表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ニートヴィレッジライフ ~夢の理想郷~  作者: 神村涼
2.ウィンティア王国編
68/104

六十八.決戦


 翌朝、天気は曇り寒さは変わらないが、吹雪いて無いだけマシだろう。


 俺達はウィンドヘルム城からの迎えの馬車に乗り、山道を上っている所だ。


 この道を上りきると、いよいよ決戦の場。この国の聖地言われる《竜の喉笛》に到着する。


 普段であれば、雪が降り積もり通行する事さえ出来ない道の筈だが、道の脇で等間隔に火の番をしている兵士達が見て取れる。


 この日の為に、昼夜問わず交代しながら焚き続けたのだろう、火の熱で溶けたこの灯りの道標を頼りにどんどん馬車は進んで行く。 


 馬車の中では皆静かに、その時が来るのを待っている。


 「あっ! そうだ!」


 徐にミズキが声を上げたかと思えば、何やらカバンの中を探りだした。その様子を見ていると、見覚えのある物をハピアの首にぶら下げてあげた。


 「ミズキそれって……」


 「そうだよ。私達がお揃いで買った琥珀の『妖精の羽』だよ。昨日渡そうとしたんだけど、雪合戦が盛り上がっちゃったから忘れてた」


 照れくさそうにそう呟くミズキに対し、ハピアは嬉しい表情を浮かべた。


 「ありがと! ミズキ姉ちゃん」


 そう言って今しがた付けて貰った琥珀を眺めて笑顔を振りまいていた。


 昨日ミズキ達が買い物に出かけていたのは、これを買いに行く為だったのかと察しがついた。


 それが皮切りとなって、馬車内は穏やかな空気になった。各々が雑談を始め、これからピクニックでも始まるかのように思えた。


 しばらくして、兵士の掛け声により俺達の乗った馬車は足を止めた。どうやら、目的の場所に到着したらしい馬車から降りる様に指示されるままに外へ出た。


 周りは見渡す限り山脈が連なっており、白い化粧をしていた。振り返ると、王都がとても小さく見えた。


 既に俺たち以外の関係者は揃っているらしく、その中にはオルタナはもちろんの事、謁見の時傍にいた宰相らしき人物の姿もある。


 もちろん関係者全員をここに集めた訳だから、捕らえられていたゴーン村の人達やヴィクトールさんの姿も確認する事が出来た。ハピアの様子を見るに、ヴィクトールさん達の顔には複数の傷が見えるが、どうやら誰かが欠けているという事は無さそうだ。


 「じいちゃん! みんな! 大丈夫?」


 「おおっ! 大丈夫じゃ、皆少し疲れてはいるが問題ない。また、ハピアの元気な姿が見られるとは――――」


 ヴィクトールは手枷を嵌められた腕を目に近づけそう呟いた。


 「感動の対面はこれくらいで宜しいでしょうか? ここは寒くて敵いません、早く終わらせたいのですが?」


 作り物の様に整ったオルタナ唇が動き、横槍を入れて会話の邪魔をする。ハピアは潤んだ瞳を拭いオルタナに対して敵意を向けた。


 それを一瞥するとオルタナは鼻で笑いながらこう続けた。


 「この反逆者達にも今回の成り行きを説明してあります。この娘と私のどちらが正しいのか風の神であるドラゴンに見定めて貰いましょう!」


 この場所には、俺達を除いてもかなりの人数が集まっている。ここで決まった決議は覆る事の無い神託のようなものだ。オルタナはそこまで分かっていて、これだけの人数を集めたのだとすれば、自身は負ける事は無いと確信しているのだろう。だけど、ハピアだって遊んでいた訳じゃ無い!


 「それでは皆様、今回の儀式を取り仕切らせて頂きます。ウィンティア王国の宰相、ヴァンフィリップと申します。今回の決議は我が国の最重要案件である為、風の神であるドラゴンの目下で執り行う事とします」


 曇天の空の元、宰相であるヴァンフィリップの声だけが響き渡る。これは、決議に入る為の前口上なのだろう誰も口出しする事無く静かに聞いている。


 「題材としては、王位継承者として正しい者は誰か? を、決議します。方法は古の方法に則り、当事者同士の決闘によって決まります。なお、この決議によって決まった事象への正当性を証明する為に、第三者による承認を立てます」


 第三者? この場には、当人達の陣営しかいない筈だが? 俺が疑問に思っていると、宰相の後ろにいるオルタナの顔に笑みが見えた。

 

 「此度、偶然にも我が国に滞在しておられた、レイク王国のシンシア王女様に見届けて頂きたいのですが宜しいでしょうか?」


 俺はシンシアの顔を見ると、本人は別に驚く素振りも見せていない。こうなるであろう事は事前に判っていたみたいだ。シンシアは軽く前に出て堂々と言い放った。


 「今しがたご紹介に預かりました。レイク王国のシンシアと申します。此度の申し出謹んでお受けいたします。レイク王国王女の名の下に、どのような決議に対しても正当である証明となりましょう」


 一部の兵達や貴族からは、動揺する声が上がってはいたものの、宰相が手で制して程なく静寂へと戻った。


 なるほど、シンシアはこうなる事が分かっていたから、自分の命に関わる事は無いと断言できたんだな。オルタナが勝利すればレイク王国への内々にして強固な繋がりが出来ると言う訳だ。自身の正当性への絶大な後ろ盾が出来るのだから利用しない手は無いな。

 

 「それでは決議に移りたいと思います。当人同士は広場の中央へ! その他の者は、兵の指示に従って下さい! 風の民の加護のままに――――」


 ヴァンフィリップの呼びかけにより、ハピアとオルタナは中央へ残り、俺達はその周りを囲むように誘導された。まるで、コロッセオを思い出させる並びだ。


 「ハピア頑張れ!」


 俺は去り際に一声掛けた。ハピアは無邪気な表情をこちらへ向けると、直ぐに対面しているオルタナへと目を向けた。


 「この様な幼子を私は手に掛けたくは無いのですが、全て嘘でしたと降参してくれないでしょうか?」


 「そんな事出来ない! あたしがこの国の王女だとか最近知って……。どうしたら良いとかわかんないけど! でも……、爺ちゃんや皆は何も悪いことしてない! これからも皆と一緒に居たいから、あたしは戦う!」


 「ふん……、まあ、良いでしょう。もう、言葉は必要無さそうですね」


 そう言い放った後にハピアに向けて、右手を差し出す。同時に、右手に嵌めている指輪が怪しく光輝くと何処と無く風の流れが変わったように思えた。


 あれだ! 俺は咄嗟に謁見の間での出来事を思い出した。岩盤を削って造り上げた城の壁がバラバラに崩れた光景を。


 「危ない!」


 そう言い掛けたが、ハピアは分かっていたようで自身も両手を前にして防壁を築いた。


 初撃を軽く躱し、片手をオルタナの方へ向ける。驚く事に、オルタナの頬から一筋の赤い液体が顎先まで滴り落ちた。


 オルタナ自身も予想もしていなかったのだろう。彼女の整った表情がみるみる変わり、明らかな敵意を始めてハピアに向けた瞬間だった。

 

いつも読んで頂きありがとうございます!


これからの励みになりますので、宜しければ評価・感想等宜しくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ