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ニートヴィレッジライフ ~夢の理想郷~  作者: 神村涼
2.ウィンティア王国編
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五十九.贈り物


 返事が届くまでの間、俺達は自由に過ごす事にした。


 ボダニの街からの旅は、移動ばかりで特にゆっくりする暇も無かったからな。


 今日は、久しぶりにミズキと二人で過ごす事にしていた。


 全部を見た訳じゃ無いけど、シンシアとの手紙のやり取りで、なにやら不満を綴っている事が想像できた。


 確かに王都でミズキと付き合う様になったけど、特別恋人っぽい事をしたのはそれっきりだったと思う。


 しかし、こういうのは雰囲気も大事だし、何より長年独り身だった俺にはどうして良いか分からない。


 以前なら、インターネットで『彼女としたい事』と、検索すれば幾つもの情報が得られただろう。


 そんな事を考えていると、俺の所に現れたのはメグミンだ。


 「もう、ミズキが待ってるよ! いつまで寝てんの!」


 俺の布団をはぎ取りながら、早く行く様に促してくる。ガイウスや柴田は、俺のそんな様子に平常運転だと気にもしない素振りだった。


 慌てて起き上がり、顔を洗うと身支度を整えて、宿屋の階段を駆け下り、玄関先へと滑り込んだ。


 「ごめん! 待たせて!」


 ミズキの姿を確認するや否や、お辞儀をした。最敬礼より深く、指金の様な姿勢で。


 「もう知らない!」


 「本当にごめん!」


 「――なんて嘘だよ。ショウが朝弱いの知ってるから」


 怒った素振りを掌を返し、はにかむ笑顔を向けてくるミズキに一瞬呆気に取られてしまった。


 「ねぇ、それより早く行こう!」


 「ああ」


 俺達は久しぶりに二人で街の散策へと出掛けた。二人きりで出歩くのはボダニの街以来だろうか、他の皆にも気を遣わせてしまっている分、今日は何か皆にプレゼントをしようとミズキには伝えている。


 早速、この街の商店街へ赴いた。


 ミズキは、俺とガイウスが居ない間に、メグミン達と買い出ししていたので、それなりに道を覚えていた。


 両脇に立ち並ぶ石造りの街並みは、歴史から来るのだろうか分からないが、圧迫感を覚える。


 商店街に並ぶ店は、装飾品店が多く立ち並び、その次に鍛冶屋、あとボダニの街でも見た義足や義手といった義肢装具屋が目に付いた。


 「皆どんな物が喜んでくれるかな?」


 ミズキが辺りを見回しながら俺に尋ねて来た。


 「やっぱり、この街に来た証として、特産品の鉱石とかが良いんじゃないか」


 「あっ! 良いね。今更だけど皆でお揃いの鉱石なんて良いかも」


 ミズキも気に入ったようだ。辺りの良さそうな装飾品店を探し、俺の手を引いて入って行く。


 「いらっしゃいませ」


 店員の女性が元気良く挨拶してくれた。店内は色彩鮮やかに光り輝いていた。


  俺達が店内をきょろきょろ見回していると、見かねた店員が話しかけてきた。


 「何かお探しですか? 彼女へのプレゼントですか?」


 はにかみながら俺に肘を当てながら言ってくる店員は、なんだか楽しそうだ。だけど、今回はそうでは無く皆へのプレゼントを買いに来たのだ。


 「旅の仲間にプレゼントを渡したいんだ。こう……、お守りみたいなものが良いかも」


 「ああ、それでしたら良い物がありますよ。こちらなんかどうでしょう?」

 店員に差し出された鉱石は、琥珀の中に鳥の羽毛の様な物が入っていた。


 「すごーい! 綺麗」


 ミズキの反応は上々だ。きっと、皆も喜んでくれるだろう。


 「これは何の羽なんです?」


 「この国の先祖の羽、通称『妖精の羽』とこの辺りでは呼んでいます」


 店員曰く、遠い昔はこの辺りは森林に覆われており、先祖の風の民は背に羽を持ち、小鳥達の様に自由に空を駆け回っていたそうだ。


 それが付近の活火山の噴火により、たちまち大地は隆起し、草木は死に絶えると共に風の民は風の声を聴く事が出来無くなっていった。


 それから長い年月が経ち、人々の生活も変わっていった。


 採掘現場でこの琥珀が見つかり、それを手にした作業員は事故に遭う事も無く天命を全うしたのだとか。


 それから、鉱員の間では先祖の加護が与えられる石と盛り上がり、お守りにも用いられるようだ。


 遠い昔の名残が、琥珀となって今俺達の目の前にあるのは、何ともロマンを感じる話だ。柴田あたりが大喜びしそうなので帰ったら話してやろう。


 「いい話だな、これにするかミズキ?」


 「うん!」


 店員に人数分の琥珀を簡単に梱包して貰い、俺達は店を後にした。


 両手に抱えて嬉しそうに俺の隣を歩くミズキを横目に、何か大事な事を忘れているような気がする。


 そうだ! ミズキとの仲をより親密になる事も目的の一つだった。


 ミズキの手をそっと握り、驚いた様子だったが、優しく握り返してくれた。


 繋がった俺達の影は、どこまで伸びても切れる事は無かった。


 


 

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