八十.ウォータリア王都到着
道中、野党に何度か襲われる事があった。人通りが少なくなる郊外の辺りが一番多く襲われたように思う。この辺りでは当たり前なのだ。すれ違う行商人達は、屈強な男達を連れて荷馬車を守っているのが見て取れた。ギルドで雇ったのだろう。
野党達は俺のギルドカードを見せると戦々恐々と立ち去って行った。この世界でAランクの実力は伊達じゃないという事だろう。自分自身はそう感じないが化け物に出会ったみたいに逃げられるのは少し心が痛む。
ただ、この紋所がの勢いでかざすだけで戦闘を避けられるのは非常に気持ちがいい。何より危険な戦闘を避けられるのはこちらとしても願ったりだ。仮に戦闘したとしても負ける気はしないのだが、あまり人を傷つけるのは好きじゃない――。
ガイウスやミズキも俺の考えに賛同してくれている。メグミンに至っては、最早表に出て来る事すらなくなっていた。
メグミンも身体的には俺に迫る所が在る。実際ガイウス先生の元、鍛えている時に何度か試合したが、一度だけ負けている。まあ、俺にも油断があったのだけど。
それはそうと、やたら行商人と出くわす王都が近い証拠か? 右手に見える河は段々と広くなり、やがて対岸が見えなくなる程に成長していた。
「おっ、見えて来たぞ」
御者席のガイウスから声が掛かり目を向けると、まず目に入って来たのはこの河に跨る大きな橋だ。木を上手い事組み合わせたその橋は飛び石を跳ねるように見事な曲線を幾つも描いていた。
様々な形の船が往来していた。あの橋は船が下を潜る為に工夫してあるのだろうと想像に難くない。
橋の中央部から建物が群生しており、水面に浮かぶ蓮の葉を想像させた。どういう仕組みなのだろうか? 川底に杭でも突き刺して支えているのか。と、考える間も無くミズキやメグミンが口を開いた。
「うわー、うちこんなの初めて見た! 早く見て回りたいな」
「だね、河の色も綺麗だよね。私はあの船に乗ってみたいな」
目を輝かせる二人には悪いが、到着したら果たさなければいけない仕事が、待っているのを思い出して貰おう。
「気分が良さそうな所悪いんだけど、次にガイウスの手伝いするのはどっち?」
俺の言葉を聞いてミズキとメグミンは、あからさまに表情が沈み俺を睨んできた。おいおい、ウィンティアで約束したよね? 一人一国ずつ、ガイウスの儀式の手伝いするって――。
そんな顔してもダメだからな。そんな俺の雰囲気を、察してかメグミンが先に観念したようだ。
「じゃあ、ジャンケンで決めよう」
そう言ってメグミンとミズキは、お決まりの掛け声と共に勝利を勝ち取らんと、互いに勢い良く手を突き出した。数回に渡って、あいこが続き見事、自由時間を獲得したのはメグミンだった。
「やったー!」
「うぅ、私のバカ……」
メグミンは腕を天に指し自身の勝利に酔いしれている。一方ミズキは、かなりの落ち込みようだ。二人共何を本気で、やっているんだか――。御車席を見てごらん? ガイウスが寂しそうな表情をしているのが見えないのかい?
俺はガイウスを慰めた後、ミズキに耳打ちし終わったら二人で見て回ろうと励ました。先程までの落胆は少し和らいだ様子だった。
どうやら、この勝負に勝てば数日間は俺と二人きりだと思い張り切っていたみたいだ。
ああ、その手があったか――。この外側から見ただけでも綺麗な街で数日ミズキと二人きり、その発想に至らなかった自分が情けない。
後悔の念が自分の心に渦巻いたが時すでに遅かった。そのわだかまりを、押し付ける様にメグミンに対して釘を刺しておいた。
「次の国ではメグミンが必然的に付き添いだからな」
「はーい」
まったくもってやる気の無い返事にモヤモヤするけど、どんな街なんだろうと俺の興味は既にそこにはなかった。
噂ではどんなものでも買えないモノは無いと聞いている。旅の道中それなりに魔獣を倒し資金はある。少しくらい散財しても良いだろう。それに、カオル君達にも何か買っておかなくちゃな。
その期待に応える様に馬車は、木の心地良い音色を奏でながら橋を進んでいった。
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