五十八.手紙
窓から白焼けた光が差し込んできた。
「ああ、もう朝が来てしまったな」
一通り話し終えたレスターは軽く背伸びをしながら言った。
「それでハピア……。あの子が王女だという事で良いのか?」
「そうだ」
ヴィクトールさんが、以前この国の近衛騎士団団長でゴーン村に居た人達は皆その団員という事か。
ガイウスが徐に口を開いた。
「ウィンティア王国で、突然王が崩御されたとレイク王国まで届いたが、そういう事情があったのか」
「ガイウスは知っていたのか?」
「ああ、確かショウ達が来てから一年経った頃だったな」
ということは、その女もといオルタナ女王がこの国の王と出逢ったのが、俺達の転移する前の出来事だろう。
そして、王妃が事故に遭ったのが俺達が転移してから一年くらい経った時の様だ、その後に王が亡くなったのだ。
ハピアが王女だとすれば、もう少しで五歳と言っていたから逆算してもほぼ間違いはない。
そうだ! そう言う事なら、俺が聖堂で聞いた話はオルタナ王女がハピアを亡き者にして、完全に王家の血を絶やそうという話では無いのか?
「レスターさんに聞いて欲しい事があります」
俺は、聖堂で司祭と密会しているオルタナ王女との会話をレスターさんに告げた。
「あの女が神聖国と関りが――? だが、ある程度の場所まで把握していそうだ! 直ぐにでも伝鳥で知らせないといけない」
そう言って自宅を颯爽と飛び出して行ってしまった。
俺達は取り残され待っていても仕方が無いので一旦宿で休む事にした。
柴田とメグミンはもう目が開いているのかどうか怪しいしな。
「ねぇ、ショウはこれからどうするの?」
宿へ戻る道すがら、ミズキが尋ねて来る。
どうする……か、ハピアとは友達だし、知り合いが危険な目に遭うかもしれないのを見て見ぬ振りは出来ない。
だけど、国のトップを相手にどうしろと言うのか? 俺達は冒険者として各国を股にかけているが、元々レイク王国の領民で、ガイウスもそうだ。
変に対峙すれば、レイク王国とウィンティア王国とで争いになるのではないか? それに、ウィンティア王国と神聖国が繋がっているのならば、話はさらにややこしくなる。
正当な後継者である王女を意のままに操り、反乱の期を伺っていると汚名を注がれているのは、近衛騎士団。
本来であれば、王女が生きていると判れば喜んで臣下達や民衆は喜んで迎え入れそうなものだ。
何かオルタナがしているのか?
「……ねぇ、ねぇ! 聞いてる?」
「ああ、ごめん。ちょっと考え事してた。予想以上に大きな話になって来たから如何して良いか分からない」
「そうだね、シンシア王女にも迷惑掛かっちゃうかもしれないしね」
「それだよ、ミズキ! 王家の問題は王家に聞いてみよう。何か良い案があるかもしれない」
ミズキはシンシア王女と定期的にやり取りしていた筈だ。
宿に戻りミズキ達の部屋で手紙を認める。
ミズキは手紙セットみたいな物を取り出し机に置いて準備を始めた。
ボダニの国境を越えた辺りで、迷子のハピアと出逢い村に連れて行った事、そこで逢った人達の事、前王の崩御についてと、聖堂での密会の事を文章と絵を用いながら分かりやすく書いていた。
こちらの考えが、相手にちゃんと伝わるか不安な所はあるけど返事を待つしかなさそうだ。
こういう時手紙と一緒に電話で話しながらだとより正確に伝える事が出来るなと思える。
ミズキが書き終えたものを確認して俺は、自室へと戻ろうとした時、うっかり机にぶつかりミズキの手紙セットが床へ落ちてしまった。
軽くごめんと謝りながら、落ちたものを拾おうと屈むと、その中にはシンシアから送られて来た手紙もあり、つい目に入ってしまった。
『親愛なるミズキへ、ショウさんがまだ一度しか口づけをしてくれない事について嘆いているミズキを想像すると、可愛く思えます。それからどうですか? ヘタレなショウさんには、ミズキが女性の――』
俺が何かしていると気付いたミズキは眼にも止まらぬ速さで、手紙を奪い取り大きく俺を突き飛ばした。
拍子に俺は部屋の壁にぶつかり、痛い思いをしたのだった。
ミズキの顔は赤く染まり、とても恥ずかしそうだ。
「ショウ大丈夫?」
メグミンが心配して声を掛けてくれる。
「いつもの事だよ」
苦笑いをしながらそう言って、頭を手で撫で起き上がった。
最初に逢った時に比べたらミズキも大分変った。人見知りはまだあるけど、仲間内ではこんなにも暴力的……、ではなく活発になって良かった。
その後手紙を出し終え、返事が返ってくるのを待つことにした。