五十五.情報収集
あの夜からぐっすりと眠れる日は無かったが、それも今日まで、ようやくこの聖堂から解放される。
七日間のガイウスの儀式が終わり、この王都でする事はほぼ終わった。
いつもなら次の目的地に向けて準備して出発するのだけど、生憎積雪の為、街道は通行止めらしい。
まだしばらくはウィンドヘルムに足止めになりそうだ。
それよりも、あの夜聞いた内容が頭から離れない、早速宿屋に戻って皆に相談しよう。
ガイウスを連れて、重厚な面持ちの街並みを風を切るように宿屋へと向かって進んだ。
宿屋へ着くと玄関先でミズキが待っていてくれた。
「おかえりなさい!」
「ただいま」
満面の笑みで出迎えてくれるミズキを見ているとつい抱きしめたくなるけど、今はそれ所では無い。
「他の皆は? 部屋で休んでる?」
「いるよ……」
どうにも歯切れが悪いミズキに違和感を覚えるが、居るなら良いかと思いミズキも連れて柴田が居る部屋へと向かった。
扉を開けて飛び込んできた光景は、予想もしていない光景だった。
ベットで横たわる柴田に、覆いかぶさるようにメグミンが身体を寄せている所だった。
メグミンと視線が合い、俺は頭の整理が追い付かず再び扉を閉めた。
「ちょっと~! 何で閉めるの!」
その発声と共に扉が開け放たれた。
「えっ? 邪魔しちゃったかと思って……」
俺はガイウスやミズキに目線を配り、お互いに確認し合うと二人共頷き返してくれた。
「違うから! ミズキは、うちと一緒に居たんだから理由分ってるよね?」
その言葉の向けられたミズキに顔を向けると、照れとごめんねが合わさった様な顔をしていて、とても可愛く見えた。
「それで? 何してたんだ?」
ガイウスが直球に尋ねると、メグミンはバツが悪そうに答えだした。
どうやら、俺達がいない間に買い出しをしてくれていたみたいで、女手じゃ重い物を運ぶ事が出来無いから柴田に手伝って貰ったそうだ。
柴田は最初断って引き籠ろうとしてたらしい。悪女メグミンが柴田の純情な男心をくすぐる様な事を一つしてあげるとの約束をして、やる気になった柴田を馬車馬のように酷使したそうだ。
よって、腰を痛めて伏している柴田を介抱していた瞬間に俺達が帰って来たという事だ。
メグミンはたまに目を覆いたくなる事を平気でやってくるから、下心が勝るのは仕方が無い。だけど、本人に他意は無いと思うぞ柴田よ。
「成程な、どの辺が痛むんだ?」
話を静かに聞いていたガイウスが、柴田の腰に手を当てながら優しく尋ねているが、それをやるのはお前では無いとだけ心の中で叫んでおこう。
「もう……、治った」
悲しいくらい聞こえない声で、柴田がそう呟いた。
まあ、再開の挨拶はこれくらいにして、丁度皆集まっている事だし、ここで俺の聞いた話を伝えておこう。
当然、俺が立ち聞きに至った経緯から話すとミズキに怒られそうなので掻い摘んで説明した。
最初に口を開いたのはガイウスだった。
「オルタナと言っていたんだな? アイザック様から聞いた事があるから女王なのは間違い無いだろう」
「神聖国は怪しいって言うような事を、ハインドさんが言っていたような気がする」
確かにミズキが言うようにハインドが、別れ際にそんな事を言っていたと思う。何やらきな臭い感じがするのは間違いは無い。
「ヴィクトールさんが、うちらの知っている人かも分からないんじゃ何とも言えないねー」
「なぁ、こういう時はギルドで情報収集って言うのが、RPGの鉄板じゃないのか?」
「そうだな、丁度腹も減って来た事だし、柴田の案を採用して飯でも食べながら情報収集しよう」
そう言う訳で、ギルドに赴き適当に料理を注文した。
予めこの国の事に詳しそうな人を受付で尋ねておいた。
名前はレスターといって、このギルド内では古参で、いつも酒場で酒を飲みながら過ごしているそうだ。
食事を終えた俺達は、隅の方で一人酒を嗜むレスターらしい人物に声を掛ける。
「なんだ? お前達は?」
「受付でこの国の事に詳しいと聞いたのですが、あなたがレスターさん?」
彼は如何にもといった具合で、俺達を席に着かせ同時に俺達も軽く自己紹介を行った。
見てくれはただの飲んだくれのおっさんと言った感じだ。
「ショウとか言ったか? お前は嗜むのか? まぁ、それはどうでも良いんだが、俺はここで一日中酒を飲んでいる事が多い。それで気付いた事があるんだ、自分で頼んだ酒より振舞って貰った物の方が格別に美味い酒だとな」
回りくどい男だな、要は酒を奢らないと何も教えないと言っているのか? まあ、聞きたい事に比べれば安い買い物かもしれない。
半ば呆れた感じで店員を呼び止め、酒を注文しレスターへ振舞った。
今夜は永くなりそうだと思った瞬間でもあった。