憂鬱から怒りへ
現実とはなんと残酷なんだろうと思った。今朝普段通りに夫を見送った時には、まさか同じ日に、こんな思いをするなんて、、夢にも思っていなかった。
「ママ~、かおん、おなかすいちゃった。」
奏音の声で、夕食の支度をしなければならい事を思い出させた。
「ごめんね、奏音、すぐにご飯作るから待っててね。」
「うん、はやくね~。」
奏音はそう言うと、また人形遊びに戻った。
台所へ行き、冷蔵庫を開ける。見ると豚肉と卵がある。
生姜焼き、それと卵と野菜も炒めて、、簡単だけどこれで我慢して貰おう、とても手の込んだ物を作る気にはなれない。少しして料理が出来上がり、それをテーブルに並べていると、、その時玄関で音がした。
「あ、パパだ~パパ~おかえりなさい。」
「おっ、奏音、今日もいい子にしてたか?」
いつも通りのふたりのやりとりを聞きながら、何故か恵は胸を鷲掴み(わしづかみ)にされた様な不快感を感じていた。それでも、、
「おかえり、、なさい。」と言った。
「食事の前にシャワーする。」私の変化には全く気付く事も無く、夫はそう言って浴室に向かう。その背中に、、、
「佐々木さんから、、電話があって、直ぐにでも連絡欲しいと、、。」
夫の全身が強張るのが分かった。暫しの沈黙。ほんの十数秒なのだろう、、けれどとても長く感じる時間。
「あ~、そうだった、俺、、渡すものがあったんだ。悪い、ちょっと出てくる。」
声が少し上ずっていた。恵の顔を見ようもとせずに、そのまま慌てた様子で外へ出ていった。そして夫はその夜戻ってこなかった。