七十四.友情の証?
柴田の想いを聞いた俺と、ミズキは皆が揃う食事の席で頃合いを見いて、柴田に話をさせた。俺から皆に話しても良かったが、こういうのはやはり本人の口から伝えて貰うのが筋というものだろう。
それを聞いた皆は、動揺を隠せないでいた。それもそうだろう、知らぬ土地柄で一人でやって行こうというのだ無理も無い。
「なぁ柴田、いきなり一人でって言うのは難しいかもしれんぞ」
ガイウスは心配そうにそう告げた。ガイウスからしてみれば俺達の教師役として、五年間色々な事を教えてくれた。それぞれの力量を一番近くで分かっているのだろう。
「そうだ、ヴィクトールさんなら団長を務めるくらいだ。畑は違うかもしれないが根本的な、旅のノウハウは冒険者とそう違いないだろう。お願いしてみたらどうだ?」
「俺もそう思ってた。飯食ってから行ってみる」
ガイウスの提案を柴田も思っていたみたいで、食後直ぐに出かけて行った。柴田の姿が見えなくなるとガイウスが俺に話しかけてくる。
「なぁ、どういう風の吹き回しだ? あんなに積極的に動くなんて今まで無かったぞ」
確かにいつも、面倒臭そうにしていた柴田が、ここまで自分で動くという事は、先程も感じたがそれだけ本気なのだという意思が伝わって来る。
「この旅の間で、何か思う事があったんだろ? 最初から冒険者になるの喜んでたみたいだし、本人がそうしたいって言うんだから良いんじゃないか」
「うーん、それはそうなんだが……」
「うちは別に良いと思うけどな、やりたい事が出来たのは良い事だよ」
何をするにも慎重なガイウスらしい、余程柴田の事が気になるようだ。それを払拭させるかのようにメグミンは俺の意見に賛同してくれた。
「分かった。これ以上は、何も言わない。だけど、別れる前に何かしてやりたいな、湿っぽいのはあまり好きじゃない」
「それ良いね! うちも賛成!」
「ガイウスのクセに良い事言うな」
「私も賛成!」
「クセにってなんだ? いつも色々考えているだろ」
俺達の間で、どっと笑いが起った。オルタナの件で、皆少し沈んでいたが、ようやくいつもの感じが戻って来た、そんな感じがした。それで、柴田の送別会はどうしよう? どうせやるなら、サプライズが良いな。
「この事は柴田に内緒で、驚かせたいんだけど、どうかな? 皆何が良いと思う?」
「それは良いな、レイク王国の風習では、贈り物をするのが一般的だが、俺達はもう既に共通のモノを持っている。だから、印象は薄くなるかもしれないな」
贈り物か――――、確かにガイウスが言う通り俺達は『妖精の羽』という琥珀をそれぞれ持っている。旅の無事を込めてお守りとして購入した物だ。俺にとっては、それ以上の意味に感じられる。今までの人生で、他人と共有する初めて形に残るものだ。
「印象に残るものか……、うーん」
そう考えているとメグミンがいきなり立ち上がった。その顔はとても悪い笑顔だった。
「うち、閃いちゃった! 皆で柴田を嵌めようよ! 驚かせたり、怖がらせたりして、最後は嘘でした見たいなやつ」
それって、所謂ドッキリを仕掛けようって事か――――。何それ? めちゃくちゃ面白そう!
「なんだそれは? 気になるな」
「それって、柴田君を騙すって事だよね? 私気乗りしないな~」
ガイウスは興味深々だ。こういうノリは結構好きなタイプだからな。ミズキは何やら罪悪感があるみたいだ。
だが、やってみたい気持ちが俺の中で勝り、ミズキを諭す。
「皆でやるんだからそこまで気にしなくても良いじゃないか。これは、思い出を作る為にするんだし、虐める訳じゃ無いよ」
「う~ん、分かった。あまり過激なのは嫌だよ」
「大丈夫! もう、何をやるか思いついている。俺も前に、似た様な経験があるから――――」
あの時の話を思い出した。故意では無かったと思うけどベネット村に住む事になって、初めて日にガイウスから聞かされた『笛の音』の話だ。色々なタイミングが重なり、俺は恐怖に身動きが取れなかった。結果的に『笛の音』はあれから聞こえなくなったが、あの驚きは忘れる事が出来ない。
「それで、どういう風にするんだ?」
そう、考えていると興味津々なガイウスが催促してきた。俺は、軽く咳払いしながら言葉を続けた。
「基本的には恐怖演出で驚かせようと思う。大まかな流れは、作り話で怖い話を柴田に聞かせて、それを俺達が忠実に再現して、柴田に体験して貰って反応を愉しむ」
「あっ、愉しむって言ってるよショウ。ダメだよそれは、柴田君が可愛そうだよ」
いけない、つい本音が口から出てしまった。ミズキの反感を買っては、この作戦は失敗に終わる。俺の考えではミズキに例の役をやって貰いたいからな。
「いやいや、楽しんで貰うって言おうとしたんだよ。ちょっと噛んだだけだって、ほんとに……」
疑いの眼差しで、俺を見据えるミズキだったが、食堂の扉が大きく開いた事によってその視線はそちらへ注がれた。
「何やら楽しそうな会話が聞こえますね?」
そこに現れたのは、シンシアとハピアだった。勉強が一段落したのだろう、ハピアはやけにぐったりとしている。
「ねぇ、聞いてよシンシア。ショウが――――」
そう言ってミズキは、柴田にドッキリを仕掛ける話をシンシアとハピアに伝えた。俺が面白がっている事も告げ口して、シンシアを自分の味方につけようとしている。
だけど、それは逆効果だと俺は思う。城を抜け出したりする王女が、こんな話を聞いて否定する側に着くなどとあり得ない。案の定、シンシアからは次の言葉が出て来た。
「ミズキ、それはとても良い案じゃないの? 私は賛成よ。むしろ、本気でやるべきよ! 中途半端にやっては、おもし……。いや、柴田が可愛そうよ、今こそ友情が試される時だと思うわ」
若干、本心が見え隠れしているが、熱の籠った説得でミズキも納得してしまったようだ。ミズキの話をテーブルに伏したまま聞いていたハピアも、先程まで曇っていた顔が太陽に照らされたみたいに輝いていた。
「あたしもやりたい! ねぇ、良いでしょ?」
「もちろん! ハピアもたまには息抜きしないとね。あっ、そうだ! ハピアから怖い話を言って貰いましょう。この国に纏わる話という事にして、現地の人から聞いた方が現実味があるわ」
という感じで、シンシアとハピアを加えた俺達六名は熱い議論を繰り返し、柴田の為に? シナリオを描いて行った。
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