八十五.メグミンと一緒1
夜が明けて俺は、宿屋の前で待ち惚けしていた。
前日にメイドリンさんから得た情報を元に、メグミンと一緒に観光する予定だ。美味しい食べ物に、有名スイーツ、ゴンドラでの遊覧に祭りがあるらしい。
期待で逸る気持ちを押さえながら、まだかまだかと待ちわびている所だ。祭りの日取りが近いせいか、メイン通りの往来も増えたような気がするのは気のせいだろうか。
突然背中に衝撃を感じてすぐさま振り返ると、メグミンが申し訳なさそうな表情でこちらを見ていた。
「ごめん、遅れちゃった。ショウがうちより早く起きるなんて珍しいね」
「たまにはそういう日もあるよ。それより、背中痛いんだけど」
「うちより早く起きた罰だよ! それより早く行こう!」
陽気に受け答えするメグミンは俺の手を引っ張ってくる。確かにメグミンと二人きりという状況は、今まで余り無かった。俺はどう対応しようかと緊張して深く眠れなかったのは事実だ。
肩を透かして、やけに上機嫌なメグミンの後を歩き始めた。祭りが近いせいもあり、昨日よりも人々の往来も多く感じられた。
大通りでは飾り付けを街人が忙しそうな喧騒が、あちらこちらから聞こえてくる。
メグミンに引っ張られる形で、俺は衣装屋や装身具屋、帽子屋に靴屋と様々な店に連れまわされた。
いつの間にか、俺の両腕には買い物袋の束で塞がってしまった。
そんな様子もお構いなしにメグミンは、あの店も気になると言って突撃していってしまった。
俺は通りに面したベンチに座り、店内に消えゆくメグミンの後ろ姿に声を掛けた。
「ちょっと、俺はここで休憩してるから!」
「わかった! 直ぐ戻ってくるから待ってて!」
愉し気な声が跳ね返ってきて、彼女の姿は店内へ消えて行った。
やれやれ、そういえばメグミンはレイク王都でも買い物をしまくっていたな。
まあ、本人が楽しそうなら俺は、別に構わないけどな。
天を仰ぎながら、そう考えていると頬にひやりとした感覚が浸透し、あっと声を上げてしまった。ふと、見るとメグミンが意地悪そうにほくそ笑んでいた。
「何するんだよ! 驚いたじゃないか」
「ごめんごめん、ショウがぼぅっとしているから、ついね」
それよりもと、メグミンはカップに入った液体を差し出してきた。それを受け取ると、散々動き回って火照った指先が急激に冷やされていった。
「これは?」
俺は気持ちのいい感覚を味わいながらメグミンに尋ねると、もじもじと恥ずかしそうにしていた。
「それは、あれよ。買い物に付き合ってくれたお礼。わざわざ、聞き返さなくても察してよ」
どさっと、ぶっきらぼうに俺の隣に座る。
「そういう事なら、ありがたく貰うよ」
一口飲むと、柑橘系の爽やかな味わいが口の中を通り抜けた。冷たい喉越しで、先程の疲れが大分癒された。
俺達はベンチに寄りかかり、飲み物が空になるまで休憩した。
「ご馳走様、取り合えず歩き回るにしても、荷物が多すぎるよ。一旦、宿屋に戻ろうか」
「あと一軒だけ、付き合ってよ! お願い」
身体をこちらにすり寄せ、上目遣いでお願いされれば嫌だとは言えなかった。
決して下心がある訳ではない。決して――。俺にはミズキという恋人がいるのだから。
それはさておき、メグミンの行きたい所とは何処だろうか。鼻歌を奏でながら歩くメグミンの後をついて行くと、先程も寄った装身具屋の中に入っていく。
いらっしゃいませと店員が俺達を迎えてくれた。
「欲しい物があったなら、さっき寄った時買えば良かったじゃないか」
「迷っている物があって、ショウに選んで欲しいの」
そう言うとメグミンは店員さんに、小さい緑色の鉱石が嵌められた指輪と花を模した髪飾りを持ってきて欲しいとお願いしていた。
店員さんはそれぞれをショーケースから取り出すと俺達の前に並べてくれた。
「どっちかで迷っているなら、どちらも買えば良いじゃないか?」
そう提案すると、店員さんがわざとらしく俺に耳打ちしてくる。
「お客様、こういうのは選んで差し上げるのが紳士の務めですよ」
そういうものなのだろうか? どちらもあった方が悩む事が無いと思うけれど。
指輪より、こっちの花を模した飾りの方がメグミンには似合いそうだと思い手に取った。
「こっちが似合うと思うけど」
「え~、ちょっとこれ可愛い過ぎない?」
「なんだよ、じゃあ指輪にすれば良いだろ」
「うそうそ、この髪飾りが良い」
そんなやり取りをしながらメグミンは髪飾りを購入して、早速自分の前髪につけていた。
「どう? 似合う?」
「うん、とても。メグミンのイメージにぴったりだ」
その花飾りの様にメグミンは笑顔を満開に咲かせて喜んでいた。
装身具屋を後にした俺達は宿屋に戻りしばしの休憩をする事にした。
歩き回って足が棒の様だ。おまけに、荷物係もやって疲れた。ガイウス達の帰りが既に恋しくなってしまった。
ま、ウィンティア王国で少し元気のなかったメグミンが楽しそうなら良いか。
足の疲れも程々になくなり、お腹が空いてきたのもあって、メグミンを呼びに部屋へと赴いた。
トントンと部屋の扉をノックしても返事は無かった。可笑しいな、部屋にいる筈なんだけど、そう思い入るぞと声を掛けて扉を開く。
すると、先程買った服や靴を部屋一杯に広げて、試着しているようだった。
「きゃっ、ショウのえっち~」
俺は呆れて表情で返した。
「何がだよ、服着てるだろ。それに、きゃ、とか普段言わない事言うなよ」
「うちだって女の子なんだよ」
そういってメグミンは口元をわざとらしく尖らせて、不満そうにしていた。
「わかった、わかった。腹が減ってるからむくれるんだろ? 夕食に行こう」
「そんなんじゃないけど、その提案には賛成。歩き回ってもう腹ペコだよ」
その後俺達は、メイドリンさんに教えてもらった、魚料理専門店で舌鼓をうちながら夕食を済ませた。
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