五十.ゴーン村へ
俺達は今、馬車に揺らている。
荒野が広がり、遠くに見える山脈は、東西へと伸びており次第に朧げに消えて行った。
レイク王国を見た後だと、寂れた国なのだと感じられた。
しかし、ガイウス先生が言うには、ウィンティア王国では鉱脈が豊富にあり、鉱石の採掘が行われ、鉱石の加工又は、原石の輸出で莫大な資金を蓄えているらしい。
ハインドの身に着けていた義手が、精巧に造られているのを思い返すと技術的にも優れている事が分かる。
ただ、風土の関係から食物が中々育たないので、それらは輸入する事で賄っている国情だそうだ。
そんな所まで知った所で、俺にはどうしようもない。
それよりも、ハピアを故郷に連れ帰る事が今は重要だった。
馬車が通れる道を迂回しながら進んだ為か、魔獣の群れに何度か襲われるも、皆慣れた動作で迎撃する事が出来た。
あの柴田でさえ、場数を踏む毎に一端の兵士並みの動きをするようになったのは驚きだ。
伊達に一人部屋で、剣を握って佇んで居た訳では無かったという事だろうか。
いつの間にか、日中でも肌寒い日が続いていた。夜には厚着をして床に入るのが当たり前になっている。
ベネット村を出た時には、まだ春先の時期だったと思う。摺り足で忍び寄ってくる季節の変わり目に長く旅をして来たのだなと感じさせられていた。
「あ! この辺り見覚えがある! そこを曲がったら村があるはずだよ」
ハピアの言うとおりに俺達は馬車を進ませると、確かに村が見えてきた。
突然、ハピアは馬車から飛び降り、自身の村へと走り去って行った。
俺達は、一瞬驚いたが直ぐに微笑ましい気持ちになった。
やはり、自分の家が落ち着くよなと、村の入り口にある馬車置き場へと預けて、俺達もぞろぞろと村の中に入ろうとすると、見張りの男に止められた。
「そこで止まれ! この村に何しに来た?」
ただの村人の割には、威圧感が強く、制止する動作に関しては国境を守る門兵を思い出させた。
「これ! やめぬか! この方達は、ハピアの恩人らしい」
奥から初老の男性が村人を制止しながら歩み寄ってきた。
その隣ではハピアが手を引いていた。察するにこの初老の人が、ヴィクトールさんで間違いなさそうだ。
「俺は冒険者のショウと言います。手紙無事に届きましたか?」
「手紙届きましたぞ、どれだけこの日を待ちわびた事か――」
ハピアの頭をガラス玉でも触っているかのように手を乗せ優しく撫でている。
「ハピアちゃん良かったね」
ミズキがそう言うと、頭を大きく縦に振り眩しいくらいの笑顔で答えてくれた。
「さぁ、立ち話も良いですが、まずはワシ達の家へ上がってくだされ」
俺達は案内されるまま村の中に入った。
さっと、村の中に目をやると方々から視線を感じられる。よほど、よそ者が来るのが珍しいのだろうかと考えた。
村の中には、三十人近い人を確認できたが、ハピアちゃんと同年代の子供は見当たらない、ちゃんと女性もいるのに珍しい事があるものだなと思った。
家の中に入った俺達に、人数分の飲み物で取り合えず旅の疲れを労ってくれた。
家には鍛冶場らしい物が備わっており、それを眺めているとヴィクトールさんから声が掛かった。
「珍しいですかな?」
「そうですね。仕事ですか?」
「趣味が仕事になったみたいなものよ。鉱石を加工してそれを他所の村や街に売った資金で、この村は成り立っておる」
そういえば、俺達の剣もベネット村から旅立った時から変えていない事を思い出した。旅の間中、ガイウスの剣の手入れ方法を参考に見様見真似でやっていたが、そろそろ限界だろう。
ガイウスのはアイザック卿からの贈り物で、名工が拵えた一級品なのだとか。
家の壁に掛けられている剣や防具を見てもしかしたら、造れるのかもしれないと思い聞いてみる事にした。
「剣とかも造れたりするんですか?」
俺は自分の剣をヴィクトールさんに見せた。
「かなり使い込んでおるな。そういえばハピアの礼をまだ言っておらんかった……。良し! 剣を拵えてやろう、これが礼じゃ」
「だったら、俺のも頼むよ! 剣の名前も考えてるんだ」
柴田らしい発言だった。どんな、名前なのかと聞きたくなったが、恥ずかしいのでやめた。
そんな柴田の願いもすんなりと受け入れてくれたヴィクトールさんだった。
他にはいないか? と、訪ねてくれるがガイウスは大事な剣があるし、ミズキは使わない。
メグミンは、そもそも興味が無い様で、消耗品だからと安いナイフを使っている。
「無理言います。どの位掛かりそうですか?」
「三~四日と言う所かのう。それまでの間、村の空き家を自由に使ってくれて構わんよ」
それから、案内された空き家へ荷物を運び込み、出来上がりを心待ちにしながら一旦ハピアとは別れた。
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