四十九.英雄の帰還
あれから数日ではなく、二週間くらい経った。
俺達は、数日のつもりで待っていたから、一週間を過ぎた辺りからガイウスの身に何か起ったのではと、不安が過った。
もしかして、ハインド達を逃がした事がバレて、ガイウスに処罰を受けているのでは?
そう思い、俺は門兵の所に行き門の向こう側、ガイウスがいる方で何か起ってないか聞きに行ったのだが、特に変わりは無いとの事だった。
そもそも、俺がガイウスの連れだという事は、門を通る時に分かって居る筈だから、作戦がバレていた場合俺を拘束しに来るだろう。
そう考えると、ただガルバ卿の話が長引いて抜け出せないのだという結論に至った。
その間、俺達は暇なので、宿代を稼ぐ為ギルドで簡単な依頼をこなす班と、旅に必要な物資を揃える班とに分かれて行動する事にした。
班分けは、冒険者っぽい事が好きな柴田と、臨機応変に対応できるメグミンを依頼班にして、残りの俺達は物資調達班だ。
俺とミズキとハピアが並んで買い物している風景は、周りから見ると夫婦の様に見えていたかもしれない。
実際、保存食を買いに行った時に店主から、奥さんと呼ばれてミズキはどこか嬉し恥ずかしい仕草をしていた。
まあ、セールストークに浮かれて大量に購入したのは言うまでも無いだろう。
柴田達に精を付けて貰いたいという理由で大量に買った事にしておこう。
ハピアの事で少し分かった事があった。
俺達に出会う前の記憶は、当日ヴィクトールさんと喧嘩し、村から少し離れた場所で、泣き疲れて寝てしまったそうだ。
それから、目が覚めるといつの間にかこの街に居たらしい。
この部分は相変わらず謎のままだけど、喧嘩した理由だけ分かった。
村の外に出たい意志を示したハピアとそれを許さないヴィクトールさんで大喧嘩になったそうだ。
俺がヴィクトールさんの立場なら同じ意見だ。
こんな幼く可愛い子が、魔獣や盗賊が多数出没する村の外に出るなんて反対だ。
村の中に居ても見張りや、衛兵より強い相手だと侵入される事もあるが、村や街の外よりかは大分安全だ。
今は、念願の外の街に出られた事で、ハピア自身は上機嫌だ。
それがガイウスの戻ってくるまでの俺達の行動だった。
彼は今日帰ってきたのだ。
突然、俺と柴田が取っている部屋の扉が大きな音を立てて開け放たれた。
その音に驚き視線を送ると、ガイウスの顔がまるで鬼の形相ではないか。
誰に聞かなくても怒っている事は、容易に想像がつく。
「俺の言いたい事がわかるか?」
「あー、何だろう分からない」
心当たりがあるけど、ここは相手の言い分を聞こう。無理に藪蛇になったらいけない。
「俺は検問を通る時に門兵にニヤニヤされながら、夜の剣術の指南をして下さいって言われたぞ」
「やっぱりそれかー、ごめんね」
「ごめんで済むわけないだろ! 俺の騎士道が汚されたんだぞ!」
「馬鹿を言うな! ガイウスのお陰でハインド達数十人は、助かったんだ。誇りに思って良い」
「しかし、俺はまだ……誰とも……」
「心配するなガイウス。ここにいる皆同じだ」
扉付近で立ち尽くすガイウスの肩に優しく手を置き、テーブルへと誘い温かい茶を差し出した。
柴田も交えて俺達は、少し語り合い友情を深めた。
そのついでに、今はミズキ達の元に居るハピアの事も伝えた。
そう言う事情ならと、騎士らしい責任感で嫌がる事もなく承認してくれるガイウスは、まさに騎士の鏡だ。
その後、ミズキ達を呼びに行きガイウスの労を労う為ギルドの酒場へと赴いた。
今日に限っては俺の禁酒も解放して良いとミズキに言われたので、俺は大いに喜んだ。
ガルバ卿の武勇伝を掻い摘んでガイウスから聞いたり、その時の光景を頭の中で想像してはガイウスをからかい笑いあった。
下戸のガイウスは、ハインド達が礼を言っていた旨を伝えると感情を露わに泣き出した。
それを宥めながら、料理を摘み、酒を飲み談笑に浸った。
いつの間にかハピアが寝ている事に気付き、外を眺めると暗がりの中で火が灯っている様子が伺えた。
いつものメンバーが揃うと、つい時間を忘れてしまうのはどうしてだろうな? と、思いながら俺達は宿屋へ戻る。
ガイウスは酒にやられて寝てしまった為、俺がおんぶして連れて帰った。
気持ちよさそうな寝顔を見た後、俺も眠りについた。
更新が遅くなりすみません。
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