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ニートヴィレッジライフ ~夢の理想郷~  作者: 神村涼
3.ウォータリア王国編
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九十八.作戦の合間に


 ジュダルさんとの模擬戦が終わり、どれくらいの時間が経ったのだろう。


 後頭部には弾力のある柔らかい感触と温もりが感じられる。近くでは女性独特な良い匂いが鼻孔をくすぐる事から導かれる答えは――。目を閉じていても分かる。これは膝枕だと! 


 もう少し堪能したい所ではあったが、バレンドール伯爵達の討伐作戦に参加しなくてはならないのだ。口惜しいがいつまでもこのままと言う訳にはいかない。


 渋々、目を開けるとメグミンが横から声を掛けて来た。ん? 横から? 


 「あっ! 起きた。目が覚めないから心配したんだよ」


 「俺はどの位倒れてた?」


 「そうだな、確か二十分程だろう」


 別の声がメグミンがいる反対側から聞こえて、恐る恐る振り返るとジュダルさんの顔面があった。そう、メグミンの身体が視認できた辺りから感じていた違和感の正体はこれだ。俺は膝枕では無く、ジュダルさんの凛々しい腕を枕にして横たわっていたのだった。


 ジュダルさんの表情は、何かを慈しむように目を細めていた。時折、自身の腕に力を入れているのだろう。俺の頭部は上下に浮き沈みを繰り返していた。その様子を見て自然とお尻に力が入る。


 「あの……。これはどういう状況なんでしょう?」


 「うん? 私達は力を認め合った者同士だ。最後は肌を重ねるのは必然では無いだろうか」


 「いえ、言っている意味が良く分かりません。取り合えず介抱してくれた事には感謝します」


 このまま寝そべっていては色々と危険だ。俺は勢い良く起き上がりメグミンの後ろへと隠れた。メグミンはそんな俺を見て苦笑いを浮かべている。


 ジュダルさんは残念極まりないと言った様子で立ち上がる。辺りを見渡すと演習場にはアール氏の姿が無く。日も傾き始めていた。


 現在の状況をジュダルさんに確認すると、アール氏は討伐準備の為、以前俺達が会談した建屋に戻ったそうだ。俺が起きたらそこに赴く様にと言付けを言い渡されたらしい。


 俺は一刻も早くこの場から離れたい衝動に駆られて、簡単に挨拶を交わして離れた。最後に握手を求められて中々手を放してくれなかったのは言うまでもない――。


 大通りは最終日だからか三日間のうち一番の賑わいを見せていた。隣ではメグミンが先程からくすくすと笑っている。


 「もういい加減笑うなよ」


 「だって、ジュダルさんの前でショウの変な歩き方を思い出すと――」


 あり得ない事だとは思いつつも、終始お尻に変な力が入りぎこちない歩き方をしていた事を笑っているのだ。仕方が無いとはいえ自身が情けなくなってしまう。


 「ミズキには内緒だからな」


 「えー、どうしよっかなー」


 この感じだとメグミンは仮面の下では憎たらしい表情を浮かべているのだろう。


 「何でも一つだけ言う事聞いてやるから。頼む!」


 「う~ん。じゃあ、何か考えておくから。絶対守ってよね!」


 彼女は小指を差し出して指切りを行わせたのだった。仮面の下ではどんな表情をしているのだろう。相手の表情が見えないので、とても不気味に思えた。


 それから、大通りを抜けて入り組んだ路地を通り、昨夜アール氏と会談した建物付近にあった広間には、大きなテントが張られていた。


 まだ、会場準備の途中なのだろう。木箱が山積みになっていて、作業員と思われる人がせっせと中に運んでいる姿が見える。


 その横を通りアール氏が居るであろう建屋に入ると、屈強な男に進路を塞がれるも,、奥から聞こえて来た声により進入を許された。


 「来たかい? 来たね。中に入っておいでよ」


 招かれるままにアール氏の前まで来ると、先程の模擬戦は素晴らしかったと賛辞を受けた。その後、その腕を見込んで早速働いて貰いたいと切り出してきた。


 「商品の受け渡しは、事前に得た情報から街を東に進んだ先にある森の中で行われる。そこで君達には前にも言った通り、私の兵と共に商品(こどもたち)を守護する不届き者達を討伐し、子供達の保護を行って貰いたい。ジュダル君を負かした君ならば任せられる」


 買い被りすぎだと、俺は首を横に振った。そういえば、海猫商店のメイドリンとバレンドールはどうするのだろう?


 「首謀者については――?」


 そう言いかけるとアール氏は君が気に掛ける事は無いと手で制してきた。


 「それは私の役目だからね、そっちは気にしなくても良い。まあ、取引はオークションが終わってからだよ。それまでは雰囲気だけでもオークションを楽しんで行ってよ。こんな事が無ければ、愉快なお祭りなんだよ」


 アール氏はどこか悲しい表情をして無理に笑顔を作っているようだった。オークションが終わる前には東門前に集合という事で打ち合わせは終わった。


 建屋を出た俺達は見知った仮面を着けた人影が立ち塞がっている事に気が付いた。


 「話は終わったっすか?」


 「チェキラとヴィオラさん……? どうしてここに?」


 「私達も協力すると言っただろう? 流石に商人である私達は血生臭い戦闘は手助け出来ないが、情報と言う武器は持ち合わせているからな。色々と調べて教えてやったと言う所だ」


 ちなみに東の森で取引が行われるという情報はヴィオラさん達が掴んだものだった。


 「まあ、俺達が出来る事はここまでっすけど。あとは拠点で無事を祈ってるっすよ」


 そういう事だとヴィオラさんは頷いていた。その想いに報いる為にも失敗は出来ないと自然と拳に力が籠る。ただ、気がかりなのは相手は当然抵抗してくるだろう、怪我を負わす事になるかもしれない。最悪、初めて人を手に掛けてしまうかもしれない。


 そんな俺の不安を感じ取ったのかメグミンは手を重ねてきた。


 「大丈夫だよ。また、うちが慰めてあげる」


 耳元で囁かれた言葉に俺は月明かりで見たメグミンの体躯を思い出し顔を赤くさせた。本人は冗談で気を紛らわせようとしてくれたのだろうが、重ねられた手は僅かに震えていた。ああ、メグミンも不安なんだな。ミズキ達がハインドに連れ去られそうになった時に俺は決心した筈だと思い出した。


 「ありがとう。もう大丈夫だよ」


 メグミンに笑顔で返した俺は、チェキラ達と一緒にオークションを鑑賞したのだった。会場の熱気は競りが始まると同時に上昇していった。競り落とした者は歓喜の声をあげ、惜しくも逃した者は次こそはと嘆いていた。


 独特の雰囲気を最後まで楽しんでいたいと思いながらも、約束の時分に俺とメグミンは東門前と向かうのだった。


いつも読んで頂きありがとうございます!


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