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煌めく杯にむすばれて  作者: 赤だしお味噌
歴史のひだに立つ
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両雄相まみえる#3


 中央の大柄の巨人が真っ先に踏み出して、恐ろしげな金棒を大上段に振りかぶった。ハーミットが余裕を持って横に飛び退くと、金棒が叩いた地面がめくれ上がり、水しぶきと共に土の破片が跳ね散った。


 顔に掛かった水を煩そうに払ったハーミットがまず目をつけたのが、その鈍重そうな大柄な巨人だ。金棒を振り下ろした姿勢のままの大柄な巨人に向けて、拳を握り込んで飛び込むハーミット。それを遮るように身体をぶち当てて来たのが小柄な巨人だった。


 ハーミットは空中で身体をひねって、盾を前面に掲げて突っ込んでくる巨人めがけて三連脚(トライデント)を送った。発生した反動を利用してその体当たりの軌道から外れると、一旦後方に大きく跳んで三騎士を視界に収め直す。小柄な巨人が盾を構えて前面に立ち、大柄な巨人が後ろに控え、騎兵はアロサウルスを駆って助走をつけていた。


 遠距離戦はハーミットの望むところではない。ハーミットが騎兵の突撃を嫌って小柄の巨人が構える盾にあえて突っ込む。


 眼前に広がった城壁の如き円盾に向けて、ハーミットが後ろ回し蹴り(グレイブ)を逆袈裟に切り下げてひと筋の白線を円盾の正面に描き出す。その白線を“置いた”まま、身体を転じて後ろを向いて地面に伏し、地面に両手を着いたまま右脚の背面蹴り(パイク)を地面すれすれから突き上げた。


 【パイク】の威力で巨大な円盾が上に弾かれる。その直後、【グレイブ】の白線が生み出した爆風が円盾を更に上にまくり上げた。鬼の目が、仰け反ってがら空きとなった小柄の巨人の胴を捉える。


 このまま仕留めるべく次のモーションに移行しようとしたハーミットの耳が、猛獣の雄々しい吠え声を聞いた。ハーミットが忌々しく犬歯を剥いて後方に跳ぶと、右から伸びた恐竜の(あぎと)が空気をかみ砕くのが見えた。間髪を容れずに騎兵の長大な槍がハーミットの脳天を狙って振り下ろされたが、ハーミットはこれを頭上に掲げた両腕の籠手(やつふさ)で受け止めた。踏ん張った両脚が水場の底を砕いて少し埋まった。


 ハーミットが僅かな期待を込めて右腕(トマホーク)を振るったが、既に小柄な巨人は盾を構え直しており、回転性の空刃は円盾を鳴らしただけで呆気なく散った。騎兵は走り去り、大柄な巨人は盾の陰で一撃を狙っているようだった。


 明らかに、三騎士はフォーメーションを組んで挑んできている。予想通り一人ひとりの動きは鋭い。お互いの隙を消す波状攻撃がリズムよくハーミットの攻めの手と拮抗し、真っ向からぶつかって押し勝つことは容易ではないと感じられた。


 ハーミットが口角を釣り上げると、犬歯が嬉しそうに覗いた。


 ――これは楽しい。予想外だ。氏族戦争(クランウォー)の、しのぎを削り合う戦いを思い出す。


 異形どもとの戦いというのは、言ってしまえば(くそ)の押し付け合いだった。いかにして相手の糞の上に、自分の糞を押し付けていくか。封殺(ふうさつ)こそが正義。ただの殺し合いだ。


 だがこの巨人たちはどうだ。技のやり取りがある。拳で語り合うというやつだ。


 ハーミットの闘士の本能が、死闘の予感に陶酔し始めていた。鼻の奥につんとしたアドレナリンの味を感じる。ハーミットが立つ水場が、まるで自分ために(こさ)えられた戦いの舞台(リング)のように感じられた。


 ――どうやってあの鉄壁を打ち砕いてやろうか。

 

 不意に訪れた睨み合いの時間でハーミットは戦術を構築していく。


 基本がいい。有機的な連携を切り離しての、個別撃破だ。三対一で拮抗している戦況だ。一人でも崩せば戦局はハーミットに大きく傾く。


 そういった算段をつけると、今度はハーミットから仕掛ける。


 堂々と、ハーミットは小柄な巨人が構える円盾に向かって真正面から跳び蹴り(チャージランス)をぶつけていく。ハーミットが最も信を置く一撃は、インパクトの瞬間にけたたましい銅鑼(どら)の音を奏で、重装備の巨人を容易(たやす)く後方に滑らせた。


 おそらくは、ここで敵のフォローが来る――騎兵だ。横合いから勢いをつけた恐竜の突撃が迫っていた。


 ハーミットはそのぶちかましを躱すために跳び上がった。アロサウルスが浮いた身体に噛みついてきたが、寸前に空中で身体をひねり、背面すれすれで恐るべき牙を躱した。


 しかし、この回避によって無理な体勢に追い込まれたハーミットは、巨体の高速通過を追って来た風圧の壁にぶつかり、着地が乱れた。


 水場に両手をついたハーミットの頭上には、煌めく金棒が振り上げられていた。


 大きな身体、大きな獲物、大ぶりな攻撃――安全地帯は懐だ。


 この追撃を読んでいたハーミットは、全身のバネを使って前方に身を投じて懐に飛び込むことで、大柄な巨人の一打を掻い潜った。後ろで岩が爆ぜる音が立つのと、腰を入れたハーミットのストレート(メイス)が巨人の腹を捉えたのは同時だった。


 綺麗に決まったカウンターだったが、輝く鎧に阻まれた手応えから大した効果はないと感じた。


 それならばと、ハーミットは肘を突き出して突貫し、全身(モンケーン)を目の前の巨漢にぶち当てる。【モンケーン】はマシンアーセナル・スキルの体当たりだが、ヒット時に膝崩れ(スタン)を誘発する効果があり、隙が大きいものの、大技の起点として重宝する技だった。


 大柄な巨人の腹を捉えた【モンケーン】は、大太鼓を打った音を一度立て、目論見通り巨岩の如き体躯を膝崩れ(スタン)にさせた。ハーミット目の前で巨人ががっくりと膝をつくと、水が高く吹き上がり、中庭の地面が激しく揺れた。


 本来であれば、このまま乱舞【神楽】に移行するか、大技のヘビーアーセナル・スキルに繋ぐのだが――ハーミットは勘でその場から後方に大きく飛び退いた。


 その直後、キィンという甲高い共鳴音と、バチバチという空気の破裂音が混ざって、先ほどのハーミットの立ち位置に白んだ黄色い刃が現れた。空中で視線を送ると、騎兵の長槍が間合いのはるか外で振るわれていた。騎兵の槍は、ああいう遠距離に雷刃(らいじん)を生む特性があるようだ。


 この騎兵の動きに、一呼吸だけ(さき)んじて動いた余裕が、ハーミットに反撃の機会をもたらす。


 ハーミットは着地の直前、空中で【トマホーク】を放った。狙いは騎士ではない。


 大気をかき混ぜながら直進する【トマホーク】が、アロサウルスの首の付け根に突き刺さった。体表から少なくない血が飛び散る向こうで、巨獣は上体を起こして苦悶に鳴き、騎士を振り落とす勢いで身体を振っていた。


 ハーミットは着地と同時に、すかさず右脚を大きく振り上げて、頭上の空気を(はじ)くと、不可視の飛槍(ジャベリン)がアロサウルスの首の傷を容赦なく狙った。しかし【ジャベリン】が恐竜の首に突き刺さる寸前、小柄な巨人が騎兵の前に飛び出して、円盾で鋭い空弾(ジャベリン)を完璧に受け止めた。


 【ジャベリン】は初見だったはずだが、あの小柄な巨人はハーミットの動きから、その効果を見切ったのだ。


 大柄な巨人がようやく金棒を突いて起き上がろういうところで、騎兵はてんやわんやな状態だった。


 望外に訪れた一騎打ち(タイマン)のシチュエーションに、ハーミットは厄介な盾の巨人を始末するべく駆け出した。ところが、【ジャベリン】を受け止めて固まっていたはずの盾の巨人の後方で、突如として土砂が吹き上がったのが見えた次の瞬間、盾の巨人が身体をひねって何かを投げつけてきた。


 突進するハーミットに向かって、一直線にフリスビーの如く飛翔してくる物体は円盾だった。だが妙だ。縁取られた円盾の縁に、規則的に歯が突き出しており、まるで丸鋸(まるのこ)のように獰猛に回転しながら飛んでくる。


 見るからに危険な飛来物に虚を突かれ、内心たじろいだ。だがハーミットは、これは逆にチャンスだと考えて受けを選択する。ふたつある内のひとつの盾をここで脱落させ、肉薄し、ぶちのめす。


 ハーミットが籠手(やつふさ)を掲げ、衝突に備えた直後、両腕が壁にぶち当たったような衝撃をうけ、籠手と丸鋸がしのぎを削って耳障りな音を立てた。


 吹き散らされた火の粉を被ったハーミットは、予想を超えた円盾の運動量を受けてたまらず足を止めてしまった。


 そんなハーミットを尻目に、円盾は空中に輪を描いて、見事、小柄な巨人の手元に戻っていった。


(どっかで見たぞ、その攻撃)


 胸中の突っ込みを余所に、大柄な巨人と騎兵が戦線に復帰していた。


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