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ニートヴィレッジライフ ~夢の理想郷~  作者: 神村涼
2.ウィンティア王国編
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六十九.ハピアの願い


 「良し! 惜しかったけどあたしの攻撃は当たる! 今度こそ――――」


 もう一度同じ様に、攻撃の構えを取ると前の方からとても嫌な感じがした。


 「この私に傷を……」


 あの人はさっきの一撃を受けてから俯いてブツブツと呟いている。はっきりと顔は分からないけど、あたしを酷く睨んでいる様な感覚に囚われた。


 でも、これはチャンスだ! そう思い再び手元に風の球を造り、あの人に向けて勢い良く放つ。その球は相手の頭目掛けて一直線に飛んでいく。これが当たれば、意識がくらくらして立ち上がれない筈だ。その球があの人の、目の前まで迫った時、あたしは小さく手を握った。


 だけど、その握った手は直ぐに力無く開いてしまった。


 あの人の纏う風が、風の球が当たる瞬間に膨張し、あたしの攻撃をたやすくかき消したのだ。あたしは、繰り返し何度も、何度も、あの人に向けて攻撃を加えた。しかし、全て何事も無かったかのように唯の風へと変わった。


 「私とした事が、あなたを甘く見過ぎていました。このかすり傷は残りはしないでしょうが、私の心に慢心と言う深い傷がついてしまったのは言うまでも有りません」


 「そんな……、もっとあたしに力を頂戴! あの人をやっつけられるだけの力を!」


 あたしの心の中には、誰かが居る。いつも、魔法を使う時に語り掛けてくる。誰かは分からないけど、その声はとても居心地の良いもの。その声を聞くと何でも出来るような気になるけど、今はそれが聞こえない。こんなに……、こんなに大声で話しかけているのに、今は何も返事が来ない。


 こんな、あたしの様子を見ても、あの人の表情は変わらない。ゆっくりとあの人の唇が動く。


 「何やら一人で慌てている素振りを見せてはいますが……、変に長くなっても皆様が凍えてはいけません。これで終わりにしましょう」


 あの人が纏っている大きな乱れた風は、あたしに狙いを定め迫って来た。どうしよう! あたしが造る球じゃ、さっきみたいに飲み込まれて終わっちゃう!


 「ハピア! 避けるんだ!」


 「逃げて! ハピアちゃん!」


 「くそ! 今行くから!」


 「ショウ! 動いてはいけません! これは正式な儀式です! 出て行けばこちらの負けと認める事になります」


 ショウ達の声が後ろの方から聞こえる。シンシア姉ちゃんは言っていた。「この戦いは勝つか負けるかの半分ずつ」って、それなのにあの人との間にはこんなにも差があるの? あたしが負けると爺ちゃん達や、ショウ達も皆いなくなっちゃう。


 あたしは目を瞑った。あたしの願いは、ただ皆と日々を過ごしたいだけ、それだけなのに何でこんな戦いをしているのだろう。別に王女になりたいとか望んではいないのに……。朝起きて、ご飯を食べて、遊んで、昼寝をして、ちょっと悪戯をして、怒られて、笑ったり、したいだけなのに――――。


 『その気持ちを忘れないで……』


 その心地の良い声がはっきりと聞こえると、前方から迫っていた乱れた風は掻き消え、辺りは無風になっていた。辺りに静けさが戻ると同時に、あたしは今まで見た事の無い淡い光に身を包まれていた。


 「あの光の面影は……、もしや、フィオ様?」


 「フィオ様だって?」


 「確かに。まさか、あの娘は本当に――――?」


 僅かに爺ちゃん達の声が聞こえる。爺ちゃんのその言葉は一気に周りの人達に伝染し大きな騒めきになって行った。


 フィオって誰? あたしからは唯の光にしか見えない。でも、この光に抱かれていると、とても懐かしい。


 「お前はあの時――――! 目障りだ! 今更、私の邪魔をするな!」


 オルタナの澄ました表情は、ひきつって、あたしに矢継ぎ早に攻撃を仕掛けて来た。でも、今のあたしは何でも出来そう! 風の膜をオルタナとの間に造り攻撃を簡単に防いでみせた。


 オルタナは動揺と焦りからか、同じ事を何度も繰り返して来た。ああ、あたしもさっきはあんな表情をしていたのかとオルタナをじっと見据える。


 「お前もその目を私に向けるのか! もう儀式など、どうでも良い! 皆殺しにして後で私が事故があったと証言すれば済む話だ」


 オルタナの右手に嵌めた指輪が、怪しく輝く。それに呼応する様に自身も光に包まれ辺り一面その光に飲み込まれた。


 光に目をやられて様子は分からないけど、辺りから色々な叫び声や怒号が聞こえる。


 「なんだ! あれは!」


 「女王陛下は何処に!?」


 「魔獣? いや、化け物だ!」


 次第に目が慣れて来た時、周囲を囲んでいた人々に向かって巨大な蜘蛛が襲い狂っている光景が飛び込んできた。


 歪な形ながらもそれを蜘蛛と分かったのは、脚が八本あり腹部は独特の膨らみを持っていたからだ。ただ、普通と違うのは上半身が人の物だと言う所だ。


 儀式を仕切っていたウィンティア王国のおじさん、ヴァンフィリップさんは声高々に叫んだ。


 「この状況では儀式は続行は出来ません! オルタナ女王陛下の姿も見えない為、皆様方に置かれましては一刻も早く安全な場所へ避難を! 冒険者の方々には避難までの時間を稼いで頂きたい」


 それに呼応する様に、ショウ達があたしの元に駆け寄って来る。


 「元近衛騎士団の名に懸けて私達も助力しますぞ」


 「爺ちゃん……」


 オルタナが連れて来た兵達から解放された爺ちゃん達も来てくれた。宰相のおじさんも、この場に残るみたい。貴族達の避難は兵達に任せているようだ。


 そのおじさんの傍にシンシア姉ちゃんが寄ってきてこう告げる。


 「ショウ達は、かなり腕の立つ冒険者です。時間を稼ぐという話ですが、もしかしたら、アレを倒してしまうかもしれませんよ?」


 「ああ、心得ております。皆もあの光景を見たのだ、非を唱える者はいない。後は、アレを退けるだけで望む形になるでしょう」


 そう言って、おじさんは優しくあたしの頭を撫でてくれた。その目には僅かに、水分が多かったような気がした。

 

いつも読んで頂きありがとうございます!


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