目元を和らげた。
「ん? 何?」
「あの……き、昨日は……助けてくれて……ありがとう……。あのっ、き、傷は……もう、大丈夫?」
おぼつかないながらも、もごもごと口を動かすリーンに、シオンは少し申し訳なさそうな顔をした。
「大丈夫だよ。てゆうか……逆に怖い思いさせちゃったよね、ごめんね」
「……うん、怖かった……」
そう呟いて俯いたリーンに、シオンは明るい声を出した。
「もうさ、絶対ジークをリーンに近付けたりしないから。リーンに怖い思いはさせない。だから安心して……」
「ち、違う!」
リーンはシオンの話を遮ると、顔を上げた。
「ジークのこと、じゃなくて……。シオンが……シオンが死んじゃうと思って、怖かった……」
「え……」
思いがけないリーンの言葉に、シオンは小さく息をのんだ。
「だ、だから……だから、私を守ることよりも……自分の命を、大切にして……欲しい……」
唇を震わせながらそう言ったリーンを見つめ、シオンは小さな声で問いかけた。
「おれが死んだら……悲しい?」
「え? そ、そりゃあ……悲しい、よ」
「……」
シオンは黙ったままリーンを見つめ、少し安心したように笑った。
「ありがとう」
「え? う、うん……?」
何故お礼を言われたのか、リーンにはわからなかった。けれど、前を向いたシオンの横顔が少し嬉しそうで、リーンはそのお礼を黙って受け止めた。
『……』
ルベルはそんなシオンの表情を見据え、何かを考えていた。
無事宿を確保し、ギルドに向かうシキとルーナ、ソールと別れ、リーンとルベル、シオンはアーウェルサ家に向かって歩き出した。
『ちょっと待て、リーン』
アーウェルサ家に行く途中、ルベルは割と大きな裁縫屋の前でリーンに声をかけた。
『この裁縫屋なら、魔導糸が売ってるかもしれない。ちょっと中に入って見てみよう』
「ええ!? 今? 後でひとりで来ればいいじゃん」
リーンはそう言ったが、ルベルは首を振った。
『アーウェルサ家との話し合いが長引くかもしれない。終わった後では店が閉まってしまう。今縫っている物を早く完成させたいんだ』
「そういえば……何か変なの作ってたよね……。何かおどろおどろしい人形? みたいなやつ」
リーンは、ルベルが趣味で作っている妙な縫い物のことを思い出した。
『欲しい色が前の町の裁縫屋には売ってなくてな……。王都の裁縫屋なら、種類が豊富そうだ』
(う~、早く話し合いとやらを終わらせて、早く宿屋に帰ってもう一歩も外に出たくないのに……。王都なんて、リア充のリア充によるリア充の為の街じゃん……。私なんかが歩いてたら、交通の邪魔でしかないよ。てかこんな大きな店、絶対人がいっぱいいる……リア充がいっぱい……)
店の前で尻込みしているリーンの手を、シオンがそっと引いた。
「へ~、裁縫屋なんて、おれ初めて」
シオンはそう言って、リーンの手を引いたまま裁縫屋の扉を開けた。店内にいた女性客は、イケメンのシオンに釘付けになった。
「ねぇ見て、今入ってきた子カッコイイ……」
「お裁縫とかやるのかな? カワイイ~」
チラチラと見られていることに気付いたリーンは、落ち着きがなくなり目が泳いだ。
「ルッ、ルベル! 糸買って早く出よ!」
『糸はどの辺だ? 広すぎて逆にわからんな』
「これ、何? ルベル」
『これは布を押さえる為の重しだ。型紙と布がずれないように、このような重しを使う』
「へ~」
普段は馴染みのない物に、シオンは興味深々だった。
「そんなこと(どうでも)いいから、早く糸探そう!」
『店員に訊いてみよう。リーン、レジにいるヤツに声をかけろ』
「ええ!? 無理です!!」
『お前な……早く探せと言ったのはお前だろう』
「ルッ、ルベルが自分で訊けばいいじゃん!」
『俺は今、龍の姿なんだ。いきなり喋ったら向こうも驚くだろう』
「その設定もうよくない!? 今まで結構普通に喋ってたじゃん! ギルドマスターとかカイル達とかにさ! それに私はこの店に入ることで精一杯なの! 他のクエストはもう無理だから!」
「え? クエスト? 何でクエスト?」
言い合いをするリーンとルベルに首を傾げるシオンだったが、堂々巡りの2人の会話に息をつき、レジの方を見た。
「おれが訊いて来るよ。ルベル、なんていう糸が欲しいの?」
『魔導糸のホワイト8番、手縫い用だ』
シオンは頷いてレジにいる店員の元へ向かった。その時、丁度会計を終え、シオンと入れ違いにフードを目深に被った男がリーンのそばを通り過ぎ、店を出て行った。すれ違いざま、リーンはその男の鞄に付いていたマスコット人形に目を奪われた。
(え? あれって……)
『どうした?』
リーンの視線に気が付いたルベルが声をかけたが、その時丁度シオンが戻って来た。
「なんか、たった今店を出てった人が買い占めたって。次の入荷は7日後って言われた」
『なんだと? ……よし、リーン、今の男を追いかけろ』
「え!?」
『ひとつぐらい譲ってもらえないか交渉する』
「ええ!? 必死か!?」
「じゃあ、早く追いかけないと見失うね」
シオンは再びリーンの手を引いて店を出ると、辺りを見回した。
『シオン、あの男だ。あの白いローブのフードを被ってるヤツだ』
「うん」
シオンはリーンの手を引いたまま、裁縫屋の袋を持っている男に声をかけた。
「待って!」
男はシオンの声に立ち止まらなかった。シオンはリーンを連れたまま男の前に回り込んで、行く手を阻んだ。
「ねぇ、待ってよ」
男は、フードの奥からチラリとシオンに目を向けると、そのまま通り過ぎようとした。シオンは思わず男の肩を掴み、強引に引き留めた。
「待ってって。ちょっとお願いがあるんだけど」
「……なんですか?」
男は訝し気に、ボソリとそう呟いた。
「あー、いきなりで悪いんだけど、今買った糸、ひとつ分けてくれない? おれも必要なんだ」
「嫌です。じゃ」
シオンの言葉に即答した男は、再び歩き出そうとした。
「ちょ、待ってよ。今日全部の糸を使う訳じゃないでしょ? 7日後にまた入荷するって言ってたし、その時買って返すから」
「そちらが7日待てばいいのでは?」
取り付く島もない男の態度に唖然としたシオンだったが、男の鞄に付いていたマスコットを凝視していたリーンが、ポツリと呟いた。
「メルたん……」
歩き始めた男が立ち止まり、リーンの方に振り向いた。
「……それ、メルたんですよね!? “ピオ七”の!」
男を引き留めたのは、意外にもリーンの言葉だった。
月・水・金曜日に更新予定です。




