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引きこもり龍姫と隻眼の龍  作者: 鳥居塚くるり
19/114

19 双子

19


「ジーク、ぼくの姫に何してるんです?」


シキと呼ばれたシオンそっくりのその人は、剣を構えリーンとシオンを庇うように、ジークの前に立ちはだかった。シオンと同じ銀色の瞳に深紫色の髪をしていたが、シオンよりも長い髪を高い位置でひとつに結び、頬には一筋の傷跡があった。


痺れた手をさすりながら、ジークは人のよさそうな笑みを浮かべた。


「……シキじゃないか。久しぶりだねぇ? ふた月前の領主会議で会って以来だ」


「……シキ……こいつのこと……知ってるの?」


シオンの問いかけに、シキは呆れたように眉間にしわを寄せた。


「サボってばかりの貴方の代わりに、ぼくがいつも公の場に出ていましたからね。父さんと共に参加した領主会議でよく会っていました。マグナマーテル家の次期当主、ジーク=マグナマーテル」


シキはそう言って、ぎろりとジークを睨み付けた。


「ぼくの片割れを傷だらけにしたことはどうでもいいですが、姫をこんなに泣かせているのはいただけない」


「いや……どーでもいいって……シキ冷たい……」


シオンの言葉に、シキは眉間のしわを深くした。


「うるさいですよ。シオンもジークと同罪です。ぼくたちは“狼騎士”として姫をお守りしなくてはならないのに、その貴方に知識がないせいで、無駄に姫を泣かせて……。貴方は姫の婚約者候補として父さんに選ばれたのに、勝手に家出をしてその役目から逃げたんです。貴方に姫は相応しくありません。だから代わりに、ぼくが姫の伴侶になるべくこうして姫を探しに来たんです」


(は……話が見えない……。この人、シオンと瓜二つだし、シオンのこと“片割れ”って……じゃあこの人は……)


呆然としているリーンに、シオンは体を起こしながら言った。


「リーン……おれ、双子なんだ……。こいつ……シキは、おれの片割れ……げほっげほっ!」


「シオン!!」


再び血を吐いたシオンを支えるように、リーンはシオンの背中に手を添えた。キャロルは、()()と葛藤している表情を浮かべながらも杖を拾い、攻撃態勢に入ろうとした。しかしその時、巨大な銀色の狼が、攻撃を遮るようにキャロルの目の前に現れた。


『樹氷の森は旅人を迷わせる。“白闇を(まと)え”』


狼がそう唱えた瞬間、キャロルと狼の周りがまるで吹雪のように雪と風の壁に覆われ、治まった頃には、気を失ったキャロルを狼が背に乗せていた。


(銀色の……狼! それに今のは……古の呪文!? ソール!?)


「多勢に無勢か……。仕方ない。今日の所は引いてあげるよ」


ジークは、闇に溶け込むように後ずさりした。


「待て! ジーク!」


「エスケープ」


ジークの指にはめられていた指輪が光り、その光は瞬く間にジークを包み込んだ。シキが剣を振り抜いたが、そこにジークの姿はすでになく、洞窟の奥に続く薄暗い道を風が吹き抜けるだけだった。


『シキ! 追跡する?』


銀色の狼が、キャロルを背中に乗せたまま、シキの元へとやってきた。シキはチラリとリーンとシオンを見ると、軽く首を振った。


「いや、こちらにはケガ人もいるし、深追いはやめておきましょう。シオン、ここへは姫とふたりで来たのですか? この魔法使いはどうします?」


「キャロルは……操られてるだけで、仲間なんだ……。ソールも、一緒に来ている……。きっと今頃、匂いを追って……」


ドサッという音がして、話の途中でシオンが地面に倒れ込んだ。


「シオン!!」


「大丈夫、気を失っているだけです」


しゃがみ込み、シオンの様子を確認したシキが銀色の狼の方を見た。


「ルーナ、シオンも運んで下さい。姫、歩けますか?」


「え? 姫? え、あ、私か。 えと、あ、あの、歩け……ます。えっと……ルーナ? ソールじゃなくて……?」


リーンは、まじまじとソールそっくりの銀色の狼を見た。


『えっと……ボクの名前はルーナです……。ボクはソールの弟です。ボクたちも、双子なんです』


「双子!」


もじもじと、恥ずかしそうにルーナと名乗ったその巨大な狼は、双子と言うだけあってソールと瓜二つだった。ただソールが赤い瞳だったのに対し、ルーナの瞳はサファイアのような綺麗な青だった。


その時、横穴からルベルの声がした。


『リーン!!』


ルベルはリーンを見つけると素早く人型になり、強く抱きしめた。


「ル、ルベル……」


「……」


無言で自分を抱きしめるルベルに対し、リーンは申し訳ない気持ちになった。


(私がひとりでチェーンを買いに行った時も、凄い心配してくれてたよね……)


『ルーナ! シキ! 貴様らの匂いがすると思えば……なぜここにいる?』


ソールがそう問いかけた時、血相を変えたカイルが、ルーナの背中に乗せられていたシオンたちに駆け寄った。


「キャロル! シオン! 一体何があったんだ!? シオン、血だらけじゃないか!!」


「シオンはこのキャロルとかいう魔法使いに、ボコボコにされていました」


青ざめているカイルに、シキが答えた。


「ええーーーー!? ま、まじか……。キャロルのヤツ、そんなにもシオンを恨んで……。てゆうか、あんた誰? 一瞬シオンかと思ったけど……髪が長い」


「ぼくはシキ=ヴィーグリーズ。シオンとは双子なんです」


「双子!? てゆうかヴィーグリーズって……ヴィーグリーズ領の……?」


「シオンは、次期当主です」


「次期当主!? シオンのヤツ……ホントにいいとこのお坊ちゃんだったんだな……」


呆然とするカイルを横目に、ソールは再びシキに問いかけた。


『シキ、貴様はシオンを連れ戻しに来たのか?』


「……連れ戻すとは少し違います。むしろぼくは、彼には何も任せられません。家のことも、姫のことも」


シキはそう言うと、リーンの前に跪いた。


「姫、ぼくは改めて、シオンの代わりに貴方に縁談を申し込みたいのです。ぼくは今後父さんに掛け合い、シオンの代わりにヴィーグリーズ家の当主となることを約束します。ぼくは必ず貴方を幸せにします。貴方を守り、慈しみ、一生涯愛すると誓います」


「へっ!?」


(この人何言ってんの? さっきのジークって人とは、また違った感じでグイグイくるな……)


リーンはシキの態度に動揺し、後ずさりした。するとそんなリーンを庇うように、ルベルがリーンの前に出た。


「リーンは社会勉強中だ。どこにも嫁にはやらん」


「誰です?」


「俺は守り神だ」


ルベルはそう言うと、ロックバードを討伐した時ぐらいの龍の姿になった。そしてすぐに人型に戻り、リーンの腰を抱いた。


「……なるほど、神獣というわけですね。けれど貴方は、守り神という割には姫を守れていませんね。これは我が片割れにも言えることですが、貴方たちは姫を守る所か、危険に晒しました。ぼくが現れなければ、姫はあのマグナマーテルの息子の手に堕ちていたでしょう」


「待て! マグナマーテルに会ったのか!? リーン!! 何かされたか!?」


「へっ!? う、ううん、な、何も……。で、でもシオンが……シオンが代わりに……」


リーンはチラリと血だらけのシオンを見て、目を伏せた。


「姫、我ら“狼騎士”は、姫を守るのが使命です。どうかご自分を責めないで下さい」


シキは小さく震えているリーンにそう告げると、銀色の瞳でルベルを見据えた。


「ジーク=マグナマーテルは、必ずまた来るでしょう。神獣ならば、しっかり姫を守るべきです。使命を全う出来ない神獣など、ただの魔獣と同じです」


厳しい一言に、ルベルはギュッと拳を握った。


「ル、ルベル……」


珍しく何も言い返さなかったルベルを見て、リーンは胸が苦しくなった。


『シキにあんな上から目線で叩かれるなど……ルベル!! 貴様、羨ましいぞ!!』


「ソール……ちょっと黙ってて……」


『なっ!? リーン!! 俺様にそのような口をきくとは……貴様、いつからそんな出来るヤツになった!?』


興奮するソールを押さえつけ、リーンはルベルの顔を見上げた。


「ルベル、あの、今回のことは不可抗力だから……。だから、気にしないで? トラップが張り巡らされてたのに壁に寄りかかるなんて、私が迂闊だっただけだから……」


リーンがおずおずとそう言うと、ルベルは一瞬驚いたような表情をし、すぐに目元を和らげリーンの頭を撫でた。


「お前、俺を慰めてくれてるのか?」


「えっ!? あっ、だっ、だって……ルベルが怒られるなんて滅多にないから……」


ばつが悪そうに目を逸らしたリーンの腰を、ルベルが強く引き寄せた。


「ル、ルベル?」


「……あいつの言う通りだからな……。お前から離れた俺が悪い」


「そ、そんなことないよ……」


「俺はお前がいないと、魔力が無いただの魔獣だ」


(お前を苦しめるだけの……ただの……)


(ルベル……?)


黙り込み、ただ強く自分を抱き寄せているルベルに、リーンは何故か既視感を感じていた。


月・水・金曜日に更新予定です。

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