六十.再会
シンシア王女へ手紙を送ってしばらく経ったが、まだ返事は届いていなかった。
この間、皆に買った『妖精の羽』のお守りは、大いに喜んでくれた。
柴田は、お守りに纏わる裏事情を話してやると、少年の様に興奮していた。メグミンからは久々のデートの状況を詳しく聞かれたが、手を繋ぐだけで終わったと、軽く流すと呆れた様子だった。
宿屋で寛いでいる俺に同室のガイウスが話しかけてくる。
「なあショウ、このお守りは大事にする。――ありがとう。ところで、何か進展ありそうか?」
進展というと、やはりヴィクトール達の事だろう。未だにシンシアからの返事も無いし、外の雪のせいで様子を見に行く事もままならない。
「それが全く。シンシアからの手紙も届いてないし、如何すればいいか八方塞がりだよ」
両手を挙げながらガイウスに伝えた。ガイウスも、そうかと軽く頷いて地図を眺めだした。
特にする事も無い父親が新聞を広げているみたいな光景だ。ガイウスも何か出来る事は無いかと考えているようだ。
俺達は、宿屋で各々自由に振舞っていた。俺はベッドでゴロゴロとし、柴田は窓の外をぼうっと眺めていた。
ミズキ達の部屋からは終始話声が聞こえる。やけに楽しそうに思える。
よくも、話が途切れる事無くずっと話していられるものだと感心していると、外の廊下からバタバタとした音が俺達の部屋の前で急に止まった。
次の瞬間、ノックも無しに勢い良く開け放たれた扉に目を奪われた。
「大変だ!」
この真冬の中、現れた男は上着を手に持ち、湯気が立った肩は大きく呼吸をしていた。
「何かあったのか? レスター」
「ヴィクトール達の居場所がオルタナ女王にバレたんだ! くそっ! 手紙が間に合わなかったんだ!」
息も絶え絶えに興奮したレスターを落ち着かせるように尋ねる。
「何で分かったんだ? ヴィクトール達は今何処に?」
「今、城へと続くメイン通りを兵達に囲まれて連れて行かれてる! 如何したら良いんだ! 兄が……殺されてしまう!」
頭を大きく左右に振り、ちょっとしたパニックになっているレスターを放って状況を確認しに行く事は難しい。
「ガイウス! ちょっと見に行ってくるから、レスターを頼む」
「わかった。無理はするなよ」
ガイウスの助言を聞き終わる前に、俺は目的の場所へと駆け出して行った。
宿屋を飛び出し、メイン通りに多くの人だかりが出来ている光景が飛び込んできた。
人の波を押し、どうにか前列へと抜け出せた。大勢の兵士に囲まれて大きな檻を引く馬車が目に見えた。
その檻の中には、ゴーン村にいた人達の見知った顔が見て取れた。
ハピアはどこだ? 目を凝らしながら、檻の中を観察するが何処にも見当たら無い。その中で、ヴィクトールと俺は目が合った。
こちらから声を掛ける事は出来ない! もし、そんな事をしたら、あの大勢の兵士達は反逆者達の仲間と思い、俺を拘束してくるに違いない。
俺が捕まれば、ミズキ達にも迷惑を掛ける事になるだろう。
自然と、手に握りこぶしを作り、歯に力が籠る。じっと、ヴィクトールと目を合わせていると突然ヴィクトールが立ち上がった。
「私は近衛騎士団団長ヴィクトールだ! 先王の幼い頃より近衛騎士団の団長を務めていた! この忠誠心は今も昔も変わらぬ!」
黙れ! うるさい! と、周辺の兵達が槍の柄でヴィクトールを強打する。ヴィクトールの口には血が滲むのが見て取れた。
団長を守ろうと近衛騎士団員が必死に抵抗する。その間に、ヴィクトールは口元の血を拭い続きを始める。真っ直ぐに俺を見据えながら。
「我々は偽の王に仕えるつもりは毛頭無い! 本物の王は友の元へ駆け助けを求めている事だろう! 我らの王に風の民の加護がある事を――」
四方八方から突き続けられ、とうとう気絶したのか声は途中で聞えなくなっていしまった。
ヴィクトール達を乗せた馬車は城へ吸い込まれ見えなくなった。野次馬の人々は、狂人の戯言だと思っていたに違いない騒動が終わるとみると、徐々に日常へと戻って行った。
残った俺の傍には、後から来たであろうミズキやメグミン、柴田が揃っていた。
「それでどうすんだ? あのおっさん達を助けに城に乗り込むか?」
柴田が少し興奮気味に、俺に告げてくるが首を横に振り、ヴィクトールの言葉を思い返す。
友の元に助けを求めて? と言う事は、ハピアは逃げだせたのか? ヴィクトールは俺に気付き、俺にしか分ら無いような表現をしてハピアを託そうとしたのでは無いか?
「ハピアがこの街にいるような気がする。いや、きっといる! 皆で手分けして探そう」
「どうして分かるの?」
ミズキが不思議そうに話しかけてくるのを、俺は当然といった感じで切り返す。
「友達だからだよ」
ミズキは呆気に取られながらも優しい笑顔で返してくれた。
「柴田はレスターにこの事を伝えてくれ、レスターの方がこの街には詳しいだろうからな。ミズキとメグミンは商店街の人通りの多い所を頼む」
「ショウは?」
「思い当たる所があるんだ」
三人にそう告げて、俺は真っ直ぐにギルドがある地区へと足を運んだ。
筋骨隆々の人達が往来を行き来する様を追いかけては話しかけられずに、右往左往している見覚えのある翠色の髪をした少女がいた。
その少女は、俺に目が留まると涙を浮かべて駆け寄ってきた。
「ショウ!」
「ハピア無事だったんだな!」
俺は、ハピアをぎゅっと抱きしめその余韻をゆっくりと噛み締めた。
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