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クモの降る

ぼつりぼつり。大粒の汗が足下に落ちる。


急な坂道がいつまでも私の前に立ちはだかる。


苦しい、辛い、何でオレはこんなことをしているのだ。


疲労で正常な思考が出来なくなった頭は直ぐにネガティブな事を考え出す。


オレは、脚を止めようと必死になる頭を無視して、ただただ前に脚を進める。


さっきまで聞こえていた熊よけのベルの音や鳥のさえずりは、だんだんと遠くなり、オレ自身の足音と呼吸音だけが、オレの身体の中で何度も振動し続ける。


 

一歩、一歩、また一歩。

 

ゆっくりとだが確実に坂を登る。



 

ぼつりぼつり。はぁはぁ。のっしのっし。ぼつりぼつり。はぁはぁ。のっしのっし。ぼつりぼつり。はぁはぁ。のっしのっし。——————



 

ふわりと脚が楽になるのを感じる。


山を登りきった達成感とクライマーズ・ハイから来る気持ちよさが全身を祝福する。


眼下を、雲が流れていく。


オレが登ってきたんじゃなくて、雲が降りて行ったみたいだ。


「この場所に他の人が来るなんて。」


女の子がやべっと慌てながら、口元を隠す。


隣には大きな望遠鏡とキャンプグッズが置かれている。あの荷物を、あんな小柄な女の子が、この坂道を運んできたのだろうか。


「アナタも流星群を見に来たのでしょう。こちらに来てもいいわよ。」


オレは女の子に甘えて、隣に座らせてもらう。


「望遠鏡とかは持ってないのね。」


「だって、流星郡を見に来たわけじゃないから。」


「星を観ないのに山に登るなんて物好きな人ね。」


女の子が口をすぼませて言う。


物好きねえ、オレは愛想笑いをしながらリュックからお弁当を取り出す。


荷物の大半を占めていた大きな重箱がオレの膝にぼんとのり、期待をふくらませてくれる。


「オレも、星を見ようかな。」


「やめときなさい、テントも何も持ってないんでしょ。」


「えへへ、そうだった。」


お弁当の美味しさについ、ズボンのゴムひもだけじゃなくて、口元まで緩んでしまったみたいだ。


空っぽだったお腹にご飯を詰め込むと、オレはまた坂道に足を踏み出した。



 雲はまた空に登っていく。

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