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ニートヴィレッジライフ ~夢の理想郷~  作者: 神村涼
2.ウィンティア王国編
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七十三.新たな目的地へ


 あれから数日後に俺達は聖堂に赴いていた。


 オルタナが生前に神聖国と関りがあったのでは? という相談をヴァンフィリップさんに告げた所、彼もそれらしい情報を掴んでいたようだ。


 それを確認する為に、聖堂に行くとガイウスの巡礼の儀式の際に居た司祭の姿は何処にも見当たらなかった。隈なく聖堂内を探索するも手掛かりらしい物は何も残されていなかった。


 俺の推測が正しければ、あの晩に司祭から受け取ったモノは、きっとオルタナが嵌めていた指輪に違いない。オルタナは、魔法が使えなかったと本人が言っていた。という事は、以前より魔鉱を嵌めた道具を使っていたのだろう。


 その道具の通称は『魔鉱具』と呼ばれ、ボダニの街でも見た義肢屋の商品も『魔鉱具』と呼ばれる物らしい。出所がギルド経由か、個人かで合法、違法が分かれているそうだ。


 もちろん、各地に点在しているギルドが、違法魔鉱具を取り締まっている。一般的に滅多な事では確認されないそうだ。


 だが、オルタナが言っていた『ある人物』というのが、魔鉱具を渡したのは明白だ。


 今の所、そのくらいしか分からなかった。


 その頃ハピアは、王城に籠り女王としての所作や、勉強を行っている。実質的な権限は宰相のヴァンフィリップさんが握っているが、ハピアが一人前になるまでだそうだ。


 急に女王の座に就いた事で、覚える事が多く我儘を言っては皆の手を焼いているそうだ。


 俺達は雪が解けたら次の国に行くとシンシアに伝えたが、どうやら付いてこないらしい。


 所作や勉強については、シンシアが面倒を見ているそうだ。同じく国を背負う者として、放っては置けなかったのだろう。本人は妹が出来たみたいと喜んでいた。


 元々俺達に護衛させる為に追い掛けて来た筈だけど、本人がそう言うのならそれで良いのだろう。ルート上は一緒だ、そのうちまた会う事になると思う。


 それはそうと、俺達は今王城の客室でのんびりと、雪解けを待つばかりであった。


 「なあ、ガイウス。次は商業の街だったか?」


 「ああ、街というよりも国自体、商業が盛んだな」


 俺とガイウスの何気ない話に柴田が入って来た。


 「確か、金で買えないモノは無いって話だったよな?」


 「そう言う話だが、どうした? 柴田は何か欲しいモノがあるのか?」


 「へへっ、ちょっとな」


 ヴィスタバリア王国に着くと残るは神聖国か……。カオル君達へのお土産を買うならヴィスタバリア王国を出る前が良さそうだな。神聖国は何やら得体のしれない雰囲気があるから用が済んだら早めに出たいものだ。


 そう考えていると柴田が声を掛けて来た。


 「なあ、この後ミズキを連れて中庭に来てくれないか? お前達に話があるんだ」


 柴田からの誘いとは珍しい、俺は快く承諾した。早速ミズキを探しに部屋を出ると、廊下を歩いているメグミンと出会った。


 「メグミン。一人なのか? ミズキ知らないか?」


 「さっきまで一緒だったよ。何か、調理場の方へ行くとか言ってたよ」


 「分かった! ありがとう」


 軽く挨拶をして、調理場へと行こうとするとメグミンに呼び止められた。


 「ショウ! もし、うちが……。やっぱり何でも無い」


 何か言いたげな表情をしていたけれど、本人が何でも無いと言うのであれば無理に聞き出す事も無いと思い、調理場の方へと急いだ。


 調理場へ来ると、ミズキと料理人が話し込んでいるのが見えた。まだ、調理場に居て良かった。この蟻の巣みたいな王城を探し回るのは骨が折れそうだからな。


 「何してるのミズキ?」


 話しかけるとミズキは、照れくさそうに返事した。


 「あっショウ。折角、いろんな場所に旅してるから料理でも教えて貰おうと思って」


 それで、厨房に来ていたのか。俺としても、それで強敵であるスライムが出現しなくなるのは嬉しい。


 「何か、作れそうなものはあった?」


 「うーん、鳥料理が多いみたいだから、何でも出来そう!」


 確かに鳥料理は幅広く、それでいて美味しい。ただ、気になるのはミズキの自信に満ちた表情だけだった。


 「おっと、この後ミズキ時間ある? 柴田が俺達に話があるそうだ」


 「柴田くんが私達に? なんだろう? 良いよ、レシピも聞いたし行こう」


 厨房を後にした俺達は、呼び出された中庭へと歩き出した。廊下の途中に絵画が飾られている所に差し掛かるとミズキが口を開いた。


 「この絵、私達が今から行く中庭だよ。この一面に広がる花綺麗だよね。残念な事に、もう咲いて無いみたいだけど」


 確かに色豊かな色彩で描かれた絵画は綺麗だった。一際目を引いたのは、黄色いバラの様に描かれた花畑だった。


 そんな、他愛ない話をしながら俺達は、中庭へとたどり着いた。そこは、開けた場所で草木に雪が積もり白い花畑の様になっていた。


 そこに、空を仰ぎながら一人佇んで居るのが見て取れた。


 「柴田、遅くなってごめん。寒かっただろう」


 「いや、良いんだ。この冷たさが、妙に気持ちよかったから」


 それはそうと、話とは何だろう? あまり長くこの場所に居ては、ミズキも寒くて風邪を引いてしまうかもしれない。


 「早速だけど話ってなんだ?」


 柴田は俺達に向かい合い、ゆっくりと腰を曲げた。


 「なんていうか……。思い出したく無いかもしれないが、あの夜ミズキを襲った事を謝らせて欲しい」


 柴田の言う、あの夜とは俺達が最初に世界に来た時の夜に起きた事を言っているのだろう。確かにあれから、バタバタしていてそれ所では無かった。


 でも、これは俺が返答する事では無い。当事者のミズキがどうするのか、ミズキに目配せをした。


 ミズキは俺の外套の裾を握りながら、柴田にこう言った。


 「もう良いよ。あの時は皆、不安に押し潰されそうだったし、今はもう数年一緒に生活してきた仲間でしょ?」


 俺もそう思う、最初はどうであれこうして旅や生活を共に出来る唯一のモノだと思っている。柴田は顔を上げて俺達の顔を確認する様に見た。


 「そう言ってくれて、俺も気が楽になった。最初は、理不尽な運命に振り回されてどうして俺だけ? 何て事を考えていたが、こうして誰かと一緒に何かをするという事は今まで無かった。引き籠りだったからな……」


 「何言っているんだ今更? 俺達はそういう種類の人間が集まっているんだぞ? 皆何かしら問題を抱えているに決まっている」


 そうだよ。と共感する様にミズキも頷いてくれた。


 「それにしてもショウや、カオルは誰よりもやるべき事が分かっていたと思う。あの状況で、直ぐに決断出来る奴はそう多くない筈だ。まるで、物語の主人公の様に――――」


 言葉の端々から中二臭さが漂ってくるから、言われてる俺は凄く恥ずかしいけれど、それが柴田という人なのだろうと、もう知っていた。


 「この旅の間ずっと考えていたんだ。俺は何をしたいのかってさ……。で、やっぱり思うのは冒険者としてやって行きたいって思うんだ」


 「ん? それって、この旅が終わってから?」


 「いや、俺は居心地の良い場所に居続けてしまう弱さがある。だから、俺はこの街に留まる」


 真剣な眼差しで俺達を見据える柴田の表情はとても意志が固そうに見えた。柴田の力量を知っている俺は、冒険者になると言い張る柴田を止めずにはいられなかった。


 「危険な仕事だぞ? 魔獣や盗賊に襲われて死ぬかもしれない。奴隷商人に売り飛ばされて、悲惨な事になるかも――――。それでも、一人残るっていうのか?」


 「ああ、もう決めた事なんだ。自分の力でどこまでやっていけるか試したい。知っている通り、俺はショウ達に比べると弱い。だから、此処に残り騎士達と訓練しながら依頼をこなしていきたい」


 柴田の表情は揺るがず、俺は掛ける言葉を見失ってしまった。それが、本人の意志なら拘束する術を俺は持ち合わせていない。チェキラや軍曹、カオル君達には何も口出ししなかった。なのに、どうして柴田には食い下がったのだろうか――――。自分でも不思議に思った。


 「……わかった。だけど、一つだけ良いか? ベネット村が俺達のここでの故郷だと忘れないで欲しい」


 俺がそう告げると、柴田は大きく頷き返してくれた。


 「ショウ知っているか? この場所には黄色いバラが咲き乱れるらしいぞ。とても、綺麗なんだそうだ」


 「ああ、ここに来る途中ミズキとその話をしていたんだ」


 「いつか見てみたいな」


 そう言い残し、柴田は長い通路の奥へと消えて行った。


 「ショウ、私達も行こう」


 「ああ、そうだな」


 ミズキと寄り添いながら、俺達も歩き出した。全員が同じ道を歩く事は無いとは、思っていたが今まで当たり前だったものが無くなるのは、慣れないな。


 ふと、空を見上げると、どんよりとした空から降り注ぐ白い結晶は、今も降り注いでいた。

 

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