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引きこもり龍姫と隻眼の龍  作者: 鳥居塚くるり
10/114

10 本音

10


温泉があるという洞窟に行く道中、リーンとシオンは並んで歩いていた。


『シオン、お前はどうして冒険者をしている?』


「え?」


ルベルは、懐かしさの真相を探るべく、シオンの情報を集めようとしていた。


「うーん、ほぼ成り行きなんだけど……。おれ、会ったこともない人との縁談を親に勝手に決められて、めんどくさそうだったからプチ家出してるんだ」


「え!?」


(縁談がイヤで家出って……私と同じ?)


リーンは、シオンに対して親近感が湧いた。


(縁談を親が決めたということは……シオンは一般家庭の生まれではないのか。貴族や……リーンと同じ領主の息子という可能性もある。だが迂闊には訊けないな……。逆にこちらのことを訊かれても困る)


『それで生活の為に冒険者になったのか。だが、いずれは家に帰るのだろう?』


ルベルは慎重に話を進めた。


「うん……そう、かな。リーンは? どうして冒険者になったの?」


シオンは少し曖昧な返事をした後、リーンに話を振った。


「えっ!? えっと……」


(シオンと同じで……知らない人と結婚したくなかったから……)


「しら……し……社会勉強、の、為……かな」


「へー、偉いね。おれとは全然違う」


シオンが尊敬するような眼差しを向けたので、リーンは思わず目を逸らした。


(うう……全然偉くないんです……)


本当のことを言えず、リーンは後ろめたい気持ちを抱えたまま、重い足取りで温泉へと向かうのだった。



しばらく歩いて、温泉があるという洞窟に辿り着いた。そこは冒険者の憩いの場になっているらしいが、まだ早い時間だったので、リーンたちの他には誰もいなかった。


洞窟内にあるという温泉は、女湯と男湯にキチンと別れていて、入り口も別々だった。リーンはキャロルと共に、女湯へと進んだ。中は割と広く、自然の岩に囲まれたような湯船には、透明のお湯が沸いていた。


「あー久しぶり! やっぱりお風呂って気持ちいい~!」


キャロルは服を脱ぐと早速お湯に浸かり、はぁーと気持ち良さそうに目を細めた。


「何してるの? 入らないの?」


「はっ、はいっり、ますっ……」


リーンは未だ服を着たままモジモジしていた。


(お、女同士とはいえ、そんなに仲良くない人の前で裸になるって……めっちゃ恥ずかしくない? しかもキャロルさんナイスバディで、目のやり場に困るんですけど!)


のろのろとローブを脱ごうとしているリーンを見つめ、キャロルは本題に入った。


「ねぇ、あんたって、シオンのことどう思ってるの?」


「え?」


「店員と間違えたって言ってたけど、本当はシオンのこと狙ってるんじゃないの?」


「狙ってる……?」


リーンは、言われた言葉をすぐには理解できず、数秒考えた。そして何かに気付いたように目を見開くと、慌ててキャロルに向けて両手を振った。


「え!? いやいやいやいや!! 狙ってません!!」


「……ふうん? その割には、チラチラ見て恥ずかしそうにしたり、上目使いしたり……。いかにも、か弱くて庇護欲をそそる女っていう所作が、あざとくてムカつくんだけど」


「あっ、いやっ、それはっ、その……わ、私、人が苦手で!! 決してそのようにしようと思ってしている訳ではなく!! ましてや邪な気持ちで接してなど!! す、すいません!! すいません!!」


「そうやって、意味もわかってないくせにすぐ謝る所もムカつく」


キャロルはペコペコと頭を下げるリーンに対し、イラついた。


「す、すいま……」


(あ、謝ったらムカつくって言われたんだった……)


リーンは言葉を途中で切り、黙り込んだ。


(ど……どうすればいいの? もう嫌だ、帰りたい。逃げたい。私がここにいてもキャロルさんが不快になるだけなら、視界から消えた方がお互いの為だよ……)


リーンはそう考え、キャロルを残しその場を去ろうと思った。しかし、キャロルはそんなリーンに向かい、引き留めるように口を開いた。


「あたしはシオンが好き」


リーンが驚いてキャロルを見ると、唇を引き結び、少し赤い顔をした彼女が強い光を宿した瞳で見つめていた。


「出会ったのは最近だけど、でも出会った頃からシオンのことが好き。そばで、シオンのことを見てきたからわかる。シオンは……あんたに興味を持ってる」


リーンは、黙って話を聞いていた。キャロルの瞳が震え、少し泣きそうな表情になったので、なぜか胸がギュッと締め付けられた。


「シオンは、今まで何にも興味を示さなかったのに……あんたに対しては積極的に話しかけて、あんたのことを知ろうとしてる。あんたのこと、実家の犬に似てるって言ってたけど、それだけじゃないような気がする」


「え……犬、ですか?」


リーンは思わず顔をしかめた。


「なによ、不服なの!?」


「いっ、いえ!! 滅相もございません!! 私なんか犬畜生で十分です!!」


キッと目元を吊り上げたキャロルに、リーンは慌てて自分を卑下したが、そんなリーンを見て、キャロルはそっと目を伏せ小さな声で呟いた。


「例え犬でも……それでも、シオンに気にして貰えるあんたが羨ましい」


「キャロルさん……」


キャロルから零れた素直な言葉は、リーンの胸を再びギュッと締め付けた。


(キャロルさんは、可愛くて、スタイルも良くて、魔法も凄くて、シオンやカイルとパーティを組んでるリア充なのに、なのに……私なんかのことが羨ましいだなんて……)


リーンは、いつも服の下に忍ばせているペンダントに手を当て、キャロルを見つめた。


(キャロルさんみたいな人は、私なんか眼中にないと思ってた。いつでも自信たっぷりで、普通にしてるだけでみんなに認めて貰えて、きっと悩みなんかなくて、自分とは違う世界の人だって勝手に考えてた。だけど……)


胸がざわざわとし、リーンは目を伏せているキャロルのそばに歩み寄った。しかしその時、キャロルのそばで何かが蠢いた。


(えっ……?)


「……とにかく、そんな訳であたしはあんたが嫌いよ。悪いけど……」


キャロルがそう言いながら風呂から出ようとしたのを、リーンが大声で止めた。


「動かないでキャロルさん!!」


「は?」


突然リーンに怒鳴られ、キャロルは眉間にしわを寄せた。しかし、自分の周りから奇怪な音が聞こえ、視線を向けたキャロルは息をのんだ。


「ひっ……」


キャロルは、いつの間にか無数の蛇に囲まれていた。湯船を囲む岩場で蠢いている蛇は、そろそろとキャロルに近付いていた。


「バイパーです! 警告音を出しているので、迂闊に動いたら攻撃されます!」


「そ、そんな……どうしてこんな所にバイパーが!? ど、どうすれば……」


キャロルは、岩場に置いてある自分の杖に目をやった。その様子を見たリーンは、首を振ってキャロルを止めた。


「ダ、ダメですキャロルさん! 動かないで下さい! バイパーに噛まれてしまいます!」


「だからって、ここでじっとしててもこんなに数がいたらどの道噛まれるわ!」


キャロルはそう叫ぶと、迷わず杖へと手を伸ばした。


「キャロルさん!!」


杖へと伸ばされたキャロルの手を目掛け、近くにいた1匹のバイパーが襲い掛かった。


「っ……!」


リーンは咄嗟に手を伸ばし、渾身の力でキャロルを引っ張ったが、バイパーの動きは素早く、そのままキャロルの手に噛みついた。


「いっ……!」


すぐに激痛が襲い、キャロルは噛みついたバイパーを引き剥がそうと胴体を掴み引っ張った。しかしバイパーは離れず、キャロルは苦痛に顔を歪めた。リーンはキャロルの手を掴み、バイパーごとお湯に浸けた。するとバイパーはキャロルの手から牙を抜き、水面へと浮上した。


「な、何で……」


「バイパーは水中では息が出来ません! だから、水中に沈めれば呼吸の為に離すんです!」


リーンは噛まれたキャロルの傷口を確認し、自身の荷物から小瓶を取り出した。小瓶の中には紫色の粉のような物が入っていて、その粉をキャロルの傷口に振りかけた。キャロルは激痛に襲われながらも、何とか意識を保とうとしていた。


「バイパーの毒は危険です! これはあくまでも応急処置なので、早く病院に……」


そう言いかけたリーンだったが、その時興奮したバイパーの警告音がひと際大きくなり、リーンたちに向かい牙を剥き出しにした。


「!? 急に、どうして……」


リーンがごくりと喉を鳴らした時、背後で何かの気配を感じた。リーンがゆっくりと振り向くと、そこには、銀色の毛にガーネットのような綺麗な赤色の瞳をした、巨大な狼の姿があった。


「え……」


バイパーは、突然現れたその巨大な狼に狙いを定めているようだったが、当の狼はバイパーには目もくれず、真っ直ぐリーンを見つめていた。



月・水・金曜日に更新予定です。

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