表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引きこもり龍姫と隻眼の龍  作者: 鳥居塚くるり
12/114

12 お揃いのピアス

12


それから、急にバイパーが現れた温泉は一時封鎖され、調査が行われることになった。壁に開いた大穴は、魔物との戦闘により破損したということにした。リーンたちは責任を取らされることもなく、胸をなでおろした。


「おれとソールは、これから診療所に向かうよ。キャロルのことが心配だ。ソール、その姿だと診療所に入れないから、人型になって」


『うむ』


頷いたソールの体が赤色に光り、その輪郭はぼやけソールは人の姿になった。長いふわふわの銀髪が顔周りで揺れ、狼のような耳と尻尾が生えた獣人の男性姿になったソールは、赤い瞳に銀色の長いまつ毛を携え、ルベル同様目を引く美しさだった。


(何だろう……同じ赤目なのに、猟奇的な感じがしない……。むしろ野性的な魅力が引き立ってるような……)


『お前、背が伸びたな』


ルベルがそう言うと、ソールはフンと鼻から息を吐き、胸を張った。


「ここ数百年で俺様の身長は伸びに伸びたのだ! 貴様など見下ろしてしまう程にな!」


『笑わせるな。お前などまだ小さい』


ルベルはリーンの肩から降りると体を光らせ、人型になった。そしてその身長差は、ソールよりもルベルの方が10センチ程高かった。


「フッ、俺を見下ろすなど1000年早い」


「ぐ、ぐぬぅ……! まっ、まだだ! 俺様はまだまだ伸びるぞ!!」


「俺もまだまだまだ伸びるから、お前は永遠に追いつけないな」


「俺様の成長スピードを侮るなよルベル!!」


(いや、ふたりとも十分過ぎるくらい高身長だし、それ以上伸びたら逆に怖いよ……。ていうか、ルベルもこんな風に無邪気な顔するんだな……)


ソールと言い合いをしている時の、気を許しているようなルベルの表情を、リーンは微笑ましい気持ちで見つめた。その時、隣にいたシオンがルベルに話しかけた。


「ルベルも人型になれるんだね。 ……あれ? そのピアス……」


シオンは、ルベルの左耳で揺れている小さな朱色のピアスに気が付いた。人型になる際に身に着けている服や装飾品は、神獣姿の時は魔法により隠されている為、人型になり初めて目にしたのだ。


「これか? これはリーンが初めて俺に……」


「おれが買ってあげたやつだね。ルベルにあげたんだ」


「……は?」


ルベルは、リーンに貰ったピアスをさり気なく自慢しようとしたが、シオンの一言で動きを止めた。


「あっ、そっ、それは……」


リーンはマズイと思ったが、遅かった。


「ほら、お揃い」


シオンは頬の周りの髪を耳にかけると、今まで髪の毛で隠れていた、自身の右耳で揺れる朱色のピアスを見せた。


「……どういうことだ、リーン。お前はシオンにこれを買わせたのか?」


「かっ、買わせたっていう言い方がちょっと……」


「おれが自分の意思でリーンに買ってあげたんだ。ルベルにあげるものだったとは思わなかったけど」


「別の男に買わせた物を俺に与えたのか?」


「いやっ、払おうとしたよ!? で、でも断られて……」


「……もういい。金は俺が払う。金貨1枚あれば足りるか」


ルベルはそう言って、財布から金貨を取り出した。思いのほか機嫌が悪くなったルベルに対し、リーンは何とか取り繕おうとしたが、そこへ血相を変えたソールがルベルに詰め寄った。


「待て待て待て! 何で貴様がシオンとお揃いのピアスをつけている!? 外せ! 今すぐ外せ! そして俺様によこせ!! 俺様がシオンとお揃いでつける!!」


「ソールは耳に穴開いてないでしょ。それとルベル、お金はいらないし金貨1枚じゃ多い」


「手間賃だ。リーンが迷惑をかけた」


「何で私が迷惑かけた前提なの!?」


「それしか考えられないだろう」


ギャーギャーと揉めているリーンたちに、温泉に集まっていた野次馬たちが注目し始めた。


「ねぇ見て、何かイケメンが言い合いしてるわ」


「もしかして……あの女の子を取り合ってるのかしら?」


(な、なんか目立ってる……!?)


リーンは人々の視線から逃れるように、ローブのフードを被ろうとした。しかしその手は空を切り、リーンは自分がローブを着ていないことに気が付いた。


(ハッ、そ、そうだ! ローブはキャロルさんに掛けてあげて、そのまま……)


「もっ、もういいから、早くキャロルさんの所に行こう!」


「……そうだね。とりあえずこの話は保留」


シオンはリーンの言葉に頷き、ソールの首根っこを掴んでルベルから引き離すと、そのままズルズルと引っ張った。


「ほら、行くよソール」


「くっ、苦しいぞシオン! そ、そんなぞんざいに俺様を扱って……そんな……ハァハァ」


明らかに悦んでいるソールに冷たい視線を向けながらも、ルベルはリーンを見下ろした。リーンは野次馬から隠れるように、ルベルの腕を掴んでビクビクしていた。


「……俺たちも診療所に行こう。お前のローブを取りに行かないといけないからな」


ルベルはそう言ってシオンの後について歩き始めたので、リーンも慌てて追いかけた。


「あっ、ま、待ってよルベル……」


前を見据え、スタスタと歩いているルベルを見上げ、リーンは気まずそうに話しかけた。


「なんか……怒ってる?」


「……別に」


「えと、あの、買い物に行った時の詳しい話をしなかったのは悪かったけど、私はホントにちゃんとお金を払おうとしたんだよ! でも、あの……」


「それはもういい。ただ俺は、このピアスはお前が俺の為に選んでくれたと勝手に思い込んでた。けれど、どうせ成り行きで買った物なんだろう?」


(うっ……全てお見通し……さすがルベル)


「で、でも、ルベルに似合うと思ったから、だから自分ではつけないで、ルベルにあげようと思ったんだよ! ルベルには……いつも迷惑ばっかりかけてるって反省したから……」


下を向いて早歩きでついて来るリーンに目を向け、ルベルはフッと息をついた。


「……まぁ、お前がシオンとお揃いでつけるよりかは、俺が貰ってよかったけどな。結果的に」


「え?」


リーンは顔を上げ、ルベルの片方だけの金色の瞳を見つめた。


「ルベル……もしかしてヤキモチ焼いてるの? それで拗ねてるの?」


リーンの素直な問いかけに、ルベルの瞳が一瞬戸惑ったように揺れたが、すぐに冷たい表情をした。


「そんな訳ないだろう。自惚れるな」


「あ、はい、ですよね。すいません……」


速攻謝ったリーンに、ルベルは自分が着ていた上着を被せた。


「ローブを返して貰うまで、それでも被っておけ」


「あ、ありがと……。あー、落ち着く……」


頭から上着を掛けられたリーンには、少し赤くなっていたルベルの顔が見えなかった。




診療所に着くや否や、キャロルは、人型になっているルベルとソールを見て顔を赤らめた。


(な……何このイケメンたちは!?)


「キャロル、大丈夫? あれ? カイルは?」


「だっ、大丈夫よシオン! もう毒も抜けたし! カイルは今お医者さんと話してるわ! と、ところで……このイケメ……ん、んんっ、こちらの方たちは?」


シオンに問いかけられ、キャロルは途中咳払いをしながらも冷静を装った。


「ルベルだよ。こっちはおれの犬。ソールっていうんだ」


「はぁ!?」


「シオン! 俺様は犬ではない! しいて言うなら、俺様は貴様の……パ、パートナーだ」


(イヌ!? パートナー!? どーゆうこと!?) 


少し顔を赤らめ、含みのあるような視線でシオンを見つめるソールに、キャロルは良からぬ想像をしてしまい、赤くなった自身の頬を両手で押さえた。その時、席を外していたカイルが病室に戻って来た。


「おっ! シオン、来てたのか! てか、こいつら誰?」


ルベルは、自分とソールのことをふたりに説明した。自分たちは神獣で、人型に変身でき、人間の言葉が理解できること、それぞれの家の守り神であるということ、家柄のことは伏せたまま、話せることだけ話した。


「へー! じゃあソールは、あの時洞窟にいた狼なんだな! キャロルのこと守ってくれてありがとな!」


カイルはソールの両手を握り、お礼を言った。


「フッ、礼には及ばん。あのバイパーは俺様に牙を向けたのだ。それ相応の報いを受けさせたまでよ」


「ありがとうソール。あたし……気を失っちゃって覚えてないけど……」


キャロルはソールにお礼を言った後、ルベルの後ろで頭から上着を被ってるリーンに目を向けた。


「あと、リーン!」


「はっ、はい!?」


リーンは話しかけられるとは思っておらず、ビクリと体が跳ね上がった。


「あんたの知識と応急処置にも助けられたわ。バイパーに詳しいのね」


「あ、あの、えっと……、じ、実家の敷地にもよく出たので……た、たまたま、偶然知ってただけです、ハイ」


ビクビクとしながらそう説明するリーンに、キャロルはハァとため息をついた。


「ちょっとこっち来て、リーン」


「え!? い、イヤです……」


リーンはサッとルベルの後ろに隠れた。


「何もしないわよ! いいから来て! 早く!!」


「は、はいぃ!!」


苛立ったキャロルに怯え、リーンはそろそろと近付いた。するとキャロルは、リーンが頭から被っていた上着を勢いよく剥ぎ取った。


「ヒッ!! なっ、何もしないって言ったじゃないですか!!」


「うるさい! 黙れ!」


キャロルはリーンが逃げ出さないように、素早く彼女の腕を掴んだ。そして、ルビーのような赤いリーンの瞳をしっかりと見た。


「あたしは、お礼を言う時は相手の目を見てちゃんと言いたいの。リーン、助けてくれて……ありがとう」


「あ……」


(キャロルさん……)


リーンは、少し恥ずかしそうに揺れるキャロルの瞳を見て、今までにない感覚にむず痒くなった。

ルベルはその様子を見て、フッと口元を綻ばせた。


(あんなにリーンを目の敵にしていたが、真っ直ぐでいいヤツだ。リーンも、見事にキャロルとの関係を修復できたな)


「あの……そんなことより、ローブを返して下さい」


ルベルがリーンの成長を喜んだのも束の間、リーンのセリフを聞き、キャロルの額にスジが走った。


「はぁ!? 人がお礼言ってんのに“そんなこと”って何よ!?」


「ヒッ! す、すいません! ごめんなさい!! じゃあその上着を返して下さい!」


「あんたさっきからあたしのことナメてんの!?」


「なっ、ナメてないですぅ!! すいません! すいません!!」


(リーンは……やはり、人とのコミュニケーションの取り方を学ばなければならないな……)


額に手を当て、呆れたように息をついたルベルの横で、リーンを責め立てるキャロルを目にしたソールが、鼻息を荒くした。


「なっ、なんだこの人間の女は!? 物凄い逸材ではないか!!」


「ソール、うるさい。“伏せ”」


「くっ、くぅぅ……。シ、シオン! 人型になってる俺様に“伏せ”を命じるとは……どれだけ俺様を辱めれば気が済むのだ!? ハァハァ」


「騒がしいぞ君たち!! 元気になったなら出てってくれ!!」


医者に怒鳴られ、リーンたちが病室を追い出されたのは言うまでもなかった。


月・水・金曜日に更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ