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ニートヴィレッジライフ ~夢の理想郷~  作者: 神村涼
2.ウィンティア王国編
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七十七.でっ、でた!


 食堂を後にした俺達は、腹を休める為寝室へと戻った。その道すがら、柴田が床をきょろきょろと確認している様は滑稽だった。


 柴田が食堂で、霊的な存在を匂わせる発言をしたのは、今までに無い事だった。その話題にこちらから触れ無いというのも不自然かもしれない。腹休めの丁度良い小話になるだろう。


 「さっき言ってた話だけど、どうして誰かに見られているなんて思ったんだ?」


 「聞いてくれよ――――」


 そう言って柴田は、しがみつく様に話し出した。


 柴田が言うには、ハピアと別れた後一人で居たくないと思ったらしく、ヴィクトールさんの所へ急いで行ったそうだ。別れ際の事は俺達も見ていたから知っている。颯爽と駆け出す様はとても面白かった。


 俺は口元を隠し、必死に笑いを堪えながら柴田の話を聞き入った。ヴィクトールさんと合流した柴田は、珍しく話しかけて来たハピアの事を疑っていた。自分の事をからかったのでは? そんな疑問から、真偽を確かめる為に、それと無くヴィクトールさんに先程の話をすると、「本当だ」と返事が帰って来たそうだ。


 それから、食堂に来るまでの間柴田は一人だったようだが、廊下を食堂に向いて進んでいると、後ろの方から女の子の声が聞こえたそうだ。何を言っているかは分からなかったと言っていた。先程の話もあって、恐る恐る振り返るとそこには、小さな水溜りが出来ていた。その場から逃げる様にして、食堂まで行ったそうだ。


 その話を聞き終えた俺は、いくつか最初の打ち合わせの時に無かった出来事が起こっている事に気が付いた。シンシアが、ヴィクトールさんを引き込んだのか? でも、シンシアならやりかねないな。あの王女様は全力で楽しむタイプだからな、廊下の水も途中で思いついたのだろうと解釈した。


 そろそろ、腹休めも大丈夫かと思い柴田を最終段階に嵌める為、行動を起こした。


 「なあ、寝る前にトイレに行っておかないか? その話聞いてたら、夜中に起きても一人でいけそうに無いからな」


 こう言ってやれば、柴田も嫌とは言わない筈だ。自分に置き替えた時に同じ事が言えるのだからな。


 「俺は別に一人でも良いけど、そこまで言うなら行ってやっても良い」


 なにやら少し癇に障る言い方だが、良しとしよう。素直になれない所が柴田らしい。柴田だけに声を掛けるのも、可笑しな話だと思いガイウスにもそれと無く同じ質問をした。


 しかし、ガイウスは寝具に包まりこちらに顔を向けないで、手だけで行って来いとひらひらするばかりだった。仕方ない、一応声を掛けたのだ。これで、不自然な点は無いだろう。それに、ガイウスは演技がぎこちないから別に来な方が良いか。


 自室を出た俺とガイウスは、薄暗い廊下をトイレのある方へと進んでいった。目的地が近くなると徐に柴田がトイレへ向かって走り出した。


 「先に行かしてくれ!」


 そう言い残しトイレへ入って行った。俺は返事をする間も無かった。それ程まで我慢していたのだろうか? この場のトイレは一室しか無く、用を足すには待たなければならないが、これは好機だと思い柴田を置いて俺は廊下をそっと戻った。


 良し。これで打ち合わせ通り柴田を一人にする事が出来た。後は、シンシア達が驚かすだけの筈だ。近くにある身の丈ほどある花瓶の際に身を潜め、その様子を伺おうと待機した。


 しかし、一向にシンシア達が準備の為に現れる気配が無い。というよりも、いくら薄暗いとは言え余りにも人の気配を感じる事が無かった。柴田が入って行ったトイレもやけに静かに感じる。俺は、まだかまだかとその方向へ凝視した。


 すると突然、後ろから肩を叩かれた。不意を突かれた俺は驚きの余り身体が脈打ってしまった。後ろを振り向くと、そこにはメグミンが神妙な表情で立っていた。


 「驚かすなよ。シンシア達は? 今結構いい状況なんだから早く驚かそうよ」


 「それなんだけど……。あの作り話、本当の話らしくて今ハピアとシンシアはヴァンフィリップさんに説教されてて来れないよ。ヴァンフィリップさん曰く、危険だからやめなさいって、それで中止にしようって話を伝えに来たの」


 えっ? 本当の話? そんな事あるのか? いや、この話が本当であれば柴田がヴィクトールさんから聞いた話が、シンシアの口裏合わせではない事になる。あの演技が超絶下手糞なメグミンが嘘を言っているとも思えない。まさかな……。


 「どっちにしろ、シンシア達が来られ無いなら中止だな。しかし、柴田の奴長いな――――」


 俺は、トイレのドアをノックして急かすも、やけに静かだ。俺は違和感を感じ、男同士別に見られて困る物なんて無いと、ドアノブに手を掛け扉を開いた。


 だが、その空間には誰も存在していなかった。あれ? 柴田の奴何処に行ったんだ? 出る所を見た記憶は無い。俺は、混乱した頭で助けを求める様にメグミンの方を見ると、メグミンの姿も無くなっていた。


 どうゆう事だ? メグミンも居なくなっている足音も無く。まあ、メグミンは【隠伏】のスキルを使って消える事が出来ると推測して、柴田は? 何処に行ったんだ? やけに、薄暗い廊下がさらに暗くになったように感じられた。


 すると、廊下に窓が無いにもかかわらず。風が通り抜けるのを感じた。その風によって、廊下の蝋燭の明かりが消え、頼みの明かりは俺の手にあるランタンのみだ。俺は、不気味に思いその場を後にしようと自室の方へと歩み出した。そこで、ある異変に気が付いた。廊下に水溜りが出来ている、先程通った時には無かった筈の水溜りが――――。


 俺はそれを避ける様にして通り、足早に自室へと駆け込もうとしたその時、目の前に長い髪を垂らした女の人の姿を捉えてしまった。


 「なぁ、そこに居るのはミズキなんだろ? 変な冗談やめてくれよ」


 居ても立ってもいられなくなり、そう声を掛けるも返事は無い。体躯からはミズキだと思われるが、ただ一点可笑しいのは髪が腰付近まで伸びている点だ。レイク王国で髪を切ってから、数ヶ月で腰まで伸びるのはあり得ない。それに、薄暗くて良く確認できないが、髪が濡れていて水滴が滴り落ちている様に思える。別人なのか? こう暗くてははっきりとは分からない。


 「おい! ガイウス! 起きているんだろ! 部屋から出て来てくれ」


 相手を挟んだ先にある自室に向かって声を掛けるも、長い廊下に虚しく響いただけで何の応答も無かった。今までに無いほどに頭を回転させた。そこからは、何も発見出来ないと知っていながらもこの状況下ではそうする事しか考えられなかった。


 俺が意味のない事を考えていると、目を疑うような光景が飛び込んでいた。濡れた女が、ふわりと身体を中に浮かせたのだった。


 「う、嘘だろ――――」


 自然とその言葉が漏れ出した。今までそう言った類の話は、信じていなかった。こうして、相対して目に見えていても、それは嘘だと思いたい。俺はその光景を見てから、相手に背を向け無我夢中で逃げ出した。考えるよりも先に、身体が動いていた。あれは、危険だとそう感じられずにはいられなかった。


 道中、振り返ると濡れた女は空中に舞ったまま音も無く俺の後を付けていた。これでもか、と言わんばかりに足に力を込め踏み出そうとした瞬間、急に何かに足を取られバランスを崩し地面に転がってしまった。何が、何やら分からない。兎に角、立ち上がらないと彼奴が来ると思い両手を地面について立ち上がろうとした時、手にある感触が伝わって来た。


 「なんだ……。これ?」


 改めて転んだ場所を確認すると、そこは先程通った水溜りの上だった。手に着いた水滴を見て俺は、自分でも聞いた事のない声を挙げていたに違いない。


 その瞬間俺の両肩に、不自然な重みを感じたが今の俺に振り返る勇気は無い。すると、水滴が滴り落ちる髪が俺の顔の横に現れたのが視界に入った。次の瞬間、女は口を開いた。


 「次は、あなたをずうっと視ている」


 「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 もう、どうにでもなれと身体を右に左に暴れ狂い、相手を突き飛ばすと女は壁にぶつかった拍子に女の髪が飛んでいき、更には耳を疑う言葉を発した。


 「痛ーい!」


 痛い? 幽霊が物理で痛い? どうゆう事だ? 


 すると、先程まで静かだった廊下から笑い声が押し寄せて来た。ぞろぞろと現れたのはシンシア達だった。


 「あー、面白かったわ。ミズキ大丈夫? 頭ぶつけてない?」


 「ぶつかった拍子にちょっと……、でも平気だよ」


 「ミズキ姉ちゃんが浮いた時のショウの顔、面白かったー」


 「これを俺にしようとしてたのか? 勘弁してくれよ」


 「メグミンの演技も良かったな」


 「ガイウスは全然ダメダメだったよね」


 訳も分からないまま、皆腰を抜かして座り込んでいる俺に近づいてくる。


 「「大成功!」」


 一斉に口を揃えて、掛けられたその言葉に俺は安堵と脱力感が纏わりついた。良かった……、本当に良かった。でも、いつから俺が標的に?


 「本当寿命が縮んだ――。柴田の為の仕掛けだった筈だけど?」


 シンシアに問いかけると、悪びれる様子も無く淡々と話し出した。


 「最初はそのつもりだったのよ。だけど、柴田がヴィクトールさんに話を聞いたらしくてバレたのよ。こうなったら、いっそ標的を変えたら続けれそうだと考えると、ショウが適任だったわけよ」


 「これが俺の身に起こっていたと思うと、トラウマだったな。仕掛ける方としては面白かった。皆で話し合ってくれたんだって? ありがとうな」


 そう言って、柴田から差し出された手を握り、俺は立ち上がった。柴田と手を取り合ったのは初めてかもしれない。また、柴田が戻って来た時には、こんな風に色々な事を一緒にするのが楽しみだ。


 「ああ、気をつけてな。たまには、ベネット村に帰って来いよ」


 俺達の初めての試みは無事に身を持って成功した。傍から見ていた人達には、とてもくだらなく思える事が、俺達にとっては大切な良い思い出になったのは言うまでもない。


いつも読んで頂きありがとうございます!


これからの励みになりますので、宜しければ評価・感想等宜しくお願いします!

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