月銀奇譚
――ちんとんしゃんてんとん。
――ちんとんしゃんてんとん。
灯り一つに、身も一つ。
月に夜雲がかかる中。
一人で夜道は、怖い怖い。
そんな峠の暗い道、そこを一人でとぼとぼ歩く、行商帰りの男がいた。
男はいそいそと歩く中、ふと前の方を見やったら。
朧気に、うっすら人影が現れる。
近づくと、手元の灯りとわずかな月明かりで、おなごらしき後ろ姿が、だんだんだんだん見えてきた。
どうやらどこぞの娘さんのようだ。はてさて。こんな夜、こんな場所で、娘さんが一人とは。なんと物騒なことだろう。
そうして生まれた親切心から、男は娘に声をかける。
疑うことを露とも知らぬ、根っから心が優しき男だ。
「娘さん、娘さん。こんな場所で、いったい何をしておられる?」
優しく問いかけた男の言葉に、娘はすっと振り返る。
振り返ったその眼。夜の闇でも金色と、はっきりわかるそんな目だった。
生気をまとった、艶やかな肌の色。銀のような灰色の、短き御髪が人らしからぬ美しさ。それが更には、振り向き様に夜風と踊る。
おなごのあまりの美しさ、男はごくりと息を飲んだ。
紅白混じる巫女のような、不思議な出で立ちした娘。
「人を待っておりますの」
憂いを帯びた深い瞳。娘は悲しげにそう答えた。
「それにしたって娘さん。こんな峠でこの時刻、誰も人なんて来やしませんのに」
気づかう男と、奇妙な娘。
「それに今夜の冷たい夜風。娘さん、華奢なお身体に障りますよ」
優しき男が困ったようにそう言うと、娘は「ふふふ」と袖で笑う。
そしてそのあと、こう言った。
「そうですね。だけどほら、待てば海路の日和あり。こうしてあなたが来てくれた」
おなごはとても嬉しそう。
男はごくりと、唾を飲む。
満の月が充ちる夜。月にかかった夜雲の群れが、男のためだけ少しだけ、その身を横に反らしていった。
――すると見事だ。月明かりに照らされた、おなごの半姿がそこにある。
御髪から現れた、獣の如き銀色耳と、腰の辺りの銀色尻尾。
流石の男も、己の見たもの疑った。
そうして娘は、静かに寄り添う。
男に寄り添い、頬染める。
さすれば男は、声をあげる合間もない。
その身はすぐに今すぐに、冷たい夜風になっていく――
誰もいなくなった峠の夜道。おなごもしばらく現れまい。
さあ今日も明日も行ってはならぬ。優しき男は、行ってはならぬ。
灯り一つに、身も一つ。
月に夜雲がかかる中。
一人で夜道は、怖い怖い。
ちんとんしゃんてんとん――
ちんとんしゃんてんとん――
オーシャンパシフィックピースちゃいますよ!
「ちんとんしゃんてんとん」は三味線や口三味線の音を表す語で「ちんとんしゃん」には『三味線の稽古』の意味もあるみたいです。
小島よしおさんがギャグに使ってるだけで元々ギャグでは無いですから、これもギャグでは無いです!
狐の神隠しなので、狐が現れる雰囲気や狐の嫁入りのイメージ曲。
昔聞いた事がある様な少し怖いお伽話、そんなノスタルジックな感覚を思い出してもらえる様にしました。
なので内容はありがちですが、新たに挑戦した文体で作品のリズムや雰囲気を味わってもらえると嬉しいです。
本編に出て来る男は優しい故にですが、下心がある男は見透かされた場合に即殺されるかもしれません。