八十二.郷に入れば郷に従え
翌日、朝食を取り終えた後にガイウス達は儀式の為、聖堂へと歩いて行った。その様子を俺達は見送った。
聖堂は先日宿をとった地区ではなく、岸に掛かる大きな橋を隔てた向かい側にあるのだという。今俺達のいる地区は、通称『庶民地区』と言われており住民や冒険者、商人達が宿場町を発展させて出来た地区なのだ。
一方ガイウス達が向かった先は『貴族地区』、ウォータリアの王城と貴族達が住む居住地になっている。もちろん、あちら側にも宿や商店はあるがとても一般住民が入れる雰囲気ではない。進入したとしても罰則は無いそうだが、俗にいう場違いな雰囲気を漂わせている。
それに宿泊料や各商店の価格も一般庶民の価値観とはかけ離れている。とても入る気にはなれない、まあ別に無理して入りたい訳でもないのだけど。
昨晩ギルドで、魔鉱の換金ついでに尋ねていて良かった。何も知らなければ恥をかくところだった。
さてさて、軍資金も沢山あるしどうするかな。ガイウスの言うように『海猫』なる店に顔を出しておくのが良さそうだ。取り合えず隣にいるメグミンに相談でもするか。
「この後どうする? 特にしたい事が無かったらあの商人の店を訪ねようと思うけど、どうかな?」
「うーん、そうだね。うちはそれで良いよ! とりあえず、ぶらぶらしてみないとわかんないし」
目的地が決まり俺達は、行き交う人々に話しかけ店の情報を集めるた。それぞれの話を要約すると、『庶民地区』に目指す商店は無いという結論がでた。親切な人に、地図を描いて貰い場所は判明したのだが、俺達は今、『貴族地区』の入り口で佇んでいた。
「この地図によると、明らかにこの中だねー。でも、どうするショウ? 中にいる人達の格好ビシッとしてるよ」
メグミンの言う通り、長旅に適した服装をしている俺達とは違い、見る限り階級がついていそうな人達は、上品な服を身に纏っている。
その事で、そのまま入る事に対して決心がつかない為に佇んでいるといった具合だ。
俺は面倒くさい思いを前面に出しながらメグミンに話しかけた。
「はぁ、仕方ない。変な目を向けられて騒ぎになっても困る。郷に入っては郷に従えだ。それらしい服装を見繕ってからにしよう」
「賛成! うちがショウに合いそうな服選んであげる」
俺の思いとは裏腹に、メグミンはこの状況を楽しんでいるようだった。しかし、俺には以前レイク王都で購入した一張羅があるので、今回新たに買う必要は無い。
「俺はもう持ってるから。メグミンのだけで良いと思う」
「え? うん! そうだったね――。じゃあ、うちのをショウが選んでよ」
両手を広げて、どんな服が似合うと思う? と、目で聞いてくる。
メグミンに似合いそうな服か――。その場で、メグミンを下から上まで眺めてみた。体躯は平均的、やや筋肉がついているから引き締まって見える。腰や太ももに掛けては女性らしい膨らみが分かるものの、上部に関しては特記するほど――事は無い。
「どこを見てそんなに悩んでいるのかな?」
笑顔を崩さずに俺に近づいてくるメグミンに恐怖を覚え、何だかんだとその場を繕い俺達は『庶民地区』へと戻った。
適当な商店に入り、フォーマルっぽいもの何着か着せ替えてみた。
女物の服がどういうものが良いのかわからない。取り合えず、ミズキが着ていたようなドレスを選び着て貰った。
「ミズキとお揃いだ。でも、うちにはちょっと似合わないかも」
これはこれで、似合っていると思うけどメグミンの言う通り、メグミンらしさが無い。もっと明るくて、活発な雰囲気が必要だ。そもそも、貴族のパーティーに出席する訳でも無いのだ。もう少し、緩い感じでも良いだろう。
次にミニスカートのフリルがついた可愛い系の服を選んだ。試着を終えて出てきたメグミンを見て俺は吹き出しそうになってしまった。
「ねぇ、うちで遊んでない? 真面目に選んで欲しいんですけどー」
確かに少し興味本位で選んでしまった。ふわふわの服を着たメグミンは何というかただのバカっぽい雰囲気を出していたのだから。
「ごめんごめん、真面目に選ぶよ」
そう言って、俺は商品が掛けられた棚を眺めていると、上下が一体なった服を見つけた。早速メグミンに手渡し試着して貰った。
「これ良いかも!」
試着室の布を空けながらメグミンは姿を現した。
その服は、下はパンツになっていて上はノースリーブのような造りになっている。これならば、腰がキュッと締まっている為、心許ない胸の膨らみのでも女性らしさが出る事だろう。
「うん、良いね。メグミンに似合ってる」
「でしょ? うち、実はなんでも似合うんだけどね」
いつも通りの明るい笑顔を見せながら冗談交じりに言ってくる。俺達は、会計を済ませて一度宿へと戻った。
二人共服を着替えた。時刻はもう昼時、不釣り合いな格好をして『庶民地区』で軽く昼食を取った俺達は、再び『海猫』を目指し『貴族地区』へと向かった。
さあ、行こうと俺が進もうとすると、メグミンが俺の袖を掴捕まれた。
「こういう雰囲気の場所ではする事があるでしょ?」
上目遣いで俺を見てくるメグミン。俺は辺りを見回すと、男女の二人は腕を組み歩いている様が見て取れた。
「はいはい、わかりましたよ」
俺は、恥ずかしさを押し堪え腕を横に軽く曲げると、よろしいと言わんばかりにそっと、メグミンが腕を回してきた。
それなりの格好をしたかいがあって、変な目線に襲われる事も無く。難なく散策が出来た。
大通りから、入り組んだ道を地図通りに進むと直ぐに目的的の場所へと辿り着いた。
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