憂鬱の始まり
「ママ、ママ~~パパがいっちゃうよ~、パパ~パパ~~~~。」
「奏音、あの人パパに似てる?でも違う人よ。だって、パパは今、会社でお仕事しているもの、ねっ、そうでしょ?」
「う~ん、そっかぁ、、そうだね、パパじゃないね!」
「そうよ、よそのおじさん。さぁ~それより早くお家に帰って、エリちゃんに新しいお洋服着せてあげなきゃ、早く~って待ってるわよ。」
「そうだ~、エリちゃんまってる~。ママ~おうちにかえろう!」
上手く胡麻化して奏音の気をそらした。そうする事で恵は自分を納得させたかった。それでも胸のザワツキは納まらない。今は取りあえず家に帰ろう、そして兎に角落ち着こう、そう思って歩き出した。
「奏音、ママとお手々繋ごうか?」
「わ~い、ママのおてて~!」
奏音は機嫌よくスキップしながら歩く。
恵は、『この子のためにしっかりしなくては。』そう自分に言い聞かせながら奏音の手を改めて握り直した。
家に戻ると奏音は、おやつを食べるのもそこそこに、直ぐにエリちゃんと遊び始めた。私はそれをソファーに掛けたまま眺めていた。
自然と先程の光景が浮かんでくる。夫と隣を歩く女性、あの二人の様子からは、どうしても仕事関係だとは思えない。夫にさり気なく確かめてみようか?いや、まだそれをする勇気がない。でも、やはり気になる。そんな事をぼんやり考えていると、、
「ママ~~エリちゃん おきがえしたよ~。」奏音の声に我に返った。




