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五.話合い


 コメットさんは、とりあえず今晩はうちで休みなさいな、と言ってくれた。


 窓から外を見ると辺りはすっかり暗くなって、村の住人らしき人達が食堂に雪崩れ込むように入ってくる。


 コメットさんは仕事の邪魔だと言わんばかりに、俺達は二階の客間へと案内された。


 去り際にカオル君が、貴族では無いと言う事だけは理解して貰った。食事代と宿代は明日コメットさんの手伝いをする方向で話合いをした。


食事に関しては、好意で出してくれたのだから大目に見てくれても良さそうなものだが、コメットさんは筋を通すタイプのようだ。


 その後俺達は、男女で別々の部屋に案内され、部屋には寝具であろう毛布と隅の方にはたらいの形をした木製の桶に水が張ってある、どうやらこれがこの世界でのお風呂のようだ。


 俺達の服は、部屋に入った直後コメットさんに剥ぎ取られた。明日の朝洗濯した後で返してくれるそうだ。


 おかげさまで、五人の男達はみたくもないものを見る羽目になった。


 ずっとそのままというわけではなく、かわりにウール製で繕ったワンピースのような服と皮製のズボンを用意してくれた。


 まあ、この状況は女性陣も同じだろうと妄想を膨らませると、自然と鼻の下が伸びる。


 冗談はさておき、俺達は寝る前に現状の確認と今後の行動について話し合いをする事になっている。


 部屋の扉がノックされるのを聞いて俺達は入ってくるよう促す。


 ナッチャンを先頭に三人とも俺達の部屋へ入ってきた瞬間ずっと嗅いでいたい甘い香りが漂った。俺達は談笑を止め、息を飲んだ。


 ナッチャンは長い髪を器用に捻り後頭部あたりで団子状にしている、若干湿った髪が妖艶さを際立たせていてすばらしい、極めつけは、長めのウール製の服が身体のラインを露にしているところだ。


 大人っぽい雰囲気のナッチャンとは対照的に、ミズキは元々顔を隠すように髪を垂らしていた訳だが、水気を含むことによって、ホラー要素を発揮していた。


 正直ナッチャンの背後霊に見える。格好が恥ずかしいのか少し頬を染めているのが何とも可愛らしい。


 最後に、メグミンだがナッチャンに対抗して堂々と胸を張っているが、残念ながら胸の膨らみが見当たらない……少し残念だが、これはこれで悪くない。


 男性陣が皆で呆けているとメグミンが声を掛けてきた。


 「何をみてるの? うちに見とれちゃった?」


 その言葉に俺はつい、軽く嘲笑するかのように鼻で笑ってしまった。


 その瞬間、俺の側にゆっくり来たメグミンは笑顔で、おもむろに二の腕を抓ってきたのだ。


 俺は激痛に顔を歪めながらメグミンに謝り、話しを進めるようカオル君に合図する。


 軽く咳払いをしながらカオル君は話始めた。


 「まずは待機組の皆を此処に連れてこようと思うんだ。待機組は飲まず食わずで、今日まで過ごしているかもしれない。また此処からあの場所まで行こうとすれば二日程度掛かるだろうから急いだほうが良い」


 「賛成であります。飲まず食わずでは3日程度が限界であります。水が飲めれば多少希望がありますが……」


 軍曹も言うように結構切羽詰った状況に違いない。


 「あんな奴ら放っとけば良いじゃないか、助ける義理なんてないだろ」


 「確かにそうかもしれない。柴田君の言うように見捨てるというのも一つの案だよ。でもね、僕達は協力し合って此処までこれたじゃないか。この何処とも分からない場所では、同郷の者達は多い方が僕は都合が良いと思っている」


 「そうっスよ。俺らは、もうダチじゃないっスか」


 カオル君に続いて、チェキラが良いことを言っている気がするが、軽くてあまり心に届かないのが残念だ。


 柴田は不満そうに俯くのを尻目にカオル君は話を続ける。


 「じゃあ、話を戻すよ。待機組を助ける為に、ここの領主であるアイザックさんに助けを求めようと思う」


 「そうね~。何か村の為に手伝いをすれば家をくれるってコメットさん言っていたよね~」


 ナッチャンは先ほどの話を思い出しながら言う。


 ナッチャンの言う通り、なんでも労働力か生産物を領主へ献上すれば、領民としてこの土地に住めるそうだ。

 

 俺達の生活水準は現在、野晒しの浮浪者。原始人にも劣る状況だ。


まずは、家と食べ物を確保しなければならない。食べ物に関しては労働力と引き換えに取引出来るのはコメットさんとの一件で確認済みだ。衣服も当面この方法で凌げるだろう。


 生産物が作れるようになれば物々交換で生活を豊かにする事も可能になる。


 一応この国にも貨幣という概念があるそうだが、地方ではほとんど物々交換で行われているらしい。


 とにかく、労働するにしても生産物を作るにせよ人手が欲しいので、カオル君の判断は悪くないと思う。


俺達はニートや引きこもりの集団だから、待機組の中には出歩いたり、人と話すのが難しかったりする人達もいるだろう、何も重労働だけが労働ではない。


 このウール製の服のように編み物だってある。内職というやつだ。まあ、それでもやりたがらない人達もいるだろうが……堂々巡りになりそうなのでこれ以上今は考えない様にする。こういうのはカオル君に任せよう。


カオル君の言った選択肢以外出来る事が無いのは、皆もわかっているのか頷くばかりだ。


 「あと、フルネームは禁止で下の名前か、あだ名で名乗る事にした方が良いと思う」


 付け足すように俺は伝える。コメットさん曰く、貴族で無い者が貴族であると名乗るのはこの国では重罪らしい。


 郷に行っては郷に従うのが波風立たなくて良い。現実世界での俺のポリシーだ。


 現実世界の争いごとは、勝っても負けても労力の割には、得が無いように思えるからだ。


 なんて事を考えているとカオル君が手を叩いた。


 「じゃあ、話を整理すると明日はコメットさんを手伝う班と領主様に会いに行く班の二つに分けよう。女性陣は残って男手が必要かもしれないから、軍曹とチェキラを置いていくよ」


 「まじっスか? 俺も領主って気になるんで会いに行きたいんっスけど」


 チェキラは来たそうに反論するが、初対面の人には第一印象はすごく大事だと思う。


 面接でも皆似たような格好で受けるのに、こんなビート刻みそうなやつが、ドアから入ってきたら面接官もびっくりするだろう。


 近年では認められる所も増えているかもしれないが、ここは遠慮してもらおう。カオル君もそう思って除外したのが良くわかる。


 「了解であります!」


 敬礼のポーズをとる軍曹に続けて、しぶしぶチェキラも真似している。


 「めんどくせぇ。俺は残るお前らに決められる筋合いはない」


 話し合いも終わって解散の雰囲気だったのに、駄々をこねる困った柴田君だ。


 柴田が残るのに動揺を隠せないミズキはナッチャンの陰に隠れてしまった。相当柴田と一緒にはいたくないのだろう。


 当然か、未遂だったとはいえ柴田に襲われたのは、まだ昨日の事だからなと思い返す。


 「仕方ないな、柴田君は残って良いよ」


 埒があかないとみるやカオル君はそういうとナッチャンの方へ目配せをする。それにナッチャンは気づくと軽く頷いた。


 柴田がまた変な行動をしないよう、ナッチャンに注意を促したようだ。


 こうして話し合いが、終わるとミズキが眠たそうに目を擦り始めた。そこで、俺達は寝る事にした。


 女性陣は部屋へ戻り、俺達は各々毛布へ身を委ねた。


 たった一日しか野宿をしていないが、雨風が凌げるだけで、こんなにも心が安らいだ事は普段の生活において無い。


 現実世界では当たり前のように家があり食事も出来ていた。そういう環境をくれていた両親には感謝しないといけないな。


 世の中には日常的に公園等でキャンプをしている方々もいるので、こういう状況下ではすごく頼りがいがあるのではないだろうか、などとくだらない事を考えていた。


 こんな状況にならなければ、考える事すらしないでゲームや映画等で一日を過ごしていただろう。


 しかし、これからはやる事と問題は山積みだ。とにかく、明日俺はカオル君と領主の家へと向かう予定になっている。


 カオル君任せになっている面が大きいが、今の俺に何が出来るだろうか? このまま川を流れる落ち葉のように身を任せるしか今は出来ないのだ。


 部屋に充満していた何ともいえない女性の甘い香りが、段々と消えていくのを寂しく感じながらいつの間にか眠りについていた。

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